魔術師の塔
新しい師匠の名前が2転3転しました。
名前で苦しんだ割には、まだでてきませんが……。
私は魔術師ギルドへ向かう道を、のんびりと歩いていた。
午後も夕方近い時間で、通りは活気にあふれている。
とはいえ、“南の交易都市”のそれとは少し雰囲気が違う。
あちらの活気は商人のもの、こちらの活気は戦士のものだ。
あちらは商人の街だけあって、派手なことも好きだったが、一種ののんびりとした空気があった。
一方、こちらは冒険者や騎士、傭兵が多いし、商人や神官でさえも、いざとなれば武器をとって戦いそうな雰囲気がある。物騒な街というのではないが、見た目よりも中身を重視する堅実さは感じる。
“東の砦”の街に着いたのは昼前だった。
門を入ってすぐの広場でキャラバンが解散し、護衛の私たちはそこで報酬をもらった。
私は、サミュエルたちに魔術師ギルドの場所と「金の雲雀亭」の場所を教えてもらって別れた。
魔術師ギルドは街の北にあった。
別名「魔術師の塔」と言われるように3つの高い塔がそびえたっている。
サミュエルが「絶対に迷うことはない」と言うのも納得できる。
あの高さなら、街のどこにいても見えるだろう。
私は、ギルドからほど近い宿屋で新しい服に着替えてからギルドを訪れることにした。
第一印象が肝心というし、長旅で埃まみれの姿ではあまりに失礼だろう。
サミュエルに教えられた通り、中央の他のふたつより僅かに高い塔を目指す。
入ってすぐのホールは2階分が吹き抜けになっており、広々としていた。
正面に大きな机があり、そこが受付らしい。
魔術師というと偏屈で愛想などとは無縁のイメージがあったが、迎えてくれたのは生真面目そうではあるが、好感のもてる笑顔の青年だった。
「ようこそ、『魔術師の塔』へ。
今日はどういったご用件で?」
「こんにちは。
セレスト・モニエと申しますが、ギデオン・エンフィールド師に師事すべく、参りました。
師にお会いしたいのですが、ご都合を聞いていただけませんか?」
師匠に頂いた紹介状も一緒に渡す。既に話はついている、と師匠が言っていたので、断られることはないと思うのだが。
「お話は伺っております。
ギデオン師の部屋にご案内しましょう」
青年は、他の職員に席を外す旨を伝えると、案内をかってでてくれた。
私よりも少し年上だろうか。服装からすると魔術師らしいから、彼もギルドのメンバーなのだろう。
「申し遅れました。
私はラーシュ・ソランデル。ラーシュと呼んでください」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。
歩きながら、少しこの魔術師ギルドの話をしましょう。
ギデオン師の部屋はこの『太陽の塔』にあります。
ちなみに他のふたつは『月の塔』と……?」
「『星の塔』ですか?」
尋ねるようにこちらを見るのでそう答えると、正解だったらしい。ひねりはないけど、判りやすくていい。
「その通り。
ちなみに命名は、この塔の創始者です。
そうそう、この街で『塔』といえば、魔術師ギルドを指しますから覚えておいてくださいね。
この『魔術師の塔』はこの街の北の守りとして造られました。
ほら、そこに街の北門が見えるでしょう?
北門から入ってすぐに北の広場。そして、それを取り囲む「魔術師の塔」。
北から入ってきた者は、我々の目をかいくぐって街の中へ入ることはできません。」
石造りの3つの塔は3階部分から下はすべて繋がっており、北の広場をぐるりと取り囲んでいる。
「広場の方から見ると壁のようでしょうね」
「この『魔術師の塔』は侵入者に対する壁ですからね。
通路は、塔と塔の間の2か所のみ。広場側から塔に入れる所もありません」
「いざという時は、広場に侵入してきた敵に魔法の攻撃を雨のように降らせる訳ですね」
接近戦が苦手な魔術師らしい戦闘方法だ。
ラーシュは、よく出来ましたとでもいうよりににっこりと笑った。
「街ができて以来、北からの侵略を許したことがないのが塔の誇りです。
でもまあ、他の門もここほどでないにしろ、しっかりと守られています。
東は傭兵団が、南は各神殿が、西は騎士団がそれぞれ守りを固めていますからね。
それぞれの守り方を比べるのも面白いですよ」
それは、分析・考察が好きな魔術師らしい意見、というべきだろう。
「そういえば、西門から入りましたが騎士の姿を多く見かけました」
だが、あれだけという訳でもないだろう。
確かに、余裕ができたら考えてみてもいいかもしれない。
話を聞きながら階段を上り、廊下を進む。
階段も廊下も、小さな窓が多く並んでいる。
その向こうにあるのが広場ということを考えると、換気や明り取りのためではなく、いざという時にはそこから目標を確認して攻撃するためだろう。
そう考えれば、1階の広場側に窓がない理由も、2階の広場側の窓が高い位置にあったのも防御ゆえだろう。
そんな話をしているうちに、ひとつの扉の前にたどり着いた。
多分6階くらいだろう。これを毎日上り下りするのは大変そうだ。
まさか、魔術師が運動不足になりがちだから、こんなところで体力をつけさせようという訳ではないと思うが。
いったん外で待たされ、ラーシュが先に入り、すぐに出てきた。
「さあ、どうぞ。
あ、帰りにもう一度受付に寄ってくださいね。
魔術師ギルドへの加入手続きを行いますから」
「はい。
案内、ありがとうございました」
ラーシュにお礼を言ってから、扉の中に向かって深々と礼をする。
「失礼します」
言いながら、ギデオン師の情報をほとんど教えてくれなかった遠くの師匠に、心の中で盛大に文句を並べてしまったのは、まあ、仕方のないことだ。
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