魔神様は部下と企てたい
二話投稿。三人娘登場です。
我は魔神・ガーレット。サフィリアが滅びて約二百年である。
相変わらず生ある者共は秩序と混沌の間で魂を揺らめかせている。
我は造物主の遺した玉座からそれを眺め、もはや居らぬ者達に思いを馳せる。
おお、地上から三つの魔の気配が。
「「「ガーレット様、貴方様の僕が戻りましてございます」」」
む、いかん。二百年もぼーっとしておったので、名を忘れた。
《ああ、貴様ら…何という名だったかな…》
天上界に激震が走る。
「魔神様!御言葉を静めて頂けますか!なにとぞ!」
「ちょ、か弱いうちらにその仕打ちはひどいですわ」
「あ…消えちゃう消えちゃう、存在が」
いかんいかん。
こやつらを作って以来あまり喋る事をしておらんので、うっかりしておった。
人間共も一週間ほど口を利かんでおると、雑貨店の会計時にしくじったりするであろう?
あれと同じだ。
《うむ。アメティス、ラルダ、トパス。よく戻った》
しっかり名付けを直しておく。
魔族は肉の痛みより精神の揺らぎの方が危ういのだ。
「「「ありがたき幸せにございます」」」
よしよし。
はて、最近は何語が流行りであったか?
サゴル帝国もシルビン王朝も亡びたしな。
これがジェネレーションギャップという奴か?
魔神ならではの悲哀であるな。まあ念話でよい。
「報告を聞こうか。何かこれと言う物はあるか?順に申せ」
「はっ」
紫のアメティス。
手本にした人格が近衛騎士で、忠誠心で型を取ったような毅然とした美女である。
スタイルも整い、なかなか愛い奴だ。
「恐れながら。下界では魔神様を讃える宗教が発生しております。贄を捧げ、自らの欲を満たす為に信者を集めております」
知らんな。贄も届いておらぬぞ。
「ほう。して、どうするつもりだ?」
「この宗教を世界的に広め、邪教と罵る者は影ながら排除。ゆくゆくは魔神様を造物主とし、誰もが喜んで魔神様に命を捧げるよう誘導致します。さすればあとはなんとでもなるかと」
いや、待たんか!
なぜこいつは我を敬う以外の道がないのだ!
よく考えてものを言え!
「それでは全世界が我を救い主と見てしまうではないか!苦痛とは言わんが、不快極まりないぞ!」
人間共で例えよう。
耳の周りで蚊が飛び続けるくらいの不快さ。
しかも少く見積もって数百年。
正直に言ってツラいわ!
「し、しかしガーレット様。全世界の意思あるものが希望を寄せたその時こそ、御降臨頂いて絶望に叩き落とす絶好の機会ではありませんか?」
「うむ…」
くっ。理に叶ってはいる。
が、そんな場所に降り立つのは自ら裸足で画鋲を踏みに行くようなものだ。
大したダメージにはならんが、だからこそかなりイヤだ…
「アメティス、任を与える。まずは古竜種を殲滅せよ。奴等は宗教など信じぬ」
「はっ、仰せのままに」
ふう…古竜どもはなかなかやるからな。
先伸ばしとも言うが。
「それが済めば親に赤子を贄にさせ、罪悪感によって後戻りの道を断つよう仕向けるのだ」
「素晴らしい策でございます!ご下命慎んでお受け致します!」
うむ、少子高齢化を進めると同時に軽く病でも撒けば、程よく数が減って画鋲から芝生のチクチクくらいにはなるであろう。
ほどほどにがんばれ、アメティス。
◇◆◇
「さて、次はラルダ、申せ」
「はいな」
碧のラルダ。
元は間諜、暗殺者の類である。
たれ目がちで、魔道具でもある眼鏡をかけ、だらけた雰囲気の女だ。
しかし妖艶さも兼ね備え、大国の王でもその毒に抗えまい。
「各地に隠れ里構えとる長耳ども、芋づる式にあぶり出しましてん。寿命だけは長いんで、まーだサフィリア様サフィリア様~ゆうてますわ。どないします?」
「エルフ共か…忘れておったな。よくやった、誉めて使わす」
奴等は魂の揺れが極端に少ない。
生涯を懸けて自然と溶け合う生き方をしておるので、植物と見分けがつかんのだ。
踏んだことにも気付くか怪しい。
「そうだな、里ごとに逃がさぬよう囲いこんで、あれらの森を焼くのはどうだ?」
「お、ええですな。もちろん?」
「うむ。消そうとするものから炎に巻き込み、生きる気力を無くした者は焦土に残すのだ」
「ですな。ま、行く先は他の隠れ里しかあれへんで、なーんべんでも同じことしたりますわ」
ラルダは分かっているな。
魔とは恐怖と絶望を与えてこそ。
搾り取り、伝染させ、希望や反抗心を取り上げる。
魂を家畜のように扱い、間違っても勇者など育ててはならんのだ。
「期待しておる。遊びすぎて取りこぼしを出してはならんぞ?《目》を遣わす。始めるときは知らせよ」
「任されましたわ。特等席で御覧になって下さいな、我が主。ほな失礼します~」
こやつらの核をいちから作るのが面倒だったので適当な人間をモデルにしたのだが、やはり頭の出来や性格は多少左右されるな。
次があれば素材から吟味しても良いかもしれぬ。
◇◆◇
うむ、やはり手を抜いてはいかんな。トパスが良い例だ。
「…ガーレット様?」
「あー、そうだな。お前なりに考えて、こうしたらいいんじゃないかなと思った事を言ってみなさい」
あの時は中々まともな魂が無かった。
ヒャッハーヒャッハー叫ぶモヒカンを飼う気は起こらぬし、発想力を求めておるのに柔軟性の足りぬ老人では役に立たぬ。
三体目はもう目についたので良いかと思ったのだ。
生まれたてのひよこ並みだが。
「…水爆、たくさん?」
アウトォ!
だからそれだと人類が滅びて次の知的生命誕生までひたすら暇なんだってば!
具体的には五十億年くらい!
しかもゴキブリが地上の覇者になった場合潰して回らねばならんし!
あやつら異様にたくましいからなぁ。
「いいかトパス。できるだけ長く苦しめなさい」
「…?」
「どうしようもない、どこにも逃げられない。そういう苦しめ方をすれば、絶望する人間が増えて世界を消す力になるかもしれないんだ。一生懸命考えなさい」
「…はい」
むう、親というのはこういった感覚なのだろうか。
我は秩序のサフィリアが女神の姿を取ったので、鏡写しとして男神で落ち着いたのだが。
父親について観察しておくべきだったか?
とりあえず膝に乗せてみる。
やはり小さいな。
しかし自壊しそうな危うさを内包しており、とても愛らしい。
魔に属する者として、破滅の香りは好ましいのだ。
しばらくして、トパスが口を開く。
「…えっと、地雷をたくさん埋めるのは?」
「ほう?どうしてかな?」
「…えっと、足がちぎれたら、嫌な感じかなって。それに、外に出るのがこわくなるかも」
うむ。人間共の戦でかなり有効ではあったな。
魔族には祝福が掛かっていない限り効かぬので無駄極まりないが。
「…あと、人間はご飯を食べないと死んじゃうけど、畑の中でドカンってなったらご飯かドカンか選ばなきゃいけないし。きっと凄く困る」
なぜそこまで。
周囲ではいかんのか?耕されていたら注意深く元通りに埋めぬとすぐばれるような気もするが。
我は人間の兵器に詳しくない。
まぁどうせ我々魔族には時間がたっぷりある。
それに愛らしいトパスが兵器について語るとき、その破滅的な美は最大に発揮されるのだから、どうして止められよう?
これが親バカと呼ばれる現象なのだろうか。
「よし、ではトパスは地雷の作成と埋設に当たれ。人間共の作ったものとそっくりに作れば、人間共は疑心暗鬼に陥るだろう。くれぐれも埋めているところを見つかるんじゃないぞ?」
「…はい。気を付けます」
心配だなぁ。うっかり皆殺しにしないだろうか。
「他にも人間共の兵器の使い道がないか考えて置いてくれ。アメティスは全て己の力で進める気でおるし、ラルダは裏から事を起こすタイプだからな。トパスが頼りだ。頑張れよ」
「…はい!頑張ります!魔神様の為に!」
おお、トパスが燃えている。
やる気があるのは良いことだ。
あの時死にかけていた小娘を使って良かった。
近くでバラバラになっていた人間共も、今のトパスを見れば自ら首を差し出すだろう。
三名が去った後、我は研究に入る。
讃美歌や希望の心対策(魔神用)の研究である。
人間共は耳栓や厚底の靴で良いだろうが、魔神はそうは行かぬのだ。
「しかしなんというか、みみっちいのう…」
いや、細かい積み重ねが大事な筈だ。
…多分。
魔神様はちょっとビビリなようです。次話から隔日投稿。




