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4−3 現れし異能の者たち②

「剣を出せ、アラド。始めるぞ」

「もう始めてますよ」


グラーツは右手を、アラドは左手を、それぞれ掌を天に向けて体の前に差し出し、合言葉――実界と虚界を繋ぐためのスペルを詠んだ。

各々、固有の属性に係る略式詠唱を経て、己が(つるぎ)の真名をもって呼び掛ける。


顕現せよ(あらわれよ)…… 劫剣『エヴェレスト』……」

顕現せよ(こい)!! 焔剣『アコンカグア』!!」


召喚と共に虚界より迸る魔力の蒼い奔流(かぜ)が、二人の白銀と濃紺の制服(ユニフォーム)を引き裂かんばかりに煽り立てる。

二つの力の奔流(ほんりゅう)の中心、グラーツとアラドの掌の上で、汲み出された魔力が渦巻くように集約されて、緩やかに虚空を(かたど)っていく。

結晶化した魔力の粒子は、詠唱によって導かれた配列にその身を置き、連なって居並ぶ。

点が線状に、線が鎖状に、鎖が格子状に…………。白色透明の高純度の力の束が、徐々に剣の(かたち)を造っていく。

高密に連なった魔力結晶たちは、やがて、己が力の粒であることを忘れ、完全なる実体を有するようになる。

その頃には既に、人の手で易々と握把(あくは)し得る魔力の剣が、二人の掌にはあった。


「身柄の拘束は俺の天業(ギフト)で行うが、術の展開には少し時間を要する。それまで、敵の逃亡を許すなよ」

「りょーかい。クク、ようやくコイツを実戦で試す時が来たぜ……っ!」


左手に顕現した白い両刃の長剣を、恍惚とした表情で眺めるアラド。


「…………間違っても殺すなよ」

理解()かってますよ。そんなことすりゃ、俺の首が飛ぶ――そうでしょ?」

莫迦(バカ)、俺の首もだ。お前を戦死させるよりも、重い罪を被ることになる。上層部から再三の喚起があった」

「へぇ~。そいつは気を付けねぇと」


アラドはケラケラと薄ら笑いを浮かべた。


「いいか。出来る限り無傷で拘束しろ。連盟側はそれを望んでいる」

「また無理難題を吹っ掛けてきますねぇ、奴らは。――ああ、それでわざわざ隊長を……」

「お喋りはこれくらいだ。展開するぞ」


言うや否や、グラーツは自らの手に握った白銀の大剣を地に突き立て、重い衝撃音を上げてアスファルトが捲れ上がる。

グラーツが柄の端に両手を重ねて乗せると、(つるぎ)の腹に複雑な紋様が、光を放って浮かび上がる。


「隣の女はどうします?殺します?」

「その必要はない。この世界(こちら)の現地人はほぼ全てが非戦闘員と聞く。捨て置け」

「わざわざ生かすとは、お優しいことで」

「この世界への不用意な干渉は極力避けろとのお達しだ。我々の目的は罪人の拘束と連行。それ以外の行為は基本的に認められていない」

「つくづく不便な上に制限の多い任務だな。俺はお偉いさんのわがままに付き合うために、戦士になったんじゃねぇっての」


グラーツは眉を顰めて口元だけで笑い、全くだと言わんばかりに鼻を一つ鳴らした。

そして、天業(ギフト)の封を解くスペルを詠み始める。

と同時に、アラドは剣を片手に勢いよく地を蹴った――




  ⇔




投げ捨てられたローブは、空中で瞬く間に消え去った――ように見えた。

何が起きたかは、遠目で見ているせいか、晴にも分からなかった。


そして、現れたるは、ローブの下に隠されていた、二つの面相。

白と濃い青を基調とした同じ衣服をまとった二人の男の姿がそこにはあった。


20代前半と思しき顔立ちの整った赤茶髪の男と、30代半ばと思われる武骨な心象を受ける黒短髪の男だった。

前者の、右側に立つ男は、秀麗な眉目に剣呑さを覚える笑みを垂らし、切れ長の目を細めて晴たちを注視している。

その奥に潜むぐりっとした大きな目玉は僅かに瞳孔を開かせており、獲物を目の前にした狩人を思わせる。

細身だが、決して痩せぎすではない。長い手足には、体の重荷にならない程度のしっかりとした筋肉が張り付いており、無駄を削り取られた、白兵戦向きの理想的な肢体をしていた。

身長は、隣に立つもう一人の男に比べれば低いものの、標準的な背丈である晴よりも少し高いくらいだろう。

一見した時に、背が低いという印象を受けたのは、(ひとえ)に隣に立つ後者の男が、遠目でも分かるほどの、並々ならぬ上背と隆々とした筋骨の外郭を持つ巨漢であったからだ。

天性的な太い骨髄と、何重にも積み重ねられた分厚い筋肉によって構築された堅牢な骨格。

野良の大男とは完全に一線を画す巨躯は、一枚の大きな岩壁を思わせる。

赤茶髪の男の体がよく(しな)る鞭だとすれば、この黒短髪の男の体は鉄をも砕く大槌といったところか。

こちらの男も、彫の深い顔面の、その奥まった眼窩から目を細めて晴たちを見ていた。



「ねぇ、晴くんが言ってた怪しい人って……」

不安気な琳の声が耳に届く。晴は男たちに視線を向けたままで、それに答えようとはしなかった。

「琳さん、まだ歩けるよね?」

「えっ、あ、うん」

「じゃあ……琳さんは先に逃げてて」

「え……?」

晴は目線を標的から一切動かないまま、その場で立ち上がった。

男たちの目線から琳を庇うように立ち、前に出る。

「さあ、早く」

「じゃ、じゃあ……晴くんは?」

「僕もすぐに行く。アイツらを……追い払ったらね」

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