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とりつきがたり  作者: 仁野久洋
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秋葉原は、どの世界線にでも存在する

 多くのものが、白昼堂々幽霊に取り憑かれるとは思うまい。新兵衛は幽霊少女、澄の奇策に見事にはまったことになる。当の澄にその意図があったのかどうかは分からないが、これは兵法家として由々しき事態だった。新兵衛は家名に泥を塗らないためにも、澄に取り憑かれた事実を隠匿しなければならないのだ。が。


「お前、幽霊なら姿を消したり出来ないか?」

「さぁ? やったことないので分かりませんっ」


 では、澄は今までどこにいたのだろう? 新兵衛とて、木の上に人らしき影があればさすがに気付く。疑問には思ったが、今はさしあたってすぐにやらなければならない事がある。「ちょっとやってみてくれないかな? このままじゃ」と、新兵衛が言いかけた時だった。


「うおわっ! 人が宙に浮いてるぞ!」

「つーか、透けてんじゃねぇかよ!」

「あれって柳生の坊ちゃんじゃん! 何を普通に話してるんだ!」

「きゃあぁぁぁ! お、お化けぇー!」


 街道は阿鼻叫喚に包まれた。旅人は荷物を抱えて慌てて逃げた。腰を抜かす者、逃げ出そうとして転ぶ者、悲鳴を上げて気絶する者。道沿いの民家に土足で上がり込んで隠れる者。不思議な呪文を唱える者。不気味な踊りを踊る者。〈そうび〉する事を忘れていたと気付いて慌てる者。「いよいよ、俺の因果がうずきだしてきやがった」と意味不明な事を呟いて、なぜか右腕を押さえる厨二の者。「空飛ぶ着物美少女キタコレ――!」と叫んではぁはぁと喘ぐ者。その反応は様々だ。驚き方のバリエーションとはこんなにあるものなのか、と新兵衛が思わず感心するほどだ。


「わー。賑やかですね、街道はっ」

「いや、普通はもっと静かだぞ」


 白昼堂々現れた幽霊は、人々にこれほどのインパクトを与えるものだ。怖がるばかりではなく闘争本能の疼く者や、偏った性的趣向をつい爆発させた者もいたが……、まぁ、これは特殊な例だろう。彼らの子孫は、おそらく名のある萌絵師になるか、異能バトル物のライトノベル作家になるか、一部のコアなユーザーに絶大な支持を受けるようなギャルゲを開発するんだろう。秋葉原にアツい行列を作り出す因子は、この頃からちゃんと存在しているのだ。それがシュタインズ・ゲートの選択である。どの世界線であろうとも、フェイリスニャンニャンさえいれば大丈夫だ。もし万が一のことがあろうとも、アトラクタフィールドの干渉により、世界は必ず収束する。だから超安心するがいい、愛すべきキモヲタの消費ブタどもよ。

 当の澄はたくさんの人を見るのが珍しいらしく、ウキウキと辺りを眺めている。周りは大騒ぎになっていたが、新兵衛はもう気にしないことにした。とにかく城には帰らなければならないのだ。隠そうにも手遅れだ。この幽霊、人を驚かせはするものの、危害を加える心配はなさそうだ。これなら、犬猫よりもよっぽど安全に違いない。そう思うと、さっきの話が気になった。


「ところでお前、俺を取り殺したりするつもり?」

「え? そんなことしませんよっ。私、ただ成仏したいだけなんですもんっ」

「ですもんて。それならいいけど、なんで俺に取り憑くの?」

「いや、なんか吸い寄せられちゃって。えへっ」

「えへっとか。お前、もう死んでるわけだろ? なんでそんなに明るいの? 俺、ぶっちゃけそこが一番怖いんだけど」


 考えてみるとそうだった。幽霊とは、成仏出来なくて世を彷徨うものである。その理由は現世への心残りがあるからだと言われている。たいていが恨みや憎しみといった負の感情によって引き起こされる悲劇である。すなわち、明るい幽霊など存在理由を求めるのが難しい。新兵衛は、すぐにそのことに気づいていた。


「はぁ。なんでと言われても、そういう性格だからとしか答えようがないですよっ」

「お前、生前って超適当に生きてない?」

「なんでですかっ。それってちょっと失礼じゃないですかっ」


 澄はぷくっとほっぺたを膨らまし、きーっと怒って新兵衛の頭をぽかぽか叩いた。が、所詮は肉体のない身である。新兵衛の頭には、ふよふよとそよ風が当たっているような感触しか伝わってこなかった。


「……それにしても、おかしいな……」


 澄にぽかぽかと叩かれながら、新兵衛は帯に提がる紫の袋に目を落とした。〈命石〉の入った袋である。


「もう、聞いてるんですかっ。……あれ? その袋って、なんですかっ?」

「これは……。え? お前、〈命石〉を知らないの?」

「〈命石〉?」


 澄が首を傾げた時、二人は柳生城の大手門前に立っていた。



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