崩壊二日前 2
キーコーンカーンコーン
放課後になった。
今日はゲーセンに行こうという誘いはなかった。公一以外の皆が今日は用事があったからだ。
公一は、一人で行こうかとも思ったが、昨日ならいざ知らず。今日は別にやりたい気分ではなかったので、大人しく家に帰るという選択を取ることにした。
公一は一人で階段を降りていく。
南棟の三階と二階が三年生の教室が占領している場所である。
公一は、その中でも三階の教室である五組であるので、階段を二階分下りていく必要がある。特に、帰りのときにはこれに苦労することはないが、遅刻寸前で登校してくる生徒にとっては、これは死活問題である。まあ、公一は遅刻寸前で登校してくる生徒ではないので関係のない話であるが。
階段の踊り場からは、窓があり、校舎裏を見ることができる。
といっても、特段それを意識して降りる生徒はいないだろう。
公一もその一人であったが、このときだけ、公一はその外を見ながら階段を降りていた。
そのとき、ある人物が視界に入ってくる。
(草津川?)
もう一人いる。
(と・・・沢村?)
2人は校舎裏で2人きりだ。
このとき公一にはある言葉が脳裏をよぎる。おそらく、これは彼だけでなくても誰でも脳裏に浮かぶものであろう。
このシュチュエーションであれば・・・
(告白か・・・)
とうとうこのときが来たのか。
公一はそう思った。
いずれ来るとは思っていた。
草津川に彼氏ができるということが・・・。
なぜか、彼女には浮いた話がなかった。誰かと付き合ったという話も聞いたことがない。
しかし、告白されたという話はたくさん聞く。
では、なぜ彼氏ができていないかというと、その答えは一つだけだろう。
好きな人がいる。
それ以外に考えられない。
そして、あやねの好きな人は沢村であると公一は思っていた。
否、それしか考えられなかった。
沢村はいいやつである。それは小学校から同じ公一にはよくわかっていた。
現在、沢村はサッカー部のエースである。よくチアが彼らの応援に行っている。
成績も良好で、あやねと双璧をなす人気者が沢村だ。
いわば、あやねと釣り合うことができる男子は、この学校には彼しかいない。
そして、一番大事なことは、沢村もあやねのことが好きだということだ。
これは、本人から直接聞いたものではないが、サッカー部の人がそう話していたのを公一は聞いたことがあった。
(これで、すっぱりとあきらめられる)
公一は、彼らの行く末を見るようなことはしない。
目でちらりと見て、そのまま去ろうとした。
そのとき
あやねと一瞬目が合う。
公一はすぐに目をそらす。
(なんで、こんなときに・・・)
公一は急いで階段を降りる。
そして、こう決めた。
(今日は、ゲーセンにいこう!)
- - - - - -
「はあ、疲れた」
公一は一人ごとを言う。
彼は今、自室で、一人ベッドの上で寝転がっている。
ゲーセンには、二時間ほど一人でいた。今月のお小遣いをほとんど使うほどに・・・。
自分が思っているほど、ショックを受けているみたいだ。
「ふー」
大きくため息をつく。
別に気にしても仕方がないことだ。
以外と自分があきらめの悪い男だということに、多少の自己嫌悪に陥りつつも立ち直る。
トントン
襖がノックされる。
「はい」
「ご飯よ」
「わかった、すぐに行くよ」
公一はゆっくりとたちあがり、リビングに向かう。
その夜は、今年で一番寝付きが悪かったのはゲームのしすぎのせいだろう。