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セレストの旅  作者: 那岐
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世話役

 翌日。

“東の砦”について3日目だ。

 朝食を食べた後は、師匠とイゼベルさまに手紙を書きながらイエンツおじさんを待った。

『空を泳ぐ魚亭』の1階の食堂は静かだ。ロイは2階を掃除中だし、ジェロ親方は食堂の隅でパイプを吸っている。昼食の仕込みがひと段落して小休止といったところだろう。

 昨日も思ったのだが、ここは正確には宿屋兼酒場なのだが、客の認識は酒場兼食堂だと思う。

 昨日も宿に泊まったのは私だけだったのに対して、昼と夜の食事時は客で賑わっていた。

ロイは私を「久しぶりの常連客」と喜んだが、正確には「久しぶりの『宿の』常連客」なんだろう。宿屋といいつつ、収益のほとんどは食堂としてのものなんだろうなぁ。


「セレストー!

 そろそろ出掛けるって」

 余計なことを考えていたせいで、手紙を書き終わる前にお迎えが来てしまった。

「はい、行きますね」

 急いで荷物をまとめ、ジェロ親方に「行ってきます!」と声をかける。ジェロ親方から唸るような返事をもらい、再び馬車の御者台に乗せてもらう。今日は後ろに野菜が積まれているので、3人で御者台に座る。


「どうだい、ジェロ親方は?」

「ちょっとぶっきらぼうですけど、良い方だと思います。

それに、お聞きした通り、お料理がとても美味しかったです」

「ほぅ」

イエンツおじさんのその反応は、どういう意味か分らなかったが、いつもの笑顔がそのままだったので、まあ、間違いではなかったんだと思う。

 真ん中で手綱を握るイエンツおじさんを挟んで、息子さんに道の目印やおすすめのお店を教えてもらいながら進む。

 街の西は主要な通りが直線になっていないのが特徴なのだそうだ。カーブしている、というだけでなく折れ曲がっている。イエンツおじさんの馬車も、右に左にと何度も曲がる。昨日はこれで道が分からなくなったのだ。馬車が通れない細い道なら真っ直ぐ行けるのかというと、そういう訳でもないらしい。

「まるで、迷路ですね……」

 まあ、それが西を預かる騎士団の作戦なんだろうけど。

 おそらくは、一直線に進めなくすることで蛮族の進軍速度を落とし、更に迷路で惑わそうという作戦なのだろう。懐に入れることで地の利を徹底的に活かす作戦だ。

 でも、そうすると、西の騎士団は街の中に蛮族の侵入を許すことを前提にした作戦だということになる。それはあり得ないと思うのだが。いや、これ以上はもう一度門の周辺を観察しないことには何とも言い難い……。

「――れば、迷いにくいから。まあ、慣れだけどね」

 と、また脇道に逸れてしまった。すごく大事なことを、今聞き逃した気がする!

 もう一度聞き返して分ったのは、目印として街灯のペンキの色が違うということだった。

 通りごとに街灯の色が違うので、慣れるまではその色を頼りにするといいのだそうだ。

『太古の雨亭』から『金の雲雀亭』までだと「緑」「無色」「黄色」となるのだとか。ちなみに、「無色」というのはペンキが塗られていない通りで、一番の大通りということらしい。

「なるほど。『緑』『無色』『黄色』ですね。

 それなら、何とかなりそうです」

 街灯を指差しながら教えてもらったので、一人でも迷わずに行けそうだ。

「暗くなると色が判りにくくなるから気をつけて」という息子さんの言葉もしっかり胸に刻みつけた。

 イエンツおじさんは、先に別の処へ配達に行くというので、『金の雲雀亭』の傍で馬車を降ろしてもらう。看板が見える距離なので、さすがに迷う心配はない。



「こんにちは」

 昼前で中途半端なこの時間はやはり人が少ない。

 昨日と同じように応対してくれたのはリリーだった。

 客や冒険者らしき人たちもちらほらと見えるが、昨日のメンバーはいなかった。

「あら、昨日の」

「昨日はおかげさまで『空を泳ぐ魚亭』にたどり着けました。

ありがとうございました」

「それは良かったわ。

 昨日のメンバーは今はいないようだけど、待ち合わせ?」

「いえ。

 こちらに世話役をお願いしたいので、そのお願いに。

 お話を伺いたいんですが、よろしいでしょうか?」

 そう言うとリリーは「ちょっと待ってね」と言って、ラナルフさんを呼びに行ってくれた。

 同時に、私も奥の小部屋に案内される。

 なるほど、込み入った話はここでする訳か。


 ほどなくしてラナルフさんが紙とペンを手にやってきた。

「待たせてすまない。

 昨日の人だな?」

「はい。

 こちらに世話役をお願いしたいと思いまして」

 そして、問われるままに自己紹介をしていく。

 そして、仕事の請け方や報酬について、エンブレムについての説明を受ける。この辺はサミュエルたちに聞いていたこととほとんど同じなので問題ない。

「なるほど。

 昨日はサミュエルやシシーのチームと一緒に呑んでいたようだが、彼らのチームには入らないのだね?」

「そうできればよかったんですが、どちらとも既に魔法使いはいるので駄目だそうです」

「ああ、そうか。

 ジャックのところ、は、入りずらいな……」

「ええ」

 2人チーム、おまけに新婚だ。そんなところに入り込めるような神経は持ち合わせていない。そうでなくても、ジャックのチームに私が入ったらバランスが悪くなる。

「冒険者を始めようって連中は、それでも2、3人で連れ立ってくるのが多いんだが、特にそういうのもないんだな?」

「はい。

 ですから、真語魔法の使い手がいないチームを紹介していただけないかと思いまして」

「ふむ。 ほかに条件は?」

「この“東の砦”を拠点にしていること。それから、できれば仕事と仕事の間が多少空く、というか、あまり仕事を立て続けにしないところがいいんですが」

「もう少し具体的に言ってくれ」

「“塔”での研究を並行して行わないといけないので、ひと月に1週間から10日くらいはそちらの仕事に充てたいんです。日は連続していなくてもいいんですが」

「と、なると、立て続けに依頼を請けるようなチームは避けたいということか。

 まあ、金があればあるだけ呑んでいたいってやつらもいるしな」

 それはそれで命を預ける仲間として信用しきれないような……。

 私の引き攣った笑いを見て「冗談だ」と言ったけど、そんな酔っ払いは勘弁してほしい。

「まあ、魔法使いを探してるチームもいるし、今の条件にあいそうなところも、ない訳じゃない」

「よろしくお願いします」

 もう一度、深く頭を下げる。

  が。

「ところで――」

ラナルフさんの次の一言で私は凍りつくことになった。

「――君は『ナイトメア』でいいのかね?」


ユニークが1,000を超えました。

飛び上がって喜びたいのと、恐れ多いのと半々な気分です。

のんびり更新ですが、楽しんで頂けるように頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします。

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