プロローグ
プロローグ
「観ていますか?」
「うん。駅前の銀行。強盗が3人。拳銃を持ってる」
横に立つ組織の男の人に返す。
小さな頃から街の至るところを観ることができた。
おかげでこういう仕事を任される。
「まずは警官の方々に任せましょう」
「うん」
強盗の1人が女の人を人質に取って銃を頭に押し付けている。
残りの2人はお金を袋に詰めている。
しばらくして警官が銀行を取り囲んだ。
強盗の人達はみんな入り口の方を向いて怒鳴っている。
魔眼を使い続けたせいなのか今では声や音まで聞こえる。
裏口から警官が入っていく。
静かにドアを開ける。
強盗の人達に銃口が向いた。
観たくない。
けど、観ないといけない。
人はよく傷つけ合う。
だからこの仕事はきらい。
人質に突きつけていた銃が正面の入り口に向く。
パン、パン、パンと乾いた銃声。
強盗の2人に命中。
お金を詰めていた1人と人質を取っていた1人が倒れた。
突然、よく慣れた感覚が走った。
この感じは……!
「魔力。呪文詠唱。銃口に魔法陣展開。術式、銃弾変化、追尾」
「魔術師ですか」
隣に立つブルーの瞳の男の人が小さく叫ぶ。
「近くに組織の魔術師は?」
銀行の近くを見渡す。
魔力を持つ人間を探す。
「いない」
「そうですか。魔術を行使して構いません。あれを止めて下さい」
「分かった」
単なる束縛の魔術。
どれにしようか一瞬考えて決めた。
初等の魔法陣を強盗に重ねて幻視する。
「止まって」
呟く。
強盗の詠唱が止まる。
一切の動きもできない。
乾いた銃声。
警官の銃弾が肩に当たって手にした拳銃が落ちて、その後崩れた。
魔法陣を消して、観ることも止めた。
「終わった」
「そうですか。お疲れ様です。ところで、今日は珍しいことをしましたね」
「うん。でもやっぱりこうなった」
2年前、10才のときに男の人に会った。
とても優しい人だった。
ナタリアには膨大な魔力があるから魔術の完成に力を貸して欲しいと言ってきた。
もちろん、うん、と頷いた。
その魔術は未来を確定させるというものだった。
僕と母さんしか使えないんだと言っていた。
その人は5秒先まで、お母さんは10秒先までの未来を選べると言っていた。
私の場合は1時間だった。
その人は満足していなくなった。
それ以来、私は未来まで見えるようになった。
やっぱり私は人の言い争いも観たくなかったから、観なくてすむ平穏な未来を選び続けた。
でも、平穏な毎日が続いたせいで、もう大丈夫なんじゃないかと思って、未来を選ばないでみた。
そうしたら銀行強盗。
やっぱり人は傷つけ合うんだ。
「そういえば懐かしいですね。あの人に会いたくはないですか?」
「どうしたの? でも会えるなら会いたい。聞きたいことがある」
もしも会えたら、どうしてこの魔術を完成させたかったのか聞いてみたかった。
「それなら彼を探しに行ってみては? 協力しますよ」
「そんなことして大丈夫?」
ブルーの瞳の男の人が縦に頷いた。
でも会えないことは知っていた。
そんな未来は見えなかったから。
でも、そうだな。
あの人が生まれて育った日本という国に行きたいな。
どうしてそう思うかは自分でもよく分からないけど。
***
それから数日後、私は会議室の中を観ていた。
初老の男の人とブルーの瞳の男の人が言い合っている。
「あれがどれだけ重要か分かっているのか!」
「まあまあ。上手く利用すれば日本に恩を売ることができますよ。それに、あの子に勝手にいなくなられるよりも、手綱は繋いでおいた方がいいでしょう」
あなたが言ってきたことなのに。
演技なのかな。
なんとなくだけど、きっと私はこの人に利用されていると思う。
でも何がしたいのか分からない。
どんな未来に向かっているのか見ようとしたけど、強い加護に邪魔されてこの人が強く関わる未来は見えなかった。
「あの男め……、余計な魔術を教えおって。あれはただ観るだけでいいんだ!」
私はこの人が嫌い。
私を物みたいに扱うし、いつもあの人のことを悪く言う。
それから1時間くらい言い合いをして、私は日本に行けることになった。
未来を見る。
今日から4月までの半年間、ホームステイ先の女の子と何度もメールでやり取りをする。
女の子はとても元気ですごく明るい。
名前はシオリ。
私は初め戸惑っているけど、その子の考え方や感じ方に惹かれてく。
そして私はその子に会うことがとても楽しみになっている。
そんな未来が見えてちょっと驚いた。
今までこんな未来は見えなかったんだから。
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……早くシオリに会ってみたい。
でも不安もある。
4月の未来、5月の未来。
見えるのはここまで。
行く先のその街に6月の未来は存在しなかった。