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2−2 店番と新たな指令

土曜日である今日は、午前中から客の来店がちらほらあった。

客層は20代前半~高校生くらいの女性が大半。

男性客は、恋人や友達に連れられてやって来る者以外はほとんど見ず、店内を周遊する女性客に囲まれていると、晴はどうしても座りが悪い気分になる。

店番を任されるようになってからかなり経つが、女性ばかりの店内で若い男一人が店番、というのは状況から来る居たたまれなさにはいつまで経っても慣れない。

理詠花の店が、ファンシーショップでなくてまだマシだったが、それでも中にはカウンターの晴を怪訝そうに見る女性客もいる。


昼過ぎに来た4,5の女子高校生らしきの集団の中にも、晴の方をチラチラと見ている客がいた。

こんな雑貨屋でいい年の男が店番をしているのが不思議なのだろうか、その様子はまるで小心者の万引き犯のようだった。

万が一に備えて見張っていると、一度だけ目が合った。彼女は驚いたように目を見開くと、すぐに目を逸らして友達の陰に隠れてしまった。

その団体は、結局何も買わずに出て行った。


……自分が店に立つことで、逆に売り上げを下げている可能性があるのではなかろうか。

たまにそう思うこともある。

暇なら暇で苦痛だが、客が多いのも、それはそれで辛い。

“贅沢な悩み……。いや、単なるわがままか。これは……”

文句を言えるような立場ではないことは、いやというほど理解していた。


奇異な目に晒され続けて、長い昼がようやく半分過ぎた頃、

 ガチャリ

家の方の戸が開き、

「何を辛気臭い顔をしているんだ?」

「……理詠花さん?」

小花柄のファンシーなエプロンを身につけた店主が顔を出した。

クールな雰囲気に反して、理詠花の作業着はいつも愛らしい。

理詠花は若干呆れたように、

「晴くん。今や君はこの店の顔にも等しいんだぞ?無理に愛想良くしろとまでは言わないが、もう少し表情を柔らかくするように、意識はしてもらいたいね」

「……そんな顔してましたか?」

「ふむ、自覚なしか」

理詠花は手鏡を取り出して、晴に見せつける。何ということはない。そこには、いつもの見慣れた自分が映っていただけだった。

「まあ君の場合、少々の憂いを帯びていた方が、色が出て良いかもしれんがね」

「はぁ……」

理詠花は時々よく分からないことを言う。


「そんなことより、晴くん、店番ご苦労様。代わろう、ここはもういいよ」

「え?どうかしたんですか?」

晴は礼も忘れて問う。というのも、理詠花は基本的に閉店間際まで作業室に閉じこもって仕事をしており、午後はほとんど店には出ないからだ。

店を閉めるまで、まだ数時間はある。

まさか突然の解雇宣言ではないかと一瞬危惧したが、

「君には店番より大事なミッションをこなしてもらおうと思ってね」

「ミッション?」

理詠花は肯き、エプロンのポケットからガラスの小瓶を取り出して晴に見せる。

「それって例の薬の……」

見覚えのあるその小瓶には、いつもは中に入っている白い錠剤がなく、空の状態だった。

「ああ。切らしてしまってね。ストックがあると思っていたのだが、どうやら最後の一瓶だったらしい」

言うや否や、理詠花はポケットから数枚の紙幣を取り出して、晴の手に握らせる。

「済まないが、新しく買って来てくれないか?晴くん」

「僕が、ですか?」

「ああ、君が。店を開けたまま、私が外に出るのも問題だろう?しかし、店を閉めた後だと、薬屋の方が閉まってしまう。そうなれば、夜に服用する分が無い。それでは色々と困るからね」

理詠花は相変わらず、実に淡々とした口調で説いていく。

「――ふむ。珍しいね。君が露骨に嫌そうな顔をするとは」

慌てて表情を作り直す晴を見て、理詠花は苦笑いを深める。

もっとも、表情以前に、晴が気乗りしていないことなど、理詠花も当然知っているのだが。

「まあ、気持ちは分かるけどね。どうしても行きたくないと言うのなら、無理にとは言わないが?」

「……いえ、大丈夫です。行きます」

晴の承諾に理詠花は「悪いね」と不敵な笑みを浮かべて言った。


晴が店を出る直前、

「そうだ。晴くんは琳の学校の場所は知っていたかな?」

「琳さんの学校ですか?はい、一応」

「そうか。さっき琳から連絡があってね。部活の関係で今日は帰りが遅くなるそうだ」

それだけ言うと理詠花は黙ってレジカウンターに腰掛け、店番モードになった。

理詠花の言意は腑に落ちないまま、晴は店を後にした。

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