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inaudible waves そとになにもきこえない世界のなかで私たちは何から逃げる

傾斜機能を備えた何かは、わたしたちのなかにひどく入り組んで

作者: はたかおる

 ねえ、わたしがあなたと出会ったのは、偶然じゃないんだよ。そう、彼に小さな声でこっそり伝えるとわたしは彼の首筋にキスをする。こんなときだって言うのに、彼とわたしは、昨日からずっと、抱き合ったり、キスをしたり、お互いの体のかたちを確かめ合ったり。ずっと、そんな調子だ。

 窓の外では、銃声やら、怒声やら、泣き声やら。何かしかの声が止まない。もう、ずいぶんそんな感じだ。


「僕がここに来てから、ずいぶん色んなものをみたけれど、君たちの世の中ってさ、なんかこう野蛮だよね」

 と、困惑を隠せない彼はわたしにそう言う。けれど、わたしをみてよ。彼を見つめてみる。

「野蛮な風に見えるけど、そう言う役回りの人達もいるってだけなの。わたしがそんな風に見られてたらヤダな」ちょっとかわいく演出してみると、彼は笑って、ヤダなと真似して笑う。もうやめてよ! とわたしは彼の口を、唇で塞ぐ。

 静かに過ぎていく部屋の中。近所の壁の漆喰に、銃弾が当たったみたいな、くぐもった衝撃音が幾つも聞こえたけれど、気にしない。私たちの世界には、全然関係がないのだから。


 世界が終わるとか終わらないとか、ずいぶん古くさいことを言うテレビを笑って、そんなのどうでも良い事じゃん。と、彼に同意を求めると、その視線は彼がそらしてしまう。

「あれ? そう思わないわけ? おんなじ事考えてると思った」

 あれれと、疑問をぶつけてみると、

「いや、普段ならそうだけど、こうなっちゃうとなあ、すこし味わい深いかなあって思ってみたりする」するそうだ。

「そっか。それならそれはそれで」そうだよね。と、指示代名詞をいっぱい重ねてはぐらかす。


 先週末、この世界にいきなり現れた人達は、驚きの顔でわたしたちの世界を見つめた。

「あらやだ。誰あんた達」っていうような、関西のおばちゃんみたいな表情を、誰もがしてた。きっと、軍隊の人達だって、オバチャンみたいな顔をしたんだろう。

 だって、場所を選ばず、いきなりみんなが現れて、近くにいるひとは、新しく現れたその人達とだいたい似ていて。そりゃ、驚く。


 一斉に警察やら、軍隊やら、自衛隊やらなにやら、そういう職業の人達が彼らを拘束しようとしたけど、そんな事出来るわけがないじゃん。ってわたしは思った。わたしたちと同じような人数の、同じような背格好をしたひと全員をどこに閉じ込めるわけ? って。

 で、結局、いきなり現れた彼とわたしは、お互い一瞬で好きになっちゃったわけで、「物騒だし、うち来ない?」とか物騒極まりない提案をわたしもしてしまったわけだ。


 ネットによると、いきなり現れた彼らは、わたしたちの同位体ととかなんとか。

 原子レベルでほとんど一緒な、反物質の反物質で。

 物質は物質と反物質で出来上がっているわけじゃなくて、反物質からすこしずれた反物質の、もう少しずれた反物質と物質と、すこしずれた物質の反物質同士とか、凄く入り組んだ構造をしているんだって話だ。もう何が何だかよくわかんないけど、そう言うマンガみたいな事を偉い先生が主張しているコピペが、わたしたちのお気に入りだ。

 なるほど、それにしてはわたしたち、違いすぎるような気がしないでもないけれど、よく似たもの同士だし、あまり気にしないことにして彼の口の中に、舌を入れてかき混ぜる。

「もう! 大好き」って言いながら。


 横須賀とか、厚木の近所に住んでるおばさんおじさんが、いきなり現れた人達に殺されてしまったらしいけど、悲しんでいてる場合じゃないな。だってどうにもならないもん。ね? って聞くと、やっぱり彼も、ね、って言う。


 この国だから、きっとこんなにのんびりしてられるのかな。って、とりとめなく話をしていると、中国の方でもの凄い虐殺が始まってるとかって言うニュースが流れはじめた。一方的に殺害する方法とかいうのを発見した外国の人達が、いよいよ嗜虐性まる出した。

 そりゃまあ、こっち側のひともたくさん殺されちゃってるけどさ、虐殺ってあんた。

 隣をみると、彼が不安そうな顔をしている。もしかして、ここも危ない? って顔だ。大丈夫とも言えないけど、よほどの災害でも何も起きない国だよ? って教えてあげると、そうなんだ? と、意外なことを言う。だってそうじゃん。


 でも、そのあたりは放っておいて、テレビもパソコンもシャットダウンして、また、わたしたちは抱き合うことにした。もう、何でもありだ。


 まだはじめたばかりだって言うのに、バタバタしてるなって音と雰囲気が玄関の方に感じられてちょっとすると、もの凄い勢いでドアが蹴破られて、黒い服を着た軍人さんがいっぱい入って来るのが、見えた。




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