“東の砦”の街へ(1)
「いえ、一番はやはりハモロギだと思うわ」
「ハモロギ? 確かに効果は高いですけど、下処理に手間がかかりすぎて、大量に用意できないんじゃありませんか?」
「手間? 乾燥させるだけならそんなにかからないでしょう?」
「それだけでいいんですか?!」
「あ、いや、やっぱりひと手間はかかるかしら……」
あれから2日。次の町までは何事もなければ3日の距離だ。
私は2台目の馬車の横で薬草談義に熱中していた。いや、むしろ、形としては一方的に教えを受けている、の方が正しいのかもしれない。
4人チームの紅一点、弓使いのエルフであるクローディアは冒険者になる前は薬師という経歴の持ち主だ。実家も村で代々薬師をしていたという筋金入り。本音を言えばすぐにでも護衛をやめて、薬草についてたっぷりと教えを請いたい。そのくらい彼女の知識は豊富だった。私も師匠のところでかなり知識をつけたと思ったけど、やはりエルフは森の民。さまざまなところで違いがあり、それが興味深い。
「おい」
彼女のチームのサミュエルに声をかけられて、視線を前に向ける。
前方の茂みに何かが潜んでいる。馬に乗って視界が高くなった分だけ彼の方が早く気づいたのだ。
「左右の岩陰にもいるわよ」
「左に4、右に3、でしょうか」
「惜しい、左に5、右に3ね」
「前に4で合わせて12だな」
小さくつぶやくと、サミュエルはアーロンさんの許へ報告に行った。
アーロンさんの方もきっと気付いてはいるんだろうけど。
私たちも、その間に馬車を停めさせ、戦えない人たちを荷馬車に隠し、その周りを囲む。
その辺は指示を待つまでもない。
相手はゴブリンと呼ばれる蛮族だ。1体ずつは大して強くないが、集団だと少し厄介だ。
戦闘は、アーロンさんのチームの精霊遣いの魔法から始まった。
それに続くように、他の魔術師や精霊遣いの魔法、クローディアの矢が飛び、それをかい潜った敵は、前に立った戦士たちが倒していく。残った敵を魔法と弓が狙い、打ち洩らしは戦士が片付ける。もともと数で勝っていたので、勝負はあっという間だった。後ろのグループはほとんど出番がなかったほどだ。
私も<魔力の刃>の呪文を唱え、ゴブリンに傷を負わせた。が、倒すほどの威力はなかったようで、サミュエルが止めを刺していた。他の魔法使いたちも似たようなものだ。アーロンさんのチームの2人だけが別で、一撃で仕留めていた。呪文の位は似たようなものだから、この辺は術者の魔力の違い、ということだろう。
すごいのはクローディアで、一発につき1体で、一人で4体仕留めてしまった。
本人は、「伊達に大きい弓持ってる訳じゃないのよ」と笑っていたが。
「分かる、俺たちの苦労?
いくら4人の中で女がクローディア一人っていっても、コレだろ?
結局男3人いても勝てないんだよ」
サミュエルがおどけて嘆いてみせるが、クローディアに軽くあしらわれた。
「まさか。
勝てないんじゃなくて、私に勝たせてくれてるんでしょ?
3人ともこれ以上ないほどの紳士だもの。
レディーに勝ちを譲ってるんでしょ?」
「うっわ、ヤメロ。
鳥肌立った」
「何、それ?
どの部分に対してかしら?
返答によっては後ろから矢を射かけてあげるわよ」
「いや、それ本気で死ぬからヤメテクダサイ」
このチームは戦闘中でもこんな感じだ。
常に明るい、というか別のことに集中している時ほど、内容がくだらないかもしれない。
昨夜、それぞれに武器の手入れをしながら、魔術書を読みながらの4人の会話は漫才のようだった。
襲撃は結局この1回だけだった。3日後には次の町に着き、そこで1日の休憩をとる。
その間に買い出しをしたり、商人たちは取引をしたりする。キャラバンのメンバーのほとんどは“東の砦”の街を目指しているので、これから町に着くたびに、人数はだんだん増えていくのだ。
今回も読んでいただき、ありがとうございました!