0−0 「雪」
――白
私の中に入ってくる情報はそれしかなかった。
私たちの進行を拒むように吹き付ける吹雪。
視界は前も後ろも、右も左も、上も下も、360度全てが白で覆われおり、ごうごうと地響きのように轟く風音の中では、聴覚はほとんど意味をなさない。
納まることを知らずにうねる外気は、防寒着の上からでさえ刺すような痛みを与え続け、足場の悪い雪道を長く歩き続けたことによる疲労は全身を巡り、既に体は感覚をまともに認識するだけの能力を失っていた。
唯一、はっきりと感じられるのは、右手に伝わる仄かな温もり。
握り締めた小さな手からは、息づく生命の暖かさが感じられる。
寒くないか?
私がそう問うと、彼女は黙ったまま首を振って、少し微笑んだ。
――彼女には『トーチ』がある
この魔法に守られている限り、彼女が寒さを感じることはない。
とは言え、彼女はまだ幼い。
その笑顔の裏側には明確な疲れが見て取れた。
私が手を少し強く握ると、彼女もきゅっと握り返して来る。
この子の体力か魔力が尽きる前に、なんとしてでも送り届けなければならない。
この命に代えても。
歩く。歩く。ただ、歩く。
寒さと疲れで朦朧とする意識を揺り起こして、無意識だけを頼りに目的地を目指す。
この歩みを止めるのは、そこに辿り着いた時のみ。
それまでは、この手は決して放しはしない。
一歩ごとに強さを増す雪風の中、私は歩み続けていた。