ギルド登録
ギデオン師の部屋を辞した後、ラーシュに言われた通り、受付へ向かう。
来た道を引き返しただけだが、あやうく迷子になりそうだった。
廊下が薄暗いのがいけないのだ。そうに違いない。
先ほど案内してくれたラーシュがいたので、そこでギルドの登録をしてもらうことにする。
「セレストは以前のところでも魔術師ギルドに登録していたんですか?」
羊皮紙を1枚差し出しながら、ラーシュが聞く。
「はい、こちらに来る時に脱退届を出してきましたが」
「でしたら、詳しい説明はいらないかもしれませんが、一応規則ですのでお話しますね。
この“東の砦”の街の魔術師ギルドは、現在構成員が600人ほど。この中には教授や修行中の弟子、真語魔法を使えない雑用係も含みます」
600人か。
もっとも、冒険者を中心に実際のところはもう少し多いのだろう。
ギルドの援助が全く受けられなくていいのなら、登録しなくても罰則も特にないのだし。
「長は“紅き天空の怒り”のロッテ・ヴェルター師。
ロッテ師はギアス平原の戦いの英雄でもあり、9年前の蛮族の大侵攻では塔の戦闘の指揮も執られました」
歴戦の勇者だ。私も名前くらいは聞いたことがある。元冒険者で、その髪色のせいか、放つ魔法が赤みがかって見えるとか。髪色のせいで放つ魔法に色がつくはずはないと思うのだが。
とにかく、素晴らしい魔術師なのだ。二つ名を持つくらいだから実力があるのは勿論だが、軍としての魔術師を動かす将軍としての才もあるのだろうと思っている。
同じ女魔術師としても憧れるところだ。
「構成員は月々決まった金額をギルドに納め、ギルドは知識や情報、施設の提供、仕事の斡旋などを行います。まあ、例外もありますがここでは省きます。セレストには関係のないことですし。
ギルドに納めるお金は、月に50セト。それとは別に加入時には500セトいただくことになっています。あと、どなたか師匠につく場合の謝礼は各自で師匠に支払っていただきます。その点はギデオン師と相談してください」
頷く。それは何とか労働に替えてもらった。
「月々の納入金は、ギルドが認めれば労働や他の品物で支払うことも可能です。
どうされますか?」
こちらでも書写は認められそうな気はするが、止めておく。そんなことをしたら本当に冒険者の仕事ができない。
「いえ、お金で支払います。替えられそうなものがありましたら相談します」
1トリンは1000セト。加入金は高いが、月々の納入金はなんとかなるだろう。
向こうでもそうだったから、これは仕方ない。
「例えば、長期間留守にするなどで月々支払えなかったときはどうなりますか?」
冒険者をしたら、数か月単位で留守にすることもあるかもしれない。
「その時はまとめて支払っていただけば結構ですよ。
できれば前払いをしていただけると助かりますが、後払いでも結構です。ただし、支払がない場合はギルドの施設が利用できませんので気を付けてくださいね」
図書室が使えないと書写をすることができない。支払いを貯めないようにしないと。
でも、後でいいなら、長期間留守にしたときは、その後にここに来て、払うという形でもいい訳だ。
「それから、1年間、支払いも連絡もない場合はギルドを脱退したとみなされますのでご注意くださいね。
1年以上経過した場合は、新規加入の手続きをとらせていただき、もう一度加入金を支払っていただきます」
逆に言うと半年留守にするなら、一度脱退した方がいいのだろうか。
「そうですね、半年単位で納入金免除許可がでますから、その時は相談してください。
冒険者の方は結構利用していますよ。アクシデントに遭われて、手紙で免除許可の申請をされる方もいますね。
ただし、その場合も1年間連絡がなければ脱退扱いですからね」
納入金免除はいずれ利用するかもしれないから覚えておこう。
「構成員には、納入金のほかにもいくつか義務が課せられます。
ひとつめ、住まいと連絡先をギルドに届け出ること。
セレストは冒険者ということですから、定宿と世話役を教えていただきます」
まだ決まっていないというと、決まったら連絡すればよいとのこと。
羊皮紙の2つの欄が空欄のままとなった。
「旅行や仕事などで街から出る場合にも届け出が必要です。
受付に言っていただけばいいので、必ずお願いしますね」
冒険者としての仕事の前後には必ず塔に報告に来ないと行けないのか。
少し面倒な気もするが、どちらにしても、冒険者としての仕事がない時は、書写をしに塔に来るだろうし。
「ふたつめ、万が一のときにはギルドの指示に従って防衛戦に参加すること」
これは“東の砦”の街ならではだろう。なるほど、さっきしつこいくらいに所在の確認を言っていたのはこのためか。
「ただし、冒険者の分担は砦の壁になるでしょうから、そちらで戦いに参加することは認められるでしょう」
確かに、塔にだけ魔術師が集まって、そのほかの場所にはゼロなんてことは、有り得ない。
そんなことは起きないで欲しいものだが、これまでの蛮族の侵攻の様子を見ていると無理なんだろうな。
その他こまごまとしたことを聞いて、550セトを支払い、最後に私の名前を書いて手続きは終了した。
判ってはいたが、痛い出費だ。
ギルドの構成員であることを示すピンは、名前を彫るため3日後に取りに来るように言われた。ラーシュのものを見せてもらうと、塔と魔術師の象徴である杖がデザインされたものだった。このピンが50セト。ピンと交換で支払えばいいとのこと。
何というか、もう泣きそうだ。
「そうそう。
ギルドは基本的に夜明けから日没までです。
受付業務や各出入り口はその時間しか開いていません。それ以外の時間に出入りする場合は太陽の塔の街側の通用口を使ってください」
「通用口、ですか?」
「そこですよ」
ラーシュが指す先には人ひとりが出入り出来るほどの小さな扉。
私が先ほど入ってきたところの脇にあった。
「あと、次に来たときにギルドの施設を案内していただきたいのですが、どなたに頼んだらいいでしょう?」
「時間内に受付に来ていただけば、私がご案内しますよ。
ここ数日は他に大きな仕事もありませんから」
そう言っていただいたので、お願いすることにした。
「よろしくお願いします」
ずいぶんと軽くなった財布を持って、塔を出た。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
やっと塔パートがいったん終了です。