崩壊三日前
「明日世界が終わるとしたら何をしますか?」
今日のオリエンテーションの題材はこれにします。とこのクラスの担任であり、国語の教師でもある水沢京が発表すると、生徒たちは多少抵抗したものの、話ているうちに楽しくなってきたらしく、クラスはすぐに盛り上がっていった。
「それでは、班に分かれて話し合いをしてください。その後それぞれの班の総括を行ってもらい、最後に全体で話合いをします。じゃ話し合いの時間は15分にします。」
すると、その言葉に従いみんな班ごとに机をくっつけ始めた。このクラスの委員長の男子代表沢村旬と、女子代表草津川あやねの二人は京に進行を任され教壇に向かった。二人は進行担当で話し合いには参加しないらしい。少し残念だなと森 公一は思った。彼はあやねに淡い恋心を持っている。
「森、お前どうするよ?」
「どうするって?」
「明日世界がなくなるとしたらだよ。話聞いてたか?俺はセックスしてーな。童貞のまま死ぬのはやだからな。」
公一がぼーっとしていると、後ろの席に座っていて机をくっつけたので今は隣の席にいる山辺一郎が話しかけてきた。
「なんだよ。それ。そもそも、なんで死ぬ前提なんだよ。世界が終わるイコール人が死ぬわけじゃないだろーよ。」
「いや、死ぬだろうよ。世界が終わるんだからさ、もしその瞬間は死なないとしてもそのうち死ぬだろうさ。」
「なるほど。」
「じゃなくて、なんかないのかよ」
公一がさらっと流そうとするが一郎は引き下がらない。
「そんなんじゃなくて」
そもそもそんなに仲良くないのに、なんでコイツこんなに聞いてくるんだ。一郎がなかなか引き下がりそうにないので、公一はめんどくさがりながらも答えることにした。
「うーん、そーだな。悔いを残さないようにするかな。」
「たとえば?」
(告白とか)公一はそういいそうになりながら、なんとか止めた。公一は誰にも自分に恋についてはなしたことがないのだ。もし深追いでもされたらボロが出てしまうかもしれない。
「好きなもの買うとかかな。ゲームとか。」
「だな、俺もだ。俺は最新のPO2買う。そして、最後のときまでする。」
よかった。森は共感を求めていたらしい。要は彼の求める回答を用意すればよかったわけだ。後はさらっと流すだけだ。
「セックスするんじゃなかったのかよ」
「それもする。いっぱいする。」
「忙しいやつだな」
すると、周りが少し笑った。俺たちの会話を、俺たちの近くにいた人たちが聞いていたらしい。最後の会話が見事ボケとツッコミになったようだ。森も気づいたようで、笑うなよー、と恥ずかしそうにしていた。その空間に俺も心に暖かい風が吹いたように、やさしい気持ちになった。