第1章 1.初日
第1章 1.初日
バスタブに張られた湯に身体を沈める。
気持ちいい。
全身から疲れが抜けていく感じ。
空港でシオリとシオリのお父さんが出迎えてくれた。
そのまま車でこれからお世話になる木下家のお家へ。
木下家はお父さんとお母さん、それにシオリとシオリの双子の兄のトモヤの4人家族。
シオリはイメージ通り、とても元気が良くて明るい。
出会って最初の一言は
「ナータリー♪」
だった。
でもテキトウな所も割りと多い。
シオリは髪の色が黒くて、肌も日本人らしい色。
トモヤは髪も肌も白かった。
目も細くてシオリとは真逆のイメージ。
口が少し悪いかなぁと思った。
その日一日は自己紹介で終わり。
今はお風呂を頂いていた。
楽しい毎日が始まりそうで良かった。
でも、やらないといけないこともある。
「観ておこうかな」
閉じた瞳を開けて、街を見下ろす。
違和感があった。
「見えにくい……。プラハじゃないから……?」
この街だと半径100メートルくらいしか観えない。
この力はプラハの街でこそのものなのかな。
土地によって通常以上の効果を発揮するものもあるから。
視点を切り替える。
両手でお湯をすくって、水面に映る自分を見つめる。
魔術を使うと瞳の色が変わってしまう。
いつものグリーンの瞳。
でも今はダイヤモンドみたい。
異様な瞳……。
人といるときは気をつけないといけない。
私の魔術はどこまで制限されているのか疑問に思った。
私が主に使う魔術――。
1つ目、街を見下ろす魔眼――。
この街では半径100メートルまでに制限されていた。
2つ目、ソロモンの小鍵に記述された悪魔の力の施行――。
72柱の悪魔の紋章を一つ一つ幻視していく。
紋章を描き魔力を通す。
発動する一歩手前で紋章をかき消す。
大丈夫、全部使えそう。
3つ目、未来観測――。
視点を変える。
現在から数多の未来がクモの巣状に広がる。
大丈夫。
ちゃんと見える。
4つ目、未来確定――。
観測した数多の未来の中からひとつを選択できる。
使用するにはルールが多いけど最も万能な魔術。
確認のために有りえそうにない未来を選ぶ。
今は晴天。
雨雲が集まって5分後に雷の音。
――ゴロゴロと音が聞こえてきた。
うん、大丈夫。
確認を終えてもう一度街を観る。
今度は別の違和感があった。
この家の周りにも、道路にもところどころ薄い黒い影が見えた。
なんだろう?
しばらく見詰めてみたけど、何なのか分からなかった。
街を観るのを止めて、天井を見上げる。
私がやらないといけないこと……。
日本にある占術協会で見つけられた異常――6月以降、この街の未来は一切存在しない。
誰かがこの街を未来から切り離したって聞かされた。
詳しいことはよく分からないけど。
私の仕事はこの異常を先に解決して恩を売ることだって言われた。
「魔術師はみんなドライ……。みんなでがんばればきっと簡単に解決できるのに。
……私は、そうなりたくない…………」
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考えないといけないことは多そう。
この街に施された魔術のことも、黒い影のことも。