崩壊三日前 2
「公一、今日ゲーセン行こうぜ」
「ごめん、今日は家の用事があるんだ。また、今度誘ってよ」
「マジかよ。お前がいないと、あの、ステージクリアできないんだよなあ」
「ほんとごめん。今度埋め合わせはするからさ」
放課後になり、それぞれの人間がそれぞれの、個人の用事、集団の用事などで教室を出るもの、出ないものに分かれていく。
その中で、公一は個人の用事にで動くものに属するものなので、友人との会話を終えた後、一人で教室をでる。そのときに公一は、ふと、自身の思い人である草津川 あやねの姿を一瞥した。
彼女は現在友人と楽しく会話をしているところだった。彼女は中学校ではめずらしいチアリーディング部に所属しているこの学校のマドンナ的な存在である。なので、公一以外にも彼女に好意を持っている人間がいることを公一は十分に周知していたし、この恋が叶うことではないこともそうであった。
しかし、一人でに眺めるようなことぐらいは、自分で自分に許可を出していた。多少、家にいるときにいけない妄想を彼女を通してしてしまうことくらいは許して欲しい。それが、彼の偽らざる思いであり、このような思いを抱く自分に自己嫌悪を抱いてしまうのも事実であった。
公一は、彼女が、壁で見えなくなるのと同時に視線を前に戻す。それがいつもの習慣である。
(はあ、今日は、ストレス発散のためにゲーセンに行きたかった。)
公一の家は古本屋を経営しており。今日はその本の整理の手伝いを頼まれていた。彼のストレスとは、勉強であり、彼の成績はよろしくない。つい、一週間ほど前にあった、夏休み明けのテストでも、二百人中、百五十番という数字で、それまでの努力を裏切る展開となり、かなり気分が沈んでいた。その中での家の手伝いである。気が沈むのも仕方がない。
(本が家にいっぱいあるんだから、よく本を読むんだろう?)
この言葉は、仲良くなり始めの人間にテンプレートのように言われた言葉である。別に家に本がたくさんあるからといっても、その息子が全員本をよく読むわけではない。むしろ、どちらかといえば嫌いである。あのかび臭い匂いが、公一は得意ではなかった。
しかし、いいこともあるにはある。これはおそらく公一だからいいことなのであるが、よく彼の古本屋に、あやねが来るということだ。当然彼に会いにきているわけではない。なんでも、好きな作者の古本が公一の古本屋に多くおいているらしく、彼女は一週間に一度ほど来ていた。
(まあ、そこは親に感謝かな。)
公一は、そう思い。今度、彼女はいつくるのかと期待に胸を膨らませ、家までの帰路を足取り軽く変える。