崩壊 前日 2
「そ、そうだね」
公一はパニックに陥っていた。
公一は横目で、チラッと右隣に座るあやねを見る。
ああ、かわいいなあ
川の表面から跳ね返された、街並みのイオンの光が照らすあやねを見て、公一は思う。
「九月って言ったらさ。もう秋なんだなって気持ちになるけど、全然暑いよね」
公一はあやねを見る、あやねは公一に向かって、にこっと笑った。
そこで気が付いたが、あやねは今タンクトップとショートパンツを着ている。
「そう・・だね」
公一は、あやねから視線を逸した。
「草津川は、どうしてここに?」
公一は、自分の中のよくない思いをなんとか押しとどめて、あやねを見て言う。
だが、何か話題をと必死に考えた結果が、おそらくあまり良くない問いかけになってしまった。
「ええ、それは乙女の秘密だよ?」
はうっ!
公一の胸は張り裂けそうになり、自分でも動悸が激しくなるのを感じる。
「え・・いや・・・」
「もう、森君はエッチだね」
「いや、別にそんな変なことを聞くつもりは・・・・」
公一は口ごもる。
やばい、何か言わないと・・・。
「えっと・・・何かあったの?」
「・・・・・・・」
その問いかけは、なんとなく出たもので、特に深い意味があるものではなかった。だが、普段の彼女を影ながら見守っていた公一だからこそ出たものでもある。
今のあやねは、いつもに比べて明るすぎたのだ。その違和感を公一は少なからず感じていた。
あやねは、川に映る風景を見る。
公一は触れてはいけないものに触れてしまったのかと、自分の不用意な発言を悔いていた。
「少しね・・・」
短い沈黙があける。
公一はあやねの次の言葉を待つ。
「嫌なことがあったんだ・・・」
また、待つ。
「お父さんにね彼女ができたの。私の家は、父子家庭だし、相手の女の人のことは好きだから、全然いいんだけど、私はそれが今になって、お母さんに対する裏切りだと感じてしまったの。それでね。お父さんと喧嘩しちゃてね。家から出てきちゃった」
あやねは、そういい微笑む。
公一にはその笑顔が、悲しそうに見えた。
あやねが父子家庭だったことは知らなかった。おそらく、学校の誰も知らないんじゃないかと、公一は思った。
公一も川の風景に視線を落とす。
あやねの気持ちがすべて理解できるとは言わない。だが、裏切りに感じたという言葉には、何か共感できるものが公一にはあった。
そこで、公一は実感する。
自分の母親が出て行ったんだということを・・・。
そして、先ほどまでの自分がまだ実感していなかったんだということも理解した。
「森君・・・・?」
「え?」
「どうしたの?」
気が付けば、公一は頬に冷たいものが流れるのを感じる。
久しぶりの更新です。
よろしくお願いいたします。