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00   大災害後のナカスにて




 結論を言えば、全てはソウジのせいだ。


 俺が〈大災害〉に巻きこまれちまったのも、湿気た煎餅味の食い物しかない異世界でサバイバルするハメになったのも、ミナミで賞金首にされて逃げ回るハメになっちまったのも、それで何度も何度も死ぬような思いをしたのも、ついでに空が青いのも郵便ポストが赤いのもキレンジャーがカレー大好きなのも、全部アイツのせいだ!


 ほんと嬢ちゃんたちには、心の底から感謝してるぜ。瀕死の状態で海に浮かんでいた俺を拾って助けてくれなきゃ、今ごろ俺は海の藻屑よ。


 もちろん、あのままくたばっても俺たち不死身の〈冒険者〉はすぐに復活するけどよ、その復活先は最後に登録した街の大神殿……つまり、ミナミの街に逆戻りだ。それじゃ何のために必死で逃げてきたのか、判ったもんじゃねえ。


 君ら“ナカスのアイドル”は俺の天使だ……いや、天使を超えた大天使か……!


 ――ん? 『ソウジって誰だ』って?

 ああ、君らは〈エルダー・テイル〉始めたばっかの初心者だったっけ。それじゃあ知らねえのも無理はないか。


 ソウジロウ・セタ。

 職業クラス〈武士〉(サムライ)にして〈剣聖〉。

 数年前に突如として現れ、数々の伝説を築いた凄腕プレイヤー集団〈放蕩者の茶会〉の元メンバーで、現在はアキバの街の冒険者ギルド〈西風の旅団〉のギルドマスターだ。


 そのギルドメンバーは、年下の妹タイプから年上のお姉様タイプに熟女人妻、明るく元気なボーイッシュ系スポーツ少女もいれば高貴な深層の令嬢タイプもいるし、他にも口うるさい眼鏡の委員長にツンデレ女、隣に住んでる幼馴染タイプにメイド、エトセトラエトセトラ、おっぱいサイズだって巨乳貧乳爆乳微乳なんでもござれ、とにかくありとあらゆる属性の女が揃いに揃った、右を見ても女、左を見ても女、とにかく女、女、女……と女だらけな上に、たまに男がいたと思ったらアイツのケツを狙ってるガチホモだったりするような恋愛フラグ満載のハーレムギルド!


 そんな冗談みたいな超絶ハーレムギルドをアキバ有数の戦闘系ギルドとして統率する、モテモテだとかリア充だとか、そんな安易な言葉で片づけられるようなスケールを超えたケタ外れのチート野郎にしてハーレム体質男で、無数の伝説的エピソードで知られる超有名プレイヤーで、そして――


 ――そして、俺のかつての相棒だ。


 そのへんは話せば長くなるが……そうだなァ……。

 雨、止みそうにもねえ感じだな。


 こんな日に、わざわざ濡れて出かけるほどの用事も無けりゃあ、こうしてギルドハウスで大人しくしてるしかなくて、みんなヒマをもてあましてるみたいだし……それなら、ちょうどいいかもな。


 この世界は娯楽に乏しいからなァ。パソコンも携帯も無いし、本もゲームも無い――いや、『ゲーム』なら〈エルダーテイル〉があるっていやあるんだろうが……モンスターと戦うのも、素材集めてアイテム生産するのも、こうなっちまったら『ゲーム』じゃなくてただの日常生活で、娯楽でもなんでもねえもんな。


 まッ、俺的には君らみたいな可愛い女の子に、こうして囲まれてるだけで充分満足で、これ以上の娯楽はいらないっていうか……あ、すいませんごめんなさいそんな冷たい目で一斉に見つめないで……ら、らめぇー!

 

 あー……オホン。まあ、なんだ。


 君らナカスの街のギルドは、ありがたいことに俺みたいなミナミの落ち武者どもを受け容れてくれてるみたいだけどさ。素性の知れない余所者がうろうろしてるのは落ち着かない、ってのも事実だろう?


 この俺、“赤き疾風”ことルーグ・ヴァーミリオンがどういう男なのか。

 君らの信頼に足る男なのか。


 そいつを見極めてもらって、ナカスの街の仲間として認めてくれるっていうのが、互いにとって理想的なんだろうが……自己紹介っつっても、誕生日はいつで血液型は何型で趣味に特技に好きな食べ物は――みたいな、通り一辺の自己紹介なんかしたって、そんなもんに意味はねえよな?


 ――ン? 話が繋がってないって? いやいや、それが繋がってるのさ。


 『俺がどういう人間なのか?』って問いへの答えと、『ソウジって誰だ?』って問いへの答えは、ほぼイコールだからさ。


 俺にとって――より正確には、〈エルダーテイル〉の世界の〈冒険者〉である“赤き疾風”のルーグ・ヴァーミリオンにとっては、この世界で過ごした時間の大半に、アイツの――ソウジの存在が関わってるんだからな。


 もっとも、かつての相棒ってのは事実だとしても、今じゃアイツは無数の伝説を築いた超一流の有名プレイヤーで、〈大災害〉後のアキバの街を統治する〈円卓会議〉の一員で――

 一方の俺はといえば、ゲーム時代はとうとう最後まで一流になれなかったつまらんプレイヤーでしかなかったし、〈大災害〉の後もいろいろ失敗しまくった挙句に首に賞金までかけられて、命からがら逃げ出してくるようなどうしようもない男で――『相棒』って言えるような対等の立場だったのは、過去の話でさ。

 ほんと、改めて比べてみると、明暗くっきり分かれちまったって感じだな、ハハッ。


 ――おッ、差し入れかい? こいつはありがてえ。この細やかな心配り、大和撫子の鑑だねェ!

 こうしてだらだら喋ってるだけでも、喉は渇くし、腹も減る――そんなわけで、そこのおにぎり、1個もらってもいいかい?

 いやあ、実はさっきから小腹が空いててさ……じゃあお言葉に甘えて、いっただっきまーす、っと!


 ッかぁぁ~~ッ!! うめぇぇ~~ッッ!! なんだろうな、この感動はよ!

 炊いた米を三角形に握っただけの物体が、こんなにも美味いなんて、俺ァこの世界に来るまで知らなかった!

 まともな味のついた食べ物を腹いっぱい食える、そんなかつては当たり前だったことが、どれだけ貴重で、どれだけ感動的なことかって……ヒャア、たまんねえ!


 ああ……死にかけてたところを助けてくれたばかりか、こんなに美味いメシを毎日3食おやつつきで出してもらえるなんて……君ら“ナカスのアイドル”は俺の大天使だ……いや、大天使を超えた女神か……!


 ふぅ……。じゃ、腹具合も落ちついたところで、そろそろ開演と行こうか。


 ナカスの女神様をはじめとする皆々様の退屈を紛らす娯楽と、自己紹介に情報提供を兼ねまして、俺様こと不肖ルーグ・ヴァーミリオンの〈エルダー・テイル〉昔語り、お時間拝借ってね!


 まッ、そんな大した話でもないから、面白半分にでも聞いてくれよな。




こんなに面白くて豊かな作品を、世界を、無償でポンと与えてもらったことの恩返しがしたい……そんな漠然とした思いを、どうにか自分なりに形にできないものかと試みてみました。

一次創作である本編では書かれなかったこと、書かれないであろうことなどを、二次創作のフットワークの軽さを利点として、独自に掘り下げていけたらいいな、と思っています。どうぞよろしくお願いします。

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