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第16話

「マジで?」

「まだ何も言ってないんだけど」


昼休み。


僕と楠本くん、そして瀬野くんでご飯を食べながら話をしていた。


「どうしたんだ?」

まだってことは言いたいことでも、と瀬野くんが話を促す。


「気づいたんだよ。自分好みのラブコメを無限に読み続ける方法が」


自分の好みのラブコメっていうのが意外と少ない。

途中まで読んで「なんか違うな」って思って止めることもある。


作品を書いてる人には悪いとは思ってるけどね。


「自分の好み自体を変え続けることで、ラブコメをいつ読んでも面白く感じるようにするってことか?」


力技すぎるって。

好みってそう簡単に変わらないから。


「そうじゃないだろ」

そういって楠本くんは続ける。


「お前がラブコメを読んだ後に頭に衝撃を与えて記憶を消せば、毎回新鮮な気持ちで読めるってことか?」


物理?


本当に力技じゃん。



どっちとも違った。


じゃあいいわ、と楠本くんは興味を失ったような雰囲気を出した。


もうちょっと我慢してよ。

まだ1分も経ってないし。


「生成AIって知ってる?」


「あぁ、よく聞くな」


瀬野くんは少し知っているようだ。


「あぁ、アレねアレアレ・・・」


オレオレ詐欺ならぬアレアレ詐欺だね。


楠本くんは何も知らないようだ。


生成AIとは、わかりやすく言えばユーザーからのリクエストにAIが応えるものだ。


「で、その生成AIがどうして無限ラブコメ製造機になるんだよ」

と楠本くん。


例えば、と言って僕はスマホで生成AIのアプリを開いて、何度かやり取りする。


そして出力されたものを楠本くんと瀬野くんに見せた。




了解しました。以下がご希望に沿ったラブコメ作品です:


昼休みだ。


食堂に行こうと席を立ちかけたところで、


「ねえ」


背中から声をかけられた。

振り向くと、幼馴染が弁当箱を抱えて立っている。


「・・・何だよ」

「ん」


それだけ言って、弁当箱を突き出してきた。


「俺に?」

「別に。余っただけ」

そっけない言い方のわりに、視線は合わない。


「いや、今日は食堂で――」

「だめ」


被せるように言われた。


「私が作ったんだから。黙って食べて」

強い口調。


よく見ると、耳まで赤い。


「・・・わかったよ」


受け取ると、彼女はほっとしたように表情を緩めた。


弁当箱を開ける。

彩りがよく、栄養バランスも考えられているのが一目でわかる。


一品つまんで口に運ぶと、

「・・・ど、どう?」

少し身を乗り出して聞いてくる。


「めちゃくちゃうまい」

そう言うと、彼女は胸を張った。


「当然でしょ。朝5時に起きて作ったんだから」

「さっき余ったって――」

「う、うるさい」


ぴしゃりと言い切って、

「いいから、感謝して食べなさい」


その言い方だけは、少しだけ優しかった。





「・・・こういう感じの話を作ることができるってワケ」


すごくない?


「なるほど、お前がツンデレお節介ヒロインが好きなことは分かったな」

と楠本くん。


まぁ、好きだけど。


「それにしても、こんな感じの文章が一瞬で生成されるなんてすごいな」

と瀬野くんは興味津々である。


「百聞は一見に如かず。ここでもう1つ、新しいラブコメ作品を作ってみよう」


新しい会話ログを開き、入力ボックスに文章を書きこむ。


『ラブコメ作品を作成してください。』


すると、すぐに返答がある。


『承知しました。どのようなジャンルがご希望ですか?』

そして、いくつかのジャンルが下に示された。


王道系、悲恋系、日常系などなど。


「へぇ、こういう感じなんだな」

と、楠本くんは机から身を乗り出して、スマホの画面を見ている。


興味を持ち始めたようだ。


今回は、王道系を選ぶ。


『了解しました。登場人物の設定について教えてください。』


中学生、高校生、大学生、社会人といった選択肢が提供される。


僕は高校生でお願いします、と入力した。


「お前、マジで高校生が主人公のラブコメ好きだよな」

「中学生の時から、高校が舞台の作品が好きだったね」




「おい、こんな質問も来るものなのか?」

瀬野くんはスマホの画面を指した。


『主人公について教えてください。彼はお昼のお弁当を持ってくる派ですか、それとも食堂で済ませる派ですか。』


「まぁ昼食の弁当を持ってくる場合、ヒロインが作ってくれた、みたいな展開もあり得るから、まぁ普通だと思うけど」


お昼はお弁当派です、と入力した。


すると、

『お弁当は夕飯の残り物を詰めていますか、それとも冷凍食品を朝温めて入れていますか。』

と返答が。


「なんか、この生成AIおかしくね?」

と楠本くんが疑問を口にした。


「いやほら、弁当から話題が広がるっていう展開もあり得るし・・・」


「っていうか、選択肢がこの2つっておかしいんじゃないの」

と瀬野くんも言う。


確かに。


朝、お母さんが作る、みたいなのもありえそう。


僕は、冷凍食品を朝に温めています、と入力した。


すると間髪入れず、

『温めた冷凍食品は、ある程度冷ましてらお弁当に入れますか、それとも、すぐに入れますか』


ある程度冷ましてから弁当に入れます、と入力。


「・・・お前、もう黙っちゃったじゃん」

と楠本くん。


「このAI、弁当の中身にこだわりすぎだろ」

瀬野くんも続く。


・・・僕もそう思う。


しかし、その思いは生成AIに届かず、さらに選択肢を提供してくる。


『お弁当の中身の配置は意識しますか?』


わかりません、と入力した。


すると、


『お弁当の配置は作品において重要な要素となっております。

恐れ入りますが、今一度ご確認いただけますと幸いです。』


「ビジネスメールみたいな内容だな」

楠本くんは面白がっている。


「『弁当の内容はあまり重要視していない、そのため他の構成について質問してください』っていえば話を変えられるんじゃないか?」


瀬野くんが助け舟を出してくれた。


確かにその通りかも。


そのように入力してみた。


『なるほど、ユーザーはお弁当の内容についてあまり関心を持っていないようです。仕方ないので、別の構成について検討しましょう』

との返答が。


『仕方ないので』ってどういうこと?

そんなにお弁当の内容って重要じゃないでしょ。


検討の内容として、以下の選択肢が示された。



・主人公がヒロインに告白する

・ヒロインが主人公に告白する



いや、雑すぎない?


「この生成AIって本当にすごいのか?」

楠本くんは生成AI自体の有用性を疑問視し始めた。


正直、僕も疑問視している。


「・・・まぁ、これがどういう物語になるか見てみよう」


そして、出力された物語がこれだ。





「私、無茶はしない主義だから」


眠たい目を擦り、私は冷凍庫を開ける。


朝の5時。


からあげ、ほうれん草の胡麻和え、謎に輝くグラタン。


レンジに放り込み、扉を閉める。


チン。


この音は努力の音だと信じたい。


湯気が立ちのぼる。

箸でつついて、熱さに一瞬ひるむ。


「・・・これはさすがに熱い」


小皿に広げてしばし待つ。


冷ます時間は、罪悪感を落ち着かせる時間でもある。


「お弁当だし、ちゃんと冷ましたほうがいいし」


正論の言い訳は気持ちがいい。


ほどよく湯気が引いたところで再び箸を持つ。


「冷凍でも、最近のはおいしいし」


からあげはちゃんと茶色い。安心できる色だ。


問題は配置。


白米の山は右か左か。緑はどこに置けば“ちゃんと料理したように見える”のか。


赤が足りない気がして、ミニトマトを一粒、保険として入れる。これで栄養バランスは気分的に完成。


少し冷えたおかずを、そっと詰めていく。


隙間がある。そこへほうれん草を押し込む。


「うん、悪くない」


誰にともなく頷いて、フタをパチン。


バッグに入れる瞬間、また言い訳が一つ増える。


「手作りって、工程の問題じゃないし」


そう、これでいい。

これでいいのだ。


昼になったらちゃんとおいしい。

アイツもちゃんと喜んでくれるはず。


「・・・これ、もはやグルメ小説じゃないか?」

楠本くんはそう呟いた。


「グルメ小説っていうか、弁当に冷凍食品を入れることに対して、自分で言い訳をしている小説だな」

瀬野くんも言う。


そもそもラブコメ作品じゃないし。

主人公はどこに行ったの?


前はうまくいったのにおかしいな、と思って前回出力したラブコメを読み返す。


・・・まさか、最初の話でヒロインが主人公に渡したお弁当、冷凍食品の詰め合わせじゃないよね?






「夜野さん、私天才かも」

「違うよ」

彼女はスマホを眺めながら一瞬で答える。


そんな言い切ることないでしょ。


で、何?と聞いてくる。

「生成AIってあるでしょ、あれを使えば理想の彼が私に甘い言葉をささやいてくれるってことに気が付いたんだ。」


あぁ生成AIね、と言って夜野さんはとりあえず聞く姿勢になった。


「で、どんなことを言ってもらいたいの?」


「とりあえず私だけが特別、っていう感じのことを言ってもらいたいかな。」

「生成AIって少なくとも10億人以上は毎日使ってるらしいよ。だから、深山は10億人のうちの1人だね。」


そんな夢のないこと言わないで?


「でも、私にだけ弱音を吐いてくれる、とかだったら私だけが特別って思っちゃうかも!」


「『アクセスが集中しすぎて、回答が遅くなっちゃう・・・君のために早く出力できなくってごめんね・・・』って?」


そういう技術的な問題は聞いてないんだけど。


というか、まだ私のこと特別に見てくれてないじゃん。


「なに、夜野さんは生成AIを使うことに反対してるの?」

「いや、別に反対ってわけじゃないよ。生成AIが本当にときめくようなセリフが作れるのか疑問に感じているだけ」

そっけなく応える夜野さん。


なるほど、それなら私が完璧なセリフを生成してあげよう。


これまでに読んだ少女漫画は数知れず。


どのようなシチュエーションでどういう言葉をかければ主人公がときめくかなんて手に取るようにわかる。


自分の少女漫画の知識を総動員して指示する文章を書いた。


「夜野さんできたよ、これが誰もがときめく完璧なセリフ!」


私は送信ボタンを押して、スマホの画面を彼女のほうに向ける。


『申し訳ありませんが、性的表現に関わる表現は公序良俗に反する可能性があるため、出力が制限されています。詳しくは・・・』


「へぇ、生成AIって結構面白いじゃん。」


生成AIって好きかも、と夜野さんは呟いた。



これ、私の想定していたセリフじゃないんだけど。

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