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魔神様はきれいに滅ぼしたい

エピローグです。おまけつき。


 我は魔神・ガーレット。いまやこの世界の唯一神である。


 魔神教総本山・魔神降臨事変の後、我々はしばし休息を取っておる。


「もうこの手は上手くゆかぬ気がするな…」

 唯一神に溜め息など似合わぬが、あと百年くらいは見逃して欲しいところだ。


「全て私の不徳の致すところでございます…」

 魔神教を使った策を最初に提案したのはアメティスであったな。

 布教方針もそうだが、忠誠も過ぎれば毒である。


「ウチのステキメガネが泣いとるでほんま…」

 ラルダは心魔鏡を使いつつも絶望度メインで見ておったからなあ。

 ひとりひとり何を望んでおるか細かく調べるなど、手が足りまい。


「…魔神ガーレット様ご活躍シーン、全25話に厳選」

 トパス…恐ろしい子。

 我の必滅技全集とか作ってどうしようというのか。

 観賞用、布教用、保存用か?


「まぁよい。考えて見れば我が策は、サフィリア消滅時に一手。世界消滅に一手。まだ始まったばかりではないか」

 むしろ世界消滅に初手であと一歩まで迫るなど、誇るべき成果であろう。


 だが手痛い面もある。

 配下三名中二名の名と顔が売れておるので、隠密活動がほぼ不可能になったこと。

 特にラルダは地上に降りた瞬間に石を投げられかねん。

 というか存在そのものがマズい。


「…ゴーレム、かっこいい」

 ぽちっ

『食らって滅びよ、必滅!豪雷崩壊斬!』

「ぐわあー。ってやめてんかトパス!もうおそと歩けへんやん!」

「ラルダ、主の足手まといになるのであれば斬って捨てますよ?」

「アメティスが代わりに魔神様にやられりゃ良かってん!ウチだけ貧乏クジかいな!」

「すまぬなラルダ。あのときは他に思い付かなんだ」

 うむ、我に滅ぼされたことになっておるからな。


 地上では我ブーム真っ最中である。

 我降臨から地上を去るまで全世界で生中継、大迫力でお送りしてしまった上に、見かけ倒しの偽物だが世界を無に還す技まで披露してしまったのだ。

 運良くその場で目撃して生き残ったものなど一生の自慢話にする気満々である。

 おかげで乾燥肌ぐらい全身痒い。


「…ラルダは力どんどん増えてるから、我慢」

「さいですな!誰かさんが演技とかできへんかったおかげでバンバン憎しみやら恨みやら飛んでくるよってな!」

「トパス、そっとしておきなさい。それより魔神様に希望の祈りが届く件をなんとかせねば、おつらそうではありませんか」

「…ごめんなさい」

 正直ここまでブームになった上に憧れだの希望だのが鳴り止まぬのは、トパスの我儘を聞いて必滅技なんぞ編み出したせいで間違いない。

 しかし最終的にやったのは我であるからして、トパスを責めるのは筋違いというものだ。


「気にするな。我は魔神であるぞ?このぐらい何ともないわ」

 実際はチクチクしすぎて最早げんなりだが。

 こ奴らを思えば、見栄の二、三枚どうと言う事もない。


「しかし、人間どもの熱狂はしばらく収まらぬであろうからな…我はほとぼりが冷めるまでしばらく身を隠す事にする」

「「「魔神様の御心のままに」」」

「うむ。ラルダは我と共に来るがよい。賛美耐性の更なる研究と共に、時間を掛けて名や姿を変えてやろう」

 精神体である魔族の名を変えるなど、慎重にやらねば崩壊してしまうからな。


「ほんまでっか!ありがたすぎて涙出ますわぁ!」

「よいよい。アメティスは地上の監視。人間どもが落ち着くまでの間、役に立ちそうなものを探しておけ」

「はっ、次こそは御期待に沿えるよう尽力致します!」

 …あまり張り切らんで欲しいが、言っても聞くまいな。


「トパスは…そうだな、環境破壊なり人間どもをいじめるなり、好きにしなさい。アメティスの言うことをちゃんと聞いて、うっかり絶滅させないようにな?」

「…ん、気を付ける。アメティス、がんばろ」

「兵器開発でまた巻き込んだら、お仕置きですよ」

 我ももう常温核融合とか電磁投射体の巻き添えになるのはゴメンなので、丸投げである。


 我は空間をねじ曲げ、できる限り人間どもの賛美が届かぬ城塞を造り出す。

 入り口に呼び鈴を付け、アメティスかトパスが鳴らすまでは中でゆっくり研究するつもりである。


 うむ、ラルダしか居らぬというのも刺激に欠けるので、庭園に何か生物でも放つのもよいな。

 秩序のサフィリアが色々やっていたのを思い出す。

 あれの滅びは美しかった。この世界も、滅びる時に美しいと良いのだが。


 我は魔神ガーレット。綺麗に滅ぼしたい、この世界の唯一神である。



 了




ーーーーーーーーー




 私はアメティス。唯一神ガーレット様の一の配下でございます。


 「…アメティス、どうしたの?」

 「貴方にあきれているのですよトパス。我々は何ですか?」 

 「…一応、魔族」

 「れっきとした、正真正銘魔族です!」


 魔族は生ある者の負の感情を喰らって存在する、物理干渉可能な精神体です。

 物理的な要因では傷ひとつ負いませんが、魔力を込めた攻撃や正の感情には弱いのです。


「だというのに貴方ときたら、我が主のご活躍シーンの記録映像をよりにもよって人間の商人に渡すとは何事ですか!」


 これ以上我が主を讚美する人間を増やして正の感情が増大してしまうなど、我が主へのダメージが深刻なものになってしまいます!

 今頃天空城では我が主が絶え間ない痛みに耐えていらっしゃることでしょう。

 ああ、おいたわしや…


「…ついハッとしてやった。今は反省していない」

「反省しなさい!…そのハッとして、と言うのは何ですか?」 


 全く、見た目は可愛らしい少女なのに、なぜここまで残念なのでしょうか。

 何度この子の思い付きでひどい目にあったことか…


「…魔神様は、ヘタレ」

「首を落としますよ?」

「…間違えた。優しすぎる」 


 ええ、確かに我々にはとても良くして下さいます。

 それに地上の者共もあまり苦しめたくないように感じます。

 私であれば、鬱陶しい人間共を虐殺して憂さ晴らしをしない方が難しいでしょう。


「それと映像を流通させることにどんな関係が?」

「…多分、ガーレット様が気持ちよくなる」


 …さっぱり解りません。正の感情は存在を揺るがすのです。特殊な性癖に目覚められる類いの苦痛ではありません。


 トパスは少し考えると、推論を述べ始めました。



◇◆◇


 ん、トパス。ガーレット様の末っ子。

 頭の固いアメティスにいちから順番に説明するの、大変そうだけど頑張る。


「…そもそも、ガーレット様は混沌の神。別に魔に属してる訳じゃない」

「ええ、造物主から秩序と混沌に分かたれたお方ですから」

「…じゃあ何で魔神を名乗ったり、正の感情でダメージを受けるのか」


 正の感情、愛とか勇気とか希望の心って、それがあると世界が秩序に傾きやすい。

 愛が無かったら集団は家族すら作れないし、勇気が無かったら集団を守れない。希望が無ければ集団は纏まれない。

 集まって秩序を守るから、混沌の神ガーレット様にとってダメージになる。正の感情を忌み嫌う神、すなわち魔神。


「そうですね、魔神教信者からのダメージの原因です」

「…逆に言えば、秩序に繋がらなければ信仰されてもいい」

「はぁ…まぁ最後まで聞きましょう」


 ん。頑張る。計画としてはこう。

 まず、ガーレット様への崇拝を《熱狂的》にまで上げる。

 で、唐突に《一番の崇拝者》を決めて天空城に招く。

 謁見したかったら善性の全てを捨てろ、競争して他人を蹴り落とせ、と《混沌へ導く》

 

「…地上は地獄になる。負の感情でガーレット様はパワーアップ。崇拝者は世界滅びろ、原初の無に行きたいと願う。そうでない奴もやっぱり世界に絶望する」

「そしてガーレット様は心地よく造物主の権限を手に入れ、世界は無に還る…」

「…わかった?」


 アメティスが頷く。でも、表情は厳しい。

 あれ、説得失敗?


「…ガーレット様は、優しすぎる。私達が代わりにやってあげるべき。違う?」

「貴方も充分優しいのでしょう。しかし、我が主はただ優しいだけではないのですよ?地上の地獄化などお許しになりません」


 ふっと、表情がやわらぐ。

 

 アメティスの声が今まで見せたことの無い、

 苦いような、

 切ないような、

 それでいて甘い響きを奏でる。


「魔神様は、きれいに滅ぼしたいのですから」


 ん。ガーレット様の望むままに。

ありがとうございました。

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