はじまりはカエル
はじめまして。
拙い文章と内容ですがよろしくお願いします。
何処かにある不思議なとある王国で――――――
夜明けを迎えた王宮の東、別棟へと続く長い渡り廊下をいつものように颯爽と歩く若い男性が一人いた。
両側ガラス張りの窓からは燦々と輝く朝日がたっぷりと射し込み、肩下まであるその男性の銀髪を眩しいくらいに反射させていた。容赦なく降り注ぐ日差しは男性の金色の瞳には強過ぎるせいか億劫そうに端整な顔を歪めると日光を避けるように足早に廊下を後にした。
男性の名はレインフォール。通称レインと呼ばれている。
彼の毎朝の日課は起こしに行かなければいつまでも眠り惚けている主人を叩き起こす事。レインの一日はそれから始まるのであった。
レインは主人がいる部屋に着くなり、三回強めのノックをしてから大きく第一声を張り上げた。
「ルナ! 夜が明けましたよ、起きてますか?」
辺りはしーんと静まり返り一向に返事はなかった。予想通りの反応なのでレインはそのまま部屋の中に入ろうとドアノブへと手を伸ばす。
――――と、その直後、毎回爆睡していて反応すらない今朝に限って珍しく慌ただしい主人の返事がドア越しから返ってきた。
「今朝は具合が良くないから入ってくるな! 一人にしてくれ」
レインは内心耳を疑って驚いたが主人の声が何だか落ち着きがなく焦っている感じだったので眉を寄せて扉に顔を近付けた。
「具合が悪いのですか! それなら中に入って様子を伺っても?」
「い、いいから今日はもう下がっていい! 大した事はない。一日寝てれば良くなる。案ずるな」
「そんな訳にはいきません。貴方様に大事があっては私の責任ですから」
レインはそう言って勢いよく部屋の扉を開け放って押し入った。
「あ゛っ!? こらっ!! 入ってくるなと言っただろ!」
慌てふためき声を張り上げる主人を無視して、レインは隣にある寝室へと強引に踏み込んだ。
「一体どうしたというんですか?」
寝台を覗き込み掛布を捲くってみるとそこに居るはずの主人の姿は見当たらずもぬけの空だった。レインは目を見開いて直ぐに辺りを見渡した。
「……ルナ? 何処にいるんですか?」
しかし返事はない。レインは焦ってもう一度声を掛けた。
「ちょっとルナ!? どういうつもりですか、返事をして下さい。何処に隠れているのですか!!」
しばらくの沈黙の後、寝室をくまなく見渡していたレインの耳に弱々しい言葉が聞こえてきた。
「――――俺なら……ここにいるぞ……お前の目の前に座っている」
「は? 目の前に……? 何を仰っているんですか、鏡台しかありませんけど――――」
「だからここにいると言っているだろ!!」
レインは混乱しながら言われるがまま鏡台がある場所を隅々まで注意深く見渡した。視線を左から右へゆっくり動かし端までいくと今度は右から左へ折り返した。目に入ってきたのはどれもいつも通りの物が配置してあって、別段変わった気配はなかった。ましてやそんな狭い空間に人がいれば直ぐに気づく筈である。
視線の先にあるたくさんの香水の瓶や香を焚く銀製の器、カエルのぬいぐるみに花瓶等、もう一度丹念に確認していく。その行動を何回か繰り返していったレインはふとある違和感に気が付いた。
「あれ……? 香水の瓶に香の器……それにカエル…………え゛っ!? カエルのぬいぐるみ!!??」
その直後、突然手の平サイズのカエルがピョンと飛び跳ねて喋りだした。
「ぬいぐるみではない!! 俺だ。ルナファルドだ、バカ者!!」
レインは思わず腰が抜けそうになるくらい驚愕してピシッと固まってしまった。やがて硬直すること数秒、金縛りから復活した彼は盛大に叫び声を上げた。
「えええ゛ぇぇ――――!! ま、まさか、そんな……本当にルナ王子なんですか!! そんな馬鹿な! 悪い冗談はやめて下さいよ! 何で王子がカエルなんですかッ!!」
目の前で飛び跳ねてるカエルを慌てて取り押さえたレインはパニックに陥って喚いた。
「ぐえっ! 苦しい! こらっ放せっ!! それはこっちが知りたい!! 朝起きたら既にこんな姿になってたんだ! 何なのだ、これは! どうなっているんだ! 何とかしてくれレイン!!」
部屋の中は騒然とし清々しい朝には似合わないどんよりとした悲壮感と悲痛なカエルの叫び声がこだました。