第十四話「私は男である」
こんなやっつけ仕事で大丈夫か?
昼休みに入り、私は放送室を占拠した。
昼の放送で流されていた曲が途中で止まって一部では騒ぎになっているだろう。
だが、ここまでしてまでやらなくてはいけないことが私にはあった。
ヤブ医者の協力もあり外からの妨害対策は完璧だ。
これで心置きなくできる。
「こんにちは皆さん。どうも、私だ。昼の放送を一時中止して私の話を聞いてくれ」
そう、私はここに演説をしにきた。
全校生徒に聞いてもらうには放送で流すのが手っ取り早いからな。
「最近私のことで誤解されているようなので、言っておこう」
もうここまで来たならやるしかない。
あの噂。昨日の大掃除で知り、脅威を知ったあの噂。
噂は早めに片付けておかなければ厄介なことになるからな。
だからこそ、こんな強硬手段を使ってでも言わなきゃいけないんだ。
誤解を解かなければならないんだ。
私は深呼吸を一回して、一言言った。
「私は男だ」
その瞬間学校に静寂が訪れた。
そして次の瞬間にこの放送室という密閉空間にいても分かるくらい空気が揺れた。
いや、これは学校全体が揺れたのだ。
「なんだ、これは!?」
私が放送室から出てみると前後左右上下から男のむせび泣く声と泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「いやー。まさかあんな直球でいくとは思ってなかったよ」
見張りをしていたヤブ医者が出てくる。
「もう少しマイルドに言ってあげればこんなにショックを与えずにすんだのにね。男子生徒の諸君かわいそー」
ヤブ医者は何を言っているんだ?私はそんな重大な発表をした覚えはないのに、そんな大げさに言って。
「ははっ、まあ頑張ることだね」
最後に不穏なことを言ってヤブ医者は去っていった。
「……さて、教室に戻るか」
私は気づいていた。放送室をジャックした自分に何も罰が降らないわけがないと。
教室への帰り道はまさしく地獄絵図だった。
廊下にいた男子生徒が全員ムンクの叫び状態になっていて異界に紛れ込んだ気さえした。
「あ、あれは……」
床に倒れていた一人の男子生徒がこちらに気づいた。気づいてしまった。
それに連なるように次々と私のことに気づいていくムンク達。
「さ、さっきのは嘘ですよね?そうですよね?」
まるでゾンビのように私に近づいてくる。もうこいつらムンクなんかじゃない。ゾンビだ。
「嘘だぁー」
「嘘と言ってくれぇー」
「頼むー」
ゾンビたちは周りの教室から次々と沸いてくる。避けようにも量が多すぎる。
「離せ!足に引っ付くな!」
本物のゾンビのように噛み付いては来ないものの、同じ高校生としてこいつら気持ち悪い。
「嘘だぁー」
しがみ付いて来るゾンビ共を蹴飛ばしながら進んでいく。たまに「あぁん」と奇妙な悲鳴が聞こえてくる。
必死にもがいていると、隣をゆっくりが跳ねながら通っていった。
ゆっくりは私に気づいたようでこっちを向きいつもの良い笑顔で言った。
「ゆっくりしていってね!」
「こんな状況でゆっくりできるかー!」
叫びながら私は布団から飛び起きた。
「……夢か?」
周りを見れば自分の部屋だった。
「はは、何だ夢かー。ひどい夢だなー」
人はあまりの恐怖を体験すると笑いがこみ上げてくることを知った。
私は布団から出てカーテンを開く。朝日が目にしみるがとても心地がいい。
「さて、学校に行くか」
今日はあの夢のせいで早く起きてしまったのでゆっくりできるな。
学校に着くと担任の塩谷先生がやる気なさそうに歩いていた。
「先生おはようございます」
「ん?ああ、おはよう。今日も可愛いな」
「冗談はやめてくださいよ。私男ですよ?」
「ハハハ、嘘は泥棒の始まりと親に教わらなかったのか?」
「先生も冗談がヘタですねー」
「「HAHAHA」」
そんなよくある平和な朝の出来事。
後ろでは会話を聞いていた男子生徒がムンクになっていたが。
世界八大禁忌「夢オチ」