崩壊 前日 3
「あれ? どうして急にこんな・・・」
公一はあわててほほに流れる涙をぬぐう。
恥ずかしい・・・。
「はい、これ」
「え?」
公一の目の前に、あやねからのハンカチが現れる。花柄で綺麗なハンカチだった。
「いや、いいよ。大丈夫」
「いいから」
あやねは公一の手を取り、その手にハンカチを握らせる。
「使って」
公一はあやねの目を見る。いや、正確には視線が自然と合った。
澄んでいて綺麗な目だ。何者にも汚されていない。いや汚されようのないような目をしている。その目が今公一に逆らうことができない視線を向けてきていた。
公一はハンカチを顔に寄せて、涙をむぐった。そのときに鼻腔に甘い香りが掛かる。
「ありがとう。これ洗って返すよ」
少しして、涙は収まった。
「うん。わかった」
気が付けば、あやねは先ほどハンカチを渡したときに近くによってからそのままである。つまり、2人の距離がぐんと物理的に近づいた。
公一はできるだけその事実を気にしないようにする。
あやねは何も聞いてこなかった。どうして泣いたのか。何かあったのか。そもそも、どうしてここに来たのか。など、どれ一つ聞いてこなかった。
それは公一には今すごくありがたかったと同時に、先ほどの自分の誤ちを今になってものすごく悔いていた。
人には軽々しく聞いてはいけない部分がある。それはどれだけ距離が近くなろうともだ。
今、公一とあやねは近い。だが、本当の距離はこの距離の何倍もの遠さがあるのだ。
「草津川は進路どうするの?」
公一はできるだけ、明るく聞く。
何せ先ほど、不覚にも泣いてしまった身だ。空元気と思われてもできるだけ雰囲気を変えたかった。
「うーん。そうだなあ、ある程度は決めたかな。森君は?」
あやねも公一の思いを感じ取ったのか、乗ってきてくれた。
「俺は成績良くないからある程度決まってるようなもんだよ。多分、北高に行くと思う。家からもチャリで通える距離だし」
「そうなんだ。私立はどこ受けるの?」
「私立は、適当にみんなと同じところかな。大高か、城高だと思う」
「ふーん。そうなんだ。私は、多分白金に行くと思う」
「え、マジで?」
白金、それはこの近辺でも有名な女子高だ。学力もさることながら、お嬢様学校として有名である。だから、学費もかなりなはずだ。あやねは先ほど父子家庭だといっていた。母子ではないので、家自体はそれなりの家なのか。まあ、あやねのお父さんだ。かなりのエリートなのだろう。と公一は思った。
だが気になることもある。
「草津川は白金に行きたいのか?」
白金は中高一貫校だ。高校から入るのは珍しい部類になるだろう。
あやねは、少し黙る。
「私はね。できればみんなと同じことろに行きたいの。でも白金の理事の一人と、私のお父さんが仲が良くてね。将来のことを考えて私を白金に入れたいらしいの。もうほとんど決まってるんだって」
「そうなんだ」
「うん。一応試験は受けるんだけど、多分それで落ちることはないと思う」
いやゆる裏口入学というやつか。いや、おそらくちゃんと受ければあやねなら、試験をパスすることは簡単だろう。あやねの学力が高いのは学校でも周知の事実だ。
だが、問題は、試験のよしあしに関わらず入学が決まるという点。つまりレールがもう敷かれてしまっているということだ。
公一は、空を見上げた。ある程度、都会だからほとんど星なんて見ることはできない。まるで、今の公一とあやねの気持ちのように暗い。
でも、そこには月があり、少なくとも小さな星が数個ではあるが一生懸命に輝きを放っている。
公一はあやねの中の月にはなれずとも、端で小さく輝くあの星になりたいと思った。
やばい崩壊するする詐欺ですね。
なんか、書いていると伸びてしまいます。でも、確実に崩壊はしますので、よろしくです!
しかし、次回更新がいつになるのやら・・・。