第十八話「話をしよう」
話し合いで解決するボスがいてもいいと思うんだ。
話をしたい。とりあえず話を聞いて欲しい。話し合いで解決するべきだ。暴力はいけないと思う。
そんな平和主義の意思を吹き飛ばすような言葉「戦争をしに来た」をヤブ医者は軽々と言い放った。
「ほう、誰と戦争しにきたって?」
「ははっ。分かってるでしょ?言わせないでくださいよ」
「俺は馬鹿だから言ってもらわないと分からんよ、と言いたいところだが、この町に住んでいる者にとって今の敵は一つだな」
ヤブ医者の挑発的な言葉に隊長は冷静に対応しているように見えるが、言葉の一つ一つが尖っている。
「だが、あいつらは俺たちの獲物だ。大人しく引き下がってもらおう」
その言葉にヤブ医者は一瞬驚いた顔をした。そして本当に楽しそうに満面の狂気染みた笑顔になった。
「あなたは本当に馬鹿なようですね。僕たちの敵が誰だか本当に分かっていないようだ」
「な!?」
後ろにいたヤンキー達がことらを睨み付ける。どの顔も痛いほどの殺気を込めているが、それでもヤブ医者は顔色一つ変えない。
「僕立ちの敵は一つじゃないんですよ。そして今倒すべき相手は二つ。暴走族と、あなた達です」
「ほう。俺たちが敵?何故だ?」
「目の前にいるからです」
それ答えになってないぞ。
「お前たちが俺たちを倒すことができるろでも?」
「できるんじゃないんですかね。あなた達弱そうですし」
「……」
「と言うわけです。獲物はあなた達のものじゃあない。獲物があなた達なんです」
「後悔するなよ」
「後悔なんてしてばかりですよ」
どうしよう。話がまったくついていけない。そもそもヤブ医者の言っていることがここに来た目的とずいぶんと違う。私達はここに戦争に来たわけではないし、隊長達を敵にしに来たわけでもない。なのにどうしてこんなことをヤブ医者は言うのだろうか。
「どういうつもりだ。ヤブ医者」
「どうもこうも僕は最初からこのために来たんだよ」
「お前あの人たちと戦いたくないって言ってたじゃないか」
「確かにできるだけ戦いたくないが、どうせ戦うことになるんだから仕方がない」
ヤブ医者の言葉は話がつながっている様してあるが内容は空っぽだった。
「どうせ戦うことになるってどういうことだ?」
「そのうち分かるよ」
なんだかなぁ。考えるのめんどくさくなってきたな。
「……仕方がない。戦いに行くか」
隣で三枝が靴紐を結びながら言う。
「三枝。あの人お前の元恩人じゃないのか?」
「確かにそうだが、いくら恩人でも敵になってしまったなら戦うしかないだろ。ここで迷っていてもあの人に迷惑だ。隊長は優柔不断が嫌いだからね」
優柔不断が嫌い。まあそんな気がしてはいたな。しかしこいつもずいぶんと割り切った言い方をするんだな。普通じゃそんな簡単に恩人を敵に回すなんてないと思うんだが。
「話は終わった?」
「なんだかめんどくさい事になってるね」
後ろでピクニックを続けていた木村達がこちらの様子を伺う。今の状況を見てもそれほど驚くそぶりを見せない。
「たまにはこういったバトルもいいかもしれないな」
「たまにはって、喧嘩はあまり感心できませんけどね」
和田と夜名もこちらに近づいてくる。メイドや執事は服装的に異彩だが、この狂った状況なら別段不自然ではなかった。まあ狂った状況はこの学校に入ってから常にそうなのだが。
「面倒だから俺寝ていいか?」
「殴るわよ」
普通に見えていた今川さんがメリケンサックを取り出して武装をし始めた。木村は普通の傘を取り出して刀のようにベルトに挟んだ。
「木村。それかっこ悪い」
「それを言うな。俺だってまともな武器が欲しいよ」
かっこ悪いのは傘をベルトに挟んでいることなんだが、まあこれ以上言ったら傷つくだろうし、そっとしといてやろう。
「さて、準備はできたか?」
工場前の元駐車場。コンクリートがところどころ剥がれ、雑草が逞しく生えてきている。足場にするには少々荒れているが、この位なら許容範囲だ。
西に『軍勢』が列をつくっている。北に私達が適当に並んでいる。
状況は整ったような雰囲気。
本当の敵は暴走族。前座はこの町の学校二つがぶつかる壮大かつ意味が分からなくておそらく意味のない戦争。
「さて、私は観戦でもするか」
荒れたコンクリートにレジャーシートを広げても痛いので、私は横にある草木の開けた所にシートを敷いて座った。
「ゆっくりしていってね!」
ふと気づくと隣にゆっくりが座っている。
「やっぱりその声を聞くと落ち着くな」
私はゆっくりを膝の上に乗せた。やはり弾力がありなかなかいい抱き心地だ。
そうだな最大限ゆっくりすることにしよう。
私がゆっくりくつろぎ始めた目の前で、戦は始まった。
次回はバトル!
まともなバトルになることを期待だ!