第17話
「全然来ねぇじゃん」
吉川のヤツ、と俺は零す。
休日の昼下がり。
外出しよう、と言い出した吉川がショッピングモールに到着するのを待っていた。
「既読もつかないよな」
もう20分近く経ってるけど、と瀬野。
「そういえばだけど」
「なんだ?」
瀬野はこちらに顔を向ける。
「瀬野って眼鏡かけてたっけ?」
「眼鏡をかけてないと、職質されやすくってな」
伊達だよ、と言って俺に眼鏡を見せてきた。
なんでも、休日に出歩いていると1か月に1度くらい、警察に声を掛けられることがあるようだ。
学生証を見せないと、自分が高校生だと信じてもらえないらしい。
「・・・へぇ、それは大変だな」
俺は呟く。
でも眼鏡かけるだけで、そんな変わるか?
顔の怖い奴がただ眼鏡かけてるだぞ。
「眼鏡かけただけで職質されにくくなるなんてことあるの?」
自分の顔のポテンシャル、甘く見ない方がいいよ、と吉川は付け加える。
いつの間にいたんだ。
「まぁ、立ち話もなんだし早速行こうか」
そういって吉川は先陣を切る。
「吉川、お前遅れすぎだって」
「そうだそうだ」
と吉川。
え、吉川?
なんでお前が賛同するんだ。
「お前は遅れた側なんだから、普通は注意されるほうだろ」
とりあえず申し訳なさそうにしろよ。
ごめん、普通にバスに乗り遅れた、と吉川は謝った。
「今回遅れたのは別にいいけどよ」
「ありがとね」
「例えばラブコメでヒロインとの外出に1分でも遅れてみろよ。よくわからんナンパ野郎が湧いて出てくるぞ」
「大丈夫、そうなったら僕の彼女ですって言って、手を取って連れ出すから」
確かに、その流れもあるか。
・・・普通に納得してしまった。
そこで注意する流れは終わり、最初の目的地である書店に行くことにした。
「そもそもなんだけど」
「なに?」
「書店に行って何をするんだ?」
俺は吉川に尋ねる。
俺と瀬野が集められたのは、どうしても人手が欲しいという吉川からのお願いだった。
本当は寺田にも頼んだが『サッカーの練習試合があるから』と断られていた。
ちなみに俺も、『書道の練習試合があるから』と断った。
言い訳が雑すぎると言われた。
「書店に行ってくじ引きを一緒にして欲しいんだよ」
「それって一人何回までって回数制限が決められているヤツ?」
瀬野が聞くと、
「・・・いや、普通に何回でもいいんだけどさ」
小さな声で応える吉川。
「なんだよ、それなら一人で引けばよかったじゃん」
吉川は溜め息を吐いて、「いい楠本くん?」と神妙な面持ちで言葉を続ける。
「・・・1人で何回もくじ引きやってると、店員と気まずい感じになっちゃうんだよ」
抽選のたびに「あぁはずれですね」と言われ、有り金を全部使い果たした後に流れる空気が耐えられない。
そして「この高校生、頑張ってためた貯金をここで全部使ってるんだろうな」と思われるのがキツイのだという。
「だから、僕がお金を渡すから代わりに抽選を引いてほしいんだ」
と吉川は真剣な表情で言った。
自分が恥ずかしい思いをしたくないからって理由で、そんな真剣な表情できる?
まぁ自分でお金払う必要がないから、と俺たちは了解した。
そして俺たちは書店に入り、さっそくレジに行ってくじ引きをやろうとすると、
「楠本くん、一旦本棚に行こうか」
そう言って本棚まで連れていかれた。
「お前、用あるのはくじ引きだけだろ?」
さっさと終わらせようぜ、と付け加える。
「いきなりレジに向かったら『こいつ本屋に来てマジでくじ引きしかしないのかよ』って思われる可能性がある・・・」
だから本を1冊は買ってレジに向かう、と吉川。
消費者がそう感じるから、あえて書店で抽選を行っているのでは、と思ったものの、本の代金も吉川が出すとのことで文句はなかった。
そのため、俺たちは本棚で時間を潰すことにした。
それにしても、と言って瀬野は続ける。
「最近のラノベってタイトル長いんだな」
瀬野はラノベが陳列されている本棚を眺めていた。
確かに、本の背表紙に縦で2行以上のタイトルが多い。
「最近はこういうのが多いね。読者に手に取ってもらいやすくするために作品の内容を説明しているって感じなのかな」
web小説とかもタイトルが長いヤツ多いし、と吉川は加えて説明する。
「でも、タイトル長すぎると、その本の名前を言うとき大変そうだぞ」
「結局、4、5文字程度に省略されるからあんまり問題じゃないんだよ」
と吉川は言う。
本棚にあるものの中から、省略されてどう呼ばれているかを説明する。
「じゃあさ」
「うん」
「めちゃくちゃ長いタイトルにして、省略して20文字とかにすればもっと多くの情報を詰め込むことができるんじゃないか?」
「・・・いや、結局その20文字の中から4、5文字が抜き取られると思うよ」
吉川は冷静に応える。
読者って残酷だな。
俺たちは吉川が選んだラノベを渡され、レジへ向かった。
まずは僕が引くから、と吉川が抽選を始める。
結果、5等と4等。
何とも言えない顔でレジから戻ってくる。
そして次に俺がレジに向かった。
本を精算している段階で、
「あの、抽選の・・・あれ、なんだっけな」
そういえばなんの抽選するか聞いてなかった、と思いちょっと離れた吉川の方を見ると、こっちを見た瞬間に顔を逸らした。
『無関係ですけど?』って雰囲気を出すな。
レジの店員がコレのことですか、と抽選の名前を指で指してくれたため、あぁそれです、と言って抽選を始めることにした。
一回目、4等
二回目、5等
三回目、5等
俺が引き続けている間、間接視野で入ってくる吉川が正直うざい。
それに無視して抽選を続けていると、2等が出た。
あっ、と吉川が声を上げる。
お前が反応したら、俺が代わりに引かされてるのバレるだろ。
その後は4等と5等で抽選は終了。
吉川たちがいるところへ戻る。
「ナイスだよ、楠本くん!平凡な生活で貯めてきた運がここで活きたね!!」
と嬉しそうな顔で吉川に言われた。
俺の運、コイツのために使っちゃったのか?
ここが使いどころだったか疑問に感じつつ、最後の出番である瀬野の姿を眺める。
何回か5等が出たのち、
「1等が出ました~!!おめでとうございま~す!!」
店員がベルを鳴らしながら言った。
「よっしゃ!!!」
大きな声を上げてガッツポーズをする吉川。
だからお前が反応したら代わりに抽選させてるのバレるって。
一方、1等を引き当てた当の本人である瀬野は、あっ、ありがとうございます、と冷静な様子だ。
瀬野はレジから戻り、一等の景品を吉川に渡した。
「本当にありがとう、瀬野君!!僕の体裁を守りながら一等の景品がもらえるなんて最高だよ!!」
多分、吉川の体裁は守れてない。
一等が出たとき、店員は吉川を見て苦笑いしてたし。
でも本人は嬉しそう。
じゃあ店から出よう、という吉川の言葉で俺たちが退店しようとする間際、
「おめでとうございま~す!!ラストワン賞で~す!!」
という言葉とベルの音が。
俺たちが振り返ると、そこにいたのは中学生くらいの女の子だった。
その女の子は、一等よりも明らかに豪華そうな景品を真顔で受け取って店から出て行った。
吉川の視線は女の子の背中を静かに見つめていた。
「・・・まぁ、一等が出たんだし良いんじゃね?」
「そうだよね・・・買った本のお金を抽選に使ってたらラストワン賞も引けたけど、まぁ一等が手に入ったんだし・・・」
何とも言えない表情で一等の景品を持ち直す。
そうだそうだ、と瀬野も続く。
瀬野は自分が一等を引けたこと自体に満足しているみたいだ。
その後、俺たちはゲームセンターでしばらく時間を潰してから家に帰った。
リビングのソファーで漫画を読んでいると、ガチャという扉の音と遅れて「ただいま」という妹の声がした。
妹はリビングに入るといきなり、
「お姉ちゃん、これいらない?」
と言われた。
「えっ、何それ?」
妹が手にしているのは、アニメか何かのキャラの大きめのグッズ。
「それどうしたの?」
「本屋に行って抽選したらなんか当たった」
「そもそも、それってなんのキャラ?」
「わからない」と応える妹。
「じゃあなんで抽選したの?」
「前の人が一等を当ててたからさ、わたしも引いてみようかなって」
知らないグッズの抽選にそんな興味もつ?
まぁいらないならもらうけど、と言ってそのグッズを受け取った。
とりあえず自分の部屋まで持っていって、ベッドに置いて写真を撮り、夜野さんに聞いてみることにした。
『このグッズってなんの作品なのか知ってる?』
数分後、着信音が聞こえたのでスマホを確認する。
涙目のウサギが雪玉になって転がっているスタンプが送られていた。
・・・なんだこれ。
『ごめん、間違った』と言って、涙目のウサギが海でタコに足を掴まれているスタンプが送られた。
・・・このスタンプも多分間違ってる。
そもそもこのスタンプ、どういう場面で使うの?
『ごめん、文章で説明してくれない?』
と送信すると、また同じウサギが土下座しているスタンプと『私も知らない』という言葉が送られてきた。
このスタンプを使うタイミングは合ってるのね。
結局、このグッズが何なのかわからないまま私は自分の本棚に飾ることにした。
たくさんの少女漫画が収納されている私の本棚に異質なメンバーが加わった。




