魔神様は計画を振り返りたい
魔神様奮闘記です。
我は魔神・ガーレット。元は混沌の神にして、今は人間共の崇める唯一の神である。
三人の娘を送り出し、様々な手で計画を進めること約五百年。なかなかに愉快な日々であった。
ダメな子ほど可愛いと言うやつだろうか?
秩序のサフィリアも人間共にこんな気持ちを抱いておったのだろうか。
しばし我が娘達の活躍を思い返そう。
◇◆◇
世界最大の山脈『竜の背骨』。
麓に暮らす人間には、遥か昔に途方もなく巨大な竜がおり、その死骸が大地となった、そしてこの山脈は背骨の部分である、というお伽噺が伝わっていたりする。
まぁそんなわけはないのだが、小規模な竜信仰とも言えるこの話には信じさせる力が背景にある。
「今日もいい日差しじゃのう、婆さんや」
「そうですね、お爺さん」
海抜8000m近辺の急斜面で日向ぼっこをする老夫婦は当然人類ではない。古竜種である。
雲海を突き抜ける高さを持つ『竜の背骨』は、最強種である古竜の住まう山脈なのだ。
そして今、アメティスがそこへ向かっている。我は可愛い部下の初陣なので観戦モードだ。
トパスは膝の上で地雷量産中である…出来れば別の所でやってほしい。
万が一爆発しても効かぬとは言え、あまりいい気分はしない…目の前で風船をひたすら膨らまし続ける罰ゲーム気分である。
「じいさん達は良いよなー。前の長だからって一番美味い日差しのとこ独占だもんなー。俺現役で長なのに毎日亜竜とドツキ合いだぜー?」
「何を抜かす馬鹿息子が。暗黒時代の種族を割った争いに比べれば、知能の低いオオトカゲ相手なんぞ温すぎるわ」
うむ、懐かしいな。
我の顕現直後、サフィリアの仇を討つ決戦派と魔神に種族ごと睨まれたくない静観派でレーザーブレスを撃ちまくり、毎日のように地形が変わっておった。
「まぁまぁお爺さん、彼等も必死なのですよ。私達のように光と風で生きられればいいのですが、亜竜の食べる獣の数が減っているのですから」
「だぜー。殺気立ってるし話通じねーし。草木も獣も病にやられがちだし、魔神とか言うのが出てきてからろくなことねぇわ」
当たり前だろう。
出てきて良いことがあったら魔神ではなく福の神だ。
当然魔神なので疫病くらい撒く。疫病神ではないが。
「つーか魔神とか全然表に出てこねぇし?不意討ちしかしてねぇし?実はよわっちかったりするんじゃねーの?」
あ。こいつ死んだわ。
「…魔神様。アメティスが怒り狂ってる」
「トパスよ、今作りかけの地雷落としたぞ?」
玉座が少し煤けたが、それどころではない。
(落ち着けアメティス!古竜全てを一度に相手取るのは無謀だ!聞こえておるのか!?)
(ええ、我が主の事ならば一切聞き逃しは致しませんとも。称賛であれ侮蔑であれ…フフフフフ)
やだこの子コワイ。
アメティスと古竜の群れの七日七晩に渡る戦いは双方の絶技を尽くした死闘となった。
万を数える光線が夜空を裂いて真昼となり、紫紺の魔力が青天を覆い闇夜となり、山脈は高さを半分に減らし、古竜の死骸が山を築いた。
『竜の背骨』は『竜の墓場』と名称を変え、紫の悪魔の名と共に竜信仰は壊滅したのである。
◇◆◇
「どしたんアメティス!えっらいボロボロやん!?」
「いえ、少し不届き者を成敗しただけです。多少滅びかけましたが、魔神様の為ならどうと言うこともありません」
…忠誠が重い。
「それでラルダ、何故戻ってきたのです?エルフの森を焼くのでは?」
「…じわじわ追い詰める予定のはず」
「あー、それなんやけどな…なんちゅうか予想外でなぁ」
ただ森を焼くだけで失敗するとは思えぬが。
一斉に逃げられて皆殺しにしてしまったのだろうか?
「あいつら全員、ふっつーに燃え尽きてしもてん…逃げるも何もあれへんかってん…」
まさかの逆方向か。
どれだけ自然と一体化しとるんだ。正式名称をエルフ草に変更してやるべきか。
「いや、もう、なんかすんまへん…」
…こうして大樹信仰はごく普通に滅びた。
その後も獣人どもを手玉に取ろうとして発情期以外は色仕掛けが効かぬことに荒れたり。
「ウチの魅力はケモミミどもにはわかれへんねん!」
欲深いドワーフ共の王に言い寄られて心を病んだり。
「ガチのストーカーはあかん…もうどうにもなれへん…」
となかなかの残念振りであったが、色気など要らぬ!と言い出しかねなかったのであれこれと手を尽くして慰めた。
あれこれの内容については、意外と可愛かった、とだけ述べて置こう。
今ではしっかりと人心を操っており、能力と合わせて欠かせぬ人材である。
◇◆◇
そうしてラルダと居るときはアメティスにトパスを預けておくのだが。
「トパス…これは何を作っておるのだ?」
「…精密部品製造機と粒子加速機?」
しばらく目を離した隙に良く分からん物が山になっている。
まさに魔窟。
「…ん。粒子加速機の方は完成。試射する。待避推奨」
「なんやなんや?おもろそうやん。うちにも触らしてー」
「…あっ」
キュボッ!
一瞬巨大な雷球が発生し、何か光の槍のようなものが視認すら困難な速度で天を貫く。
装置の近くに居たラルダの服が炭に…あれはたしか人間共に紛れ混む為の服でかなりのお気に入りではなかったかな。
うっすら涙目である。
「私がトパスと居る間、端で見ていた私がどんな目に逢い続けたか思い知りましたか?」
アメティス…目が死んでおるぞ。
無言の訴えが激しかったので、ローテーションを組んで皆平等に愛でることになった。
大事な事なので二回言おう。
この三人娘は全員二百歳以上である。
この三人娘は全員二百歳以上である!
「…魔神様、どこ見てるの?」
気にするな。
絶壁には絶壁の良さがある、として置こう。
その後もトパスは野放図に兵器を作り、飲み続けると身体の節々が痛んで苦しみ続ける毒で大河を汚染したり、大気の組成を操って太陽の光を有害なものにしたりと大活躍である。
太陽信仰・自然信仰は手強いと思っておったのだが、意外な結果となった。
「魔神様。ちょいとこれ見てくださいな」
「これは…真理の剣ではないか?選ばれし勇者専用武器の筈だが…どうやって手に入れた?」
「いやそれがですな、人間の商人操ったろ思て屋敷に招かれたら暖炉の上に普通に飾ってありましてん」
伝説の剣がインテリアか…あの時代の勇者、浮かばれんなぁ。
「しかもどうやっても抜けへんからって二束三文で買い叩いた上に、前の持ち主は傷ひとつ付かへん便利な棍棒扱いやったそうで」
「ええ、それはトパスが製造方法をばらまいた銃という武器のせいでしょうね」
「…簡単で長射程高威力。今どき真面目に剣を振る人間は居ない」
もはや剣扱いすらされておらんのか。
「しかし勿体ない事であるな。この剣を抜ける者がおれば、アメティスとも互角に戦えように」
「確かに。真理の剣は存在を斬る剣ですから、魔力が少ない人間でも私を傷付けることが出来るでしょう」
「…自動治癒と対魔力障壁付き、多分手こずる」
それが今や鉄の杖ポジションか…世知辛いのう。
ひのきのぼうよりはマシだろうか。
「ま、まぁまぁ、ええですやん。この手の武器が見向きもされんっちゅーことは、うちらを傷つけられるもんがおらへんくなったっちゅーことですから!」
「うむ立派な成果であるな、誉めて使わす。よくやったトパス」
「ん、次は子供でも護衛付きの偉い人を仕留められるよう改良、頑張る」
あー、目が輝いておる。
トパスの瞳の輝く時、そこに被害を受けぬものはない。
まぁ、我々も含めて…
その後しばらく、ラルダの暗躍により重税を課された村人が領主や王を暗殺し、さらにろくでもない政府を立てては首脳が暗殺されるという光景が繰り返された。
民衆は統治者を信じなくなり、生活が苦しい者はすがるものを求めるが、残る神は我しかおらぬという段取りである。
◇◆◇
時は流れ、現在。我に安息を求める魔神教は順調に勢力を拡大し、残す者はあとわずかである。
我は異空間に作った贄の巣に赴く。
自らの赤子や養う者がおらぬ幼子を捧げる者が増えたので、暇潰しにまとめてみたのだ。
「「「まじんガーレットさま、すべてにほろびを!」」」
贄共の舌足らずな挨拶がほほえましい。
耳元で蚊の飛び回る音から鈴虫の羽音程度になったのだから、祈りが多少騒がしくてもここは我慢である。
「全てに滅びを。さて、今回は誰が無に還る番であるか?」
アメティスが贄の巣をうまく回している。
幼子共はみな瞳に光がなく、我の手に掛かるのが待ち遠しいのだ。
教育の賜物である。
ひとりで動けぬ赤子の世話を年長の幼子に任せ、一定の務めを終えた者はより一層滅びを望むのだ。
『育児疲れ』作戦とか何とか言っておったが。
「魔神さま、僕たちはどんな必滅技で滅ぼして頂けるのですか?」
うむ。必滅技。これはトパスのアイデアである。
「畏れ敬うがよい。鉄が消えてなくなり海が干上がるほどの熱で、お前たちは塵一つ残さず滅ぶ!」
「私たちの為にそんな贅沢な滅びを頂けるなんて!」
「ありがとうございますガーレットさま!」
「よいよい。では往くぞ!《必滅!武零素途・豪炎!》」
我は逞しさを表す両腕を上げた姿を取り、厚い胸板から高出力の熱線を放射する。
海が干上がったりはしないが、鉄を蒸発させるぐらいは余裕である。
あまりの熱に幼児共は影も形も残さず、この世から消滅した。
仕上げに《目》の向こうを意識して演説である。
「苦界を生きるものよ、原初の無で会おう!全てに滅びを!」
生放送は終了である。
何故このようなことをしているかというと、トパスが「魔神様がかっこよく滅びを与える姿を見せれば人間はイチコロ」と言うので人間の里に映像を流してみたのだ。
そううまく行くか?とも思ったのだが、予想に反し我を崇める者、我に滅びを願う者がどんどん増えている。
人間というのは良く分からんな…雰囲気に流されやすいのだろうか?
「今回も素晴らしい内容でございました、我が主」
「こちら地上ですわ。魔神様人気はとどまるところなし、ちゅうとこですな」
「…魔神像もよく普及。ゴーレム製でここを押すと魔神様の声で喋る。新技が出ても対応する。完璧」
ぽちっ
『必滅!流洲斗・大竜巻!』
「ああ、まぁよい。トパス、あまり遊ぶな。色々とまずい」
ラルダの暗躍により人間共は生かさず殺さず、他を力で抑えようとする者は配下の蟲共により密かに消えてゆく。
魔道具の眼鏡に判別の力があるようだ。
絵本『まじんガーレットとちつじょのサフィリア』を始めとする書物・吟遊詩人・舞台演劇などにより、すがる神は我以外に居らぬこと、原初の無は安らかであり目指す場所であることはもはや常識となっている。
『メディア戦略』は劇的に作用している。問題があるとすれば…
ぽちっ
『必滅!魔神・噴炎飛翔拳!』
「次の必滅技はどんなものが良いであろうか…」
そう、ネタ切れである。
魔神様は異界の知識にお詳しいようです。次話、魔神降臨。




