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第18話

「・・・僕、完全に忘れてた」

「あんま興味ないけど」

何が?と吉川に尋ねる。


朝の時間。


俺たちは雑談をしていた。


「僕がラブコメの主人公だったってことだよ!」


そういえばそんなこと言ってたな。


吉川はラブコメ作品の主人公らしい。

兄思いの妹と長年一緒に過ごしている幼馴染、中学校に今はいるかわいい後輩、そして学校一可愛い先輩がいるという。


ちなみに、俺の視点では誰も存在しない。


「お前はそれを忘れてたんだろ?」

「たまたまね」

本当に偶然、と吉川。


「お前がラブコメ主人公じゃないってことだろ」

簡単な話だ、と俺は応える。


「そんなわけないじゃん」


すぐ否定してきたな。


「あまりにもラブコメ主人公が板につきすぎて、そのことを忘れていたんだよ」

ゴールデンウィークあたりでヒロインとの外出イベントが発生する予定だったはずなんだけど、と付け加える。


吉川がラブコメ主人公だったら、そうなってただろうな。

違ったということは・・・まぁそういうことだ。


「でも今は普通に可もなく不可もなくって感じだろ?」

「まぁね」

頷く吉川。


「普通にそのままでよくね?」


そう言うと、チッチッチ、と吉川は指を顔の目の前で振る。


なんかうぜぇな。


「楠本くん、それは敗者の思考だよ」


いやお前も現在、どっちかというと敗者側の存在だからな。


「いつか恋愛イベントが始まると思って行動しないような人間に本当に恋愛っていうのは始まらないんだ」


一理ある。

行動をすることが重要なのは間違いない。


でも恋愛を「イベント」って言うヤツの言うセリフではない。


「よし」

そう言って吉川は机に本を一冊置いた。


それは当たり前だがラブコメの小説。


「僕はこの本を読んで、どういう行動をすれば恋愛が生まれるか理解したいと思う」


そういって吉川は黙々と読書を始めた。

・・・結局、やってることはいつもと同じじゃん。


俺は会話を切り上げ、ぼーっとスマホを眺めて時間を潰した。



しばらくすると、


「はっ、これだ!」

何かに気づいたような吉川がすぐに教室から出て行った。


これまでの流れを踏まえると、



吉川、ラブコメイベントが起こらなくて悲しい

恋愛がどうやって起きるか理解したい

ラブコメで理解しよう


っていう感じだったよな。

つまり、小説を読んで何か理解したって感じか。


っていうか吉川がラブコメを読んでるせいで今の生活に満足していないわけだから、ラブコメ自体が諸悪の根源なのでは?


吉川はラノベに定規を挟んで出ていったので、そのページに書かれている内容を読んでみることにした。





・・・最初から、こうするべきだった。


僕の視界の先には、拘束されたままの彼女が横たわっている。


もう二度と、どこにも行かない。

理想の姿のまま、ここにいる彼女。


これからは、二人で静かに思い出を積み重ねていこう。


・・・かつて純粋に抱いていた想いは、もう忘れてしまったよ。


ごめんね。



重すぎだろ。


この内容から何を閃いたんだ、吉川は。



俺も教室から出た。

吉川がどこに行ったのか知るためだ。


ちょうど職員室に入っていくところだった。

何をするつもりなんだと思い、職員室のドアが開いていた場所から眺めてみた。



「先生、すいません」

と吉川が声をかけた。


「なんですか?」

応える先生。


「あの、非常に言いづらいんですけど、」


吉川は言葉を選んでいる。



監禁してもいいですか、って言わねぇよな。



吉川は言った。


「すいません。今日の宿題忘れました」


そしてしばらくすると、吉川は職員室から出てきた。


「おっ、もしかして楠本くんも宿題忘れたの?」


なんかうれしそうだな。

多分、宿題を忘れた仲間ができたと思ったのだろう。


今日はちゃんとやってきた。


「いや、お前がいきなり教室から出て行ったから、何なんだろうと思って」

しかも、ラノベ読んで閃いた感じだったし、と付け加える。


「いや、僕は確かに閃いたよ。どうすればラブコメイベントを発生させることができるのか」


今回はたまたま宿題を忘れたのと、閃いたタイミングが被っていただけらしい。



・・・やっぱり監禁するのか?



授業中に見といて、と吉川は言い、俺たちは教室に戻る。



実際、授業中に発生するラブコメのイベントは結構多いよな。


例えば、消しゴムを落とす、隣の人に教科書見せてと言って距離感が近づく、小さな紙をこっそりやり取りして会話する、とか。



さっき吉川が読んでたラノベの内容と全然違うけど。


そうこうしているうちに授業が始まった。

吉川を眺めていたが、普通に授業を受けている。


結局何もしないのか、と思っていると吉川がいきなり立ち上がって教室から出ていこうとした。


「ちょっと吉川くん、どうしたの?」

先生は尋ねるが、吉川は何も答えない。


「ちょっと吉川くん?」

少し慌てた様子で、吉川の腕を先生がつかんだ。


「・・・すいません」

とつかまれた腕を振りほどき、吉川は教室から出て行った。


先生は少しの間呆気に取られていたが、切り替えて授業を再開した。


さっき読んでたやつの『・・・ごめんね』ってところからインスピレーションを受けたわけじゃないよな。


っていうかあいつはどこに行ったんだ。



数分後、何事もないかのように吉川は戻ってきた。


教室に入った瞬間先生にさっきはどうしたの、と聞かれ吉川は何か耳打ちしていた。


すると「早く席に着きなさい」と言われていた。


そのあとは何事もなく授業は終わった。



「さっきのやつめっちゃラブコメっぽくなかった?」


授業が終わってすぐ、吉川が尋ねてきた。


「そもそもお前どこ行ってたんだよ」

「え、普通にトイレだけど?」


吉川は当たり前のように応える。



授業中、トイレに行くだけで、あんな含みのある振る舞いをするやつ初めて見たわ。


「恋愛が始まるというよりむしろ終わりそうだったな」

素直に思ったことを呟く。


「ほら、恋の終わりは新たな恋の始まりっていうし」


いやお前の恋、始まってすら始まってないぞ。

コイツは誰との恋を終わらせたんだ。


ちなみに、吉川の奇行は多くの生徒が睡魔と戦っていたことにより、そこまで大きな問題にはならなかった。


奇行だとしても、それをやるだけの行動力はある意味ラブコメ主人公なのかもしれない。


行動力の方向性とタイミングは完全にずれているが。


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