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セレストの旅  作者: 那岐
13/16

餞別

あぁ、間に合わなかった……。

活動報告が嘘になってしまいましたが、今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

 私が昼食をとっている間に、『空を泳ぐ魚亭』もだんだんと混みだしてきた。

 ちょうど昼食の時間で、地元の人や私と同じような冒険者が昼食をとりに来たものらしい。中には旅の商人といった感じの人もいるけど、共通しているのはみんな、常連客かそれに近い人たちだということ。まあ、表通りに面しているわけでもないし、初めてのお客さんが来やすいところではないだろう。もし来たとしても、ジェロ親方が「何の用だ」とか言って凄んだら、ほとんどは逃げ帰るだろうし。

 実際のところ、「初めて」の客は珍しいらしい。

 と、いうのも来る客の全てが私に気付くと、「おや」という顔でまじまじと品定めするのだ。居心地が悪くて、早々に部屋に案内してもらった。


 部屋は日当たりの良い角部屋だった。

 すごく良い部屋だ。

 お布団もふわふわ、ではないにしろ、清潔でお日様の匂いがする。

 うん、ほんとに当たりだなぁ。


 で、そのすごく良い部屋で何をしているかというと、ベッドの上に座り込んで溜息をついているのだ。

 初めて毒薬を扱った時と同じくらい難しい顔をしていると思う。

 財布として使っている革袋をひっくり返し、シーツの上に中身を広げる。

 それから、“南の交易都市”で貯めたお金を入れてあった革袋を取り出して、こちらもシーツの上にぶちまける。

 じゃらじゃらとした硬貨を数えると1トリンと325セトあった。

 ここに、昨日もらったキャラバンの護衛の報酬の500セトを足すと、1トリンと825セト。

 宿代が1泊50セト。

「んー。

 ギルドにピンを取りに行くのが明後日だから、取りあえず2日分で100セト……。

 並行してチーム探しをして……、やっぱりひと月分は書写してからでないとまずいかな。

 そうすると、100ページ書写をする間に何とかチームを決めるべきかな」

 100ページの書写か……。

 ギデオン師には10日でできる分、として言ったが、実際はそんなにはかからないはずだ。

 写すものにもよるのだが……

「7日くらい、かな?

 一応8日ということにして、えーと……」

 今日の午後はもうこのまま休みたい。さすがに着いたばかりなのにあちこち動きすぎだろう。で、明日は『金の雲雀亭』に着くのがきっと昼少し前だろうから、午後には時間が空くだろう。

「うん、明日の午後に一度“塔”に行って、書写する本を教えていただいて、“塔”を案内してもらって、きっとそこまでだよね。

 と、なると、書写はその次の日から8日だから……」

 言いながら、硬貨を動かしていく。

 やはり、10日分で500セトか。

 じゃらじゃらとしたところから、500セトを脇に避ける。

「あとは、食事代か。

 10日分なら計算は楽でいいな。

 とりあえず、1食10セトということにして、1日30セトで、10日分で300セト」

 300セトを取り出し、さっきの500セトとは別の場所に避けておく。

「それから、“塔”のピンの代金が50セト」

 この50セトはさっきの300セトと同じ場所に入れる。

「えーと、こんなものかな?

 あ、あと、たぶん紙とインク代……は、免除されたんだっけ」

 これは、というか紙代がそうとうかさむのでラッキーだった。

 紙の保管なんてできないし、書写をして本にするとなったら、ある程度の品質のものでないといけない。そんな高級な紙を買うとなったら本当に赤字だ。“南の交易都市”では10枚100セトというのを使っていたが、こちらの紙の値段はどうなっているんだろう。

「あまり、物を増やしてもいけないし、買う予定の物はこんなところかな」

 宿代が500セトに、食事代とピン代で350セト。

 余りがちょうど1トリン。

 だけど……。

「こっちは念のため少し増やして500セトにして……」

 500セトを財布にしまう。

「こっちを宿代用にしておいて……」

 500セトを別の革袋へ。

 後で宿代を支払う時には、とりあえず8日分で400セトを渡すことにしよう。

「で、これが貯金用、と」

 850セトを、更に別の革袋にしまう。

 こちらには袋のひもにビーズをつけてある。

 師匠には鼻で笑われるのだが、ちょっとしたおしゃれというか、楽しみなのだ。

 ビーズのついた革袋を振るとちゃらちゃらと雑多な音がする。

 1000セトまでいくと、1トリンとなる。

「どうせなら、1トリン金貨を入れて、金貨で貯めたかった……」

 思ったが、仕方ない。

 あと150セト貯めて、早く1トリン金貨と交換しよう。

 小さな目標ができた。


 あまりに小さすぎて、顔を顰めてしまったけど。


「あ、そういえば」

 向こうを出発するときに、イゼベルさまが「内緒よ」とこっそり小さな袋を渡してくださったのだ。なんとなくもったいなくて、旅の間は開けずにいたのだ。旅の間はいつも誰かがそばにいたので、ひとりでゆっくり見られなかったから、というのも大きい。

 そっと触ってみるだけで我慢していたのだ。

 中身を見ると、1トリン金貨が1枚とかんざしが1本。

 かんざし、というよりピンというべきだろうか。明らかに装飾用なのだが、それにしては地味だ。

 いつもは髪を編んでピンで留めるのだが、そこに刺しても邪魔にならないくらいだ。更に帽子を被るから、このかんざしも見えなくなる。

 いぶかしみながらいじっていると、仕掛けがあるのに気付いた。仕掛け、というほどでもないのだろうが、捻って両側に引っ張ると小さなナイフが引き出されたのだ。

 かんざしではなくて、仕掛けナイフだったのだ。

「さすが、イゼベルさま」

 常に危険を伴う冒険者になる以上、備えも完璧にするように、というところだろうか。

 イゼベルさまの心遣いに胸が熱くなった。

「あと……」

 荷物の一番奥からもうひとつ、革袋を取り出す。

 これだけは、全く覚えがない。

 が――。

「たぶん、師匠、ですよね?」

 中には1トリン金貨が1枚。それから、青い石がひとつ。

 それは、向こうでは旅のお守りとしてあちこちで売られているものだった。

 が、普通は石は水晶を使う。

 水晶には魔除けの力があると言われているからだ。

 このお守りの石は青い。

 私の名前の由来になった「天空の青(セレスト・ブルー)」だ。

 よく見ると、石の周りを囲む紐も少し不格好だ。

 つまり、手作り、だろうか。

「まったく……、判りにくいんだから……。

 どんな顔して作ったんだろ……」

 顰め面でぶつぶつ文句をいいながら、青い石のお守りを作る師匠に、それを宥めながらお茶を淹れるイゼベルさまの姿が容易に想像できた。

「お元気、かなあ」

 滲んだ青い石を見ながら、後でお二人に手紙を書こうと思った。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

更新が予告よりも遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

追記 誤字訂正いたしました。

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