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逃亡者のセオリー

一発書き。気が向いたら手直しします。

 抜き足差し足忍び足……。

 こそこそしながら学園寮に舞い戻る私に声を掛けてくる人物が居た。


「あら?貴女は……ラズリエラ様でしょうか?いかがなされましたか?」


 のんびり声を掛けてきたのは、寮母さんのエレニーさんであった。ふくよかな体格のおっとりとした女性で、三年生の学園寮の寮母さんで、皆の善き相談役でもあった。


「……いえ、すみません。体調が優れず、パーティの途中だというのに、戻って参りました」


「ええっ?それは大丈夫なのですか?治療師を呼びましょうか?」


 私の言葉に驚いた様子で、慌てながらも治療師を手配してくれそうになるが、させるかっ!!


「大丈夫です…少々疲れただけですわ……」


「疲れただけ…ですか?確かに貴女は最近食欲が無さそうでしたものね?」


 むっ?気付かれていたのか。まぁ、確かにラズリエラは頑張って隠していたみたいだけど、バレバレだったみたいです。


「はい…。本日はもう休もうかと思っておりまして……。ですから治療師の方に参られるとゆっくり休めないので………」


「そうですわね…。ゆっくりとされたいですわね。何か少しでも体調が悪くなったら魔法で伝言して下さいませ。私は寮母室に居りますので何時でもお申し付け下さいね?」


「有り難う御座います。では、失礼致します」


 ペコリと頭を下げると、調子が優れない演技をするため、足元をふらつかせながら自室へと引き上げていった。

 その私の姿を見ていたエレニーさんは、心配そうな表情で私が寮の中に消えるまで見送ってくれて居た。


 優しい人に嘘を付くのは、やはり気持ちの良いものでは無いなと、思いながらは私は自室までフラフラした演技を混ぜながら歩いた。誰に見られてるかも分からないからね。


 自室にたどり着くと、魔力でもって自室の部屋の鍵を開けた。魔力は一人一人魔力紋という指紋みたいなものがあり、それを使い鍵を閉めたり開けたりが可能なのだ。便利な世界に来たもんだ。


 私は部屋に入るなり、急いで身支度を開始した。

 エレニーさんに見付かったのは、エレニーさんには悪いが手痛い失敗である。私としてはいつの間にか消え失せてしまった…というのを、演出したかったのに。

 まあ、荷物を纏めるのだから直ぐに自分から去ったとバレるのは時間の問題だけどさ。



 さて、と。誕生日に兄が贈りつけてきた魔法のカバンに、今後の生活に必要な物を選別して突っ込んで行く。魔法のカバンは異空間に繋がっていて、その中では入れたものが腐ったりはしないし、物凄い量を収納できるのだ。ただし、生き物は入れられないが。


 贈られてきた当初は、一体何に使用するのだろうと、困惑していたが、こんな時に使えるとは…兄よナイスアシスト!

 まぁ、実際兄も思ってもいないでしょうけどね、誕生日プレゼントで贈ったバッグが夜逃げの役に立つ…などとは。


 服は比較的に地味な物を数点選び、替えの下着を入れる。装飾品なども入れる。若い小娘が逃げるには、元手が必要だ。落ち着くまでは仕事は無いだろうし。


 棚をガサゴソやっていると、ふと手に当たったこれは……ノエルから貰った指輪だった。

 私の脳内から、ノエルからこの指輪を貰った時のラズリエラの喜びなどが沸き上がってきたが、頭を振って霧散させる。


 その指輪は不吉だな。置いて行こう。と、私は思うのだが、手が指輪から離れてくれない。ふぅ…。

 私は小さくため息を付くと、その指輪もカバンに入れたのであった。



 あらかた必要そうな物を入れ終わり、一息付くとハッと気づく。パーティ様のドレスから着替えてもいなかった事に。この格好で夜逃げは無いな。面倒だが着替える事にする。


 両開きのクローゼットを開け、地味なワンピースに着替える。上から黒の魔術師のローブを被ると、立派な不審者の出来上がりである。

 魔術師のローブは一人前の魔術師が着ることを許されるものであり、私も魔術師課程はほぼ取得している。後は学園を卒業して、王宮のお抱え魔術師になり、適齢でノエルと結婚する筈だった。


 父が嬉しそうに魔術師のローブを、私に託してくれたのは記憶に新しい。今年の夏の休暇に実家に帰ると、手招きで私を呼び寄せた父は、私の魔術の成績が他の生徒より飛び抜けて高かったのを、褒めてくれて、母の形見であるこの黒の魔術師ローブをくれたのだ。


 私とラズリエラの記憶は同一で、ラズリエラがとても嬉しく、誇らしげに思っていたことも、私の記憶として思い出すの事が出来るのだが、これから夜逃げをするに当たってその嬉しげな父の顔が雲ってしまうのが、心残りではあった。


 しかし、私の夜逃げはその父や兄達の為にもなるのだと、自身を震い立たせ、部屋の窓を開け放った。


 私の片手には箒が握られている。本来有事の際にのみ使用出来る、魔法の箒が。私用で使ったのがバレたら宮廷魔術師にはなれないな。と、思ったが、そんな自分が可笑しかった。

 もう宮廷魔術師になど、もうなれはしないのだから。


 私は自嘲気味に微笑むと、箒の柄に横座りして、魔法のカバンも柄に引っ掛けて部屋の窓から、夜の空に音もなく飛び立ったのであった。


「う~ん。逃亡者は手始めに北に向かうってのがセオリーよね?」


 北の町フローズンバイパーに向かい進路を北にしたのであった。





ラズリエラの記憶と理恵の記憶は混在しています。妙な所は見てみぬ振りが好ましいです。

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