疑いと楽しみと
誤字脱字…諦めれ。
朝食を食べ終わると、ヘスさんが何気無く私に聞いてくる。
「僕達はこれから故郷のフローズンバイパーに帰るけど、リエラはどこに向かっているの?」
おお、昨日のアーウィンさんとミランダさんの会話から、多分そうだと思ってはいたのだが、ヘスさん達と私は向かう場所が一緒の様だ。
「えっ…ええっと。実は私もフローズンバイパーに行く途中だったんですけど………その…」
気まずい。どうやら箒で飛んでいるのを、見られていたみたいですし。
有事の際以外で飛ぶのは禁止されてますからね。ハッキリ言うと罪人ですよ。
「どうしたの?一人じゃ無理そう?一緒に行く?」
ヘスさんが私が言いよどんだので、心配そうに聞いてくる。
「ん?一緒に行かない方が、早いんじゃねぇの?」
アーウィンさんが口を挟んでくる。
「あ…ああ、そうですね。アーウィンの言う通りです。飛んだ方が早く着きますからね。………ですが歩いてもここからだと今日の昼過ぎにはフローズンバイパーに着きますが」
いえ…その…そういう事では無くてですね……。
「そうですわね……。でも確実に母体に安全なのは、飛んで行った方が危険は少ないわよね?この辺りに魔獣は少ないですし、危険な野性動物は大体空は飛びませんもの」
ひいっ…。ミランダさんまでもが飛んで行くのに賛成な感じですね。
「じゃあ…飛んで行きますか?」
ヘスさんが首を傾けながら、私に聞いてくる。
いや、だからね?
「あのっ!ご存じとは思いますが、空を飛ぶのは禁止されているので、無理ですっ!!」
「はあっ?お前……昨日は空から降りて来たじゃねぇか?今さら何を言っている?」
「うぐっ……」
アーウィンさんに正論を言われると、失礼ながら心へのダメージが大きい。
「ウフフ……飛ぶのを禁止されて居るのならば、バレなきゃ良いのですわ……」
ミランダさんの片目が妖しく光った様に見えた。
「それはどうやってだ?まさか考えなしに適当な事言ってんじゃねぇだろうな?」
ミランダさんの提案に食いつくアーウィンさん。
何故そんなにミランダさんに喧嘩腰しなのでしょうか?まさか…好きな子ほどいじめたくなるってやつでしょうかね?アーウィンさん……子供じゃ無いので、その愛情表現はいかがなものかと。
「あら、アーウィンは忘れたの?リエラは昨日、自分の姿を見えなくしてたじゃないの」
「あん?…………確かにな。おお、それか!それを使いながら飛べば……」
「あら、やっとお分かり?そうすれば誰に見られる心配も無く、フローズンバイパーまで安全かつ、素早く着くことができるじゃなくて?」
「でもミランダ……魔法を展開しつつ、飛ぶなんて…魔力の消費が凄いと僕は思うけど……」
ヘスさんが疑問を口にすると、ミランダさんは馬鹿にしたように鼻で笑うとこう言った。
「フッ…。リエラはそこら辺の魔法使いじゃ無いのよ?魔術師よ?本人に聞いてみなさいな。大丈夫って言うわよ」
私は一斉に向けられた三人の視線に、ビクッと震えてしまったが、ミランダさんの問い掛けに返事をした。
「………確かに私の魔力量では可能ですが……」
ミランダさんの言うように全然平気だが、何故ミランダさんは断言出来たのだろうか?
何か知っているのだろうか?
どうやら彼女には何かある様だ。
「ウフフ…腑に落ちないって顔をしているわね、リエラ」
しまった!また表情で読まれたかっ!?
「答えは簡単ですわ……私が“元”貴族だからですわ」
「…………“元”貴族ですか……?」
「ええそうよ?情けない話、没落したのよ。没落する前までは、一貴族としての教育を施されていたから、普通の民が知らない事も知っているだけですわウフフ……」
さらりととんでもない過去が出てしまった様ですが、驚いているのは私だけで、アーウィンさんやヘスさんは勿論知っていたのだろう、別段驚いては居なかった。
「えっ…えと……その……あの………」
私はミランダさんに、何て声を掛けたら良いのだろうか?
言葉が見付からず、モゴモゴしている私を見てミランダさんはウフフとまた笑うと、サラッとこう言った。
「リエラ…貴女が私に気を使う必要なんてなくってよ?ただ私の父が悪いことに手を染めたというだけ」
何て事無いように話していますが、目が笑ってません。怖いっ!
「全く不甲斐ない父でしたわ……。あの程度でバレるなど……」
何か確実にあったみたいです。ミランダさんがブツブツ呟いています。
「ウフッ…まぁ私の事はこの辺で。要するにバレなければ問題は無いのですわ?そして私達も特に誰かに、貴女が空を飛んだなどと言いませんし、証拠もありませんからね」
ミランダさんの話を聞いた後では、若干了承しづらいのですが。
戸惑っている私に、ヘスさんが頭を撫でながらこう話してくれる。
「今の君の身体は君だけのものじゃ無いんだよ?安全に越したことは無いんだ…。昨日はじめて会った僕らを信じてとは言いづらいけれど、早く町でゆっくりしてほしいんだ」
うっ…。18歳に諭される58歳ってどうよ?
どうやらラズリエラと記憶や感情面で混ざってるので、気持ちが若さに引っ張られてるみたいだ。
「……うん…分かった………」
結局了承してしまった。
「じゃあまた後でね。お昼過ぎには町に着くから、一緒にお昼を食べようね?待ち合わせはギルドでい良いかな?それと、受け付けに僕の双子の姉のリズが居るから、この手紙を渡して。色々面倒を見てくれると思うからね…」
ヘスさんは私の為に手紙を書いてくれ、後で町で落ち合う約束を取り付けると、「僕達が居ると魔術を使いづらいよね?」と、気を使ってくれて先に出発して行った。
あそこまで気遣いが凄いと、壺よりもまず、彼の頭皮が心配になって来た。将来ヘスさんが禿げないと良いなぁと、余計な事を考えてしまったのは、絶対に本人には内緒である。
小さく「インビジブルウォール」と呟いた後、私は箒に横座りして、空へと飛んだのであった。
空を数分飛ぶと、眼下にヘスさんとミランダさんとアーウィンさんが歩いているのが見えた。
また何かミランダさんとアーウィンさんが口喧嘩している様に見える。そしてその間に止めに入るヘスさん………。変わらない三人に、私の心は軽くなる。
変わってしまうものと、変わらないもの………。
私は北の町、フローズンバイパーで三人に再会するのを心から楽しみにしたのであった。
変わってしまうもの→人の心。
変わらないもの→それもまた人の心。
矛盾してますが、表裏一体だとも思うのです。
勝手に。