第15話
サッカーなんて、私がしていいスポーツじゃないって・・・
今は体育の授業中。
私は寄ってくるボールを頑張って避けていた。
なんか当たると痛そうだし。
誰も私のこと見ないで、と思いつつも、完全に気配を消すと欠席扱いになりそうだから、体育の先生だけは見ておいて、と祈りつつ時間が過ぎるのを待つ。
というか、夜野さんはどこ?
見回すとボールの近くにいるからサッカーしてそうだけど、ボールには絶対に触れない、絶妙な立ち位置にいた。
ポジショニングうま。
私もそこに行こうと思って動こうとすると、目の前がサーっと暗くなった。
やば、貧血かも。
あとちょっとで終わるから、とりあえず耐えようと思ってそのまま我慢して立つ。
そしてサッカーの試合は終わり、男子と女子が入れ替わる。
その時、
「すいません、体調大丈夫ですか?」
と声を掛けられた。
正直、体調わるくって顔があんまり見えない。
でも、声を聞くからに男子生徒っぽい。
いきなり体調悪いです、って言われても困るだろうと思って、大丈夫ですよ、とだけ言った。
その男の子はどこかへ行くと、保健委員の女子がやってきた。
早く休ませてよと思いながら、彼女は尋ねてきた。
「深山さん、もしかして今日2日目とかだったりする?」
ちょっと違うけど、私は黙って頷く。
彼女はオッケーオッケーと軽く笑い、一緒に保健室へ向かった。
保健室に入ると養護教諭の先生に彼女が簡単に説明し、とりあえず安静にするように言われた。
水の入ったコップを渡され、ベッドに横になる。
とりあえず、次の時間は休んでいいとのことだった。
ぼーっと保健室の天井を眺めていると、教室の天井の模様と同じであることに気が付いた。
というか学校の天井って全部同じ模様かも。
ぼんやり考えていると、次第に気分が良くなってきた。
そういえば汗の匂いとか大丈夫かな、とそわそわしていると、養護教諭の先生が気分はよくなった?と聞いてきた。
はい、ありがとうございます、と応えると、体調が悪くなりそうだったら前もって体育の先生に相談してね、と言われた。
休んでるのを他の人に見られるのも嫌なんだけどね。
そう思いながらも一応、わかりましたと言って保健室から出る。
体育館に行って制服に着替えてから、できるだけ目立たないように教室に入っていった。
今は昼休み時間だったから、自然に教室に溶け込むことができた。
「深山大丈夫?」
と夜野さんが尋ねてくる。
大丈夫大丈夫、ごめんね、と応えると、
「なんか吉川くんが気づいてくれたっぽいから、ありがとうくらい言っときなよ」
ほら前にいる、と言って彼女は前に居る男子生徒を指した。
猫背の彼はスマホを触っていた。
本当は校内でスマホの私的利用は禁止だが、それを守っている生徒は少ない。
他の生徒と同じように、吉川くんもスマホで何か見ている。
スマホの中身をまじまじと見ちゃ悪いかなと思って、すぐに吉川くん、と声をかけた。
彼は顔を上げる、
ぱっと見て、
普通の男の子だなぁ、と思った。
助けてくれたから悪く言うつもりはないんだけど、印象に残りにくい顔。
でも二重まぶたは結構きれいかも。
「体育のときさ、声かけてくれた?ごめん私その時あんまり覚えてないんだけど、体調悪いの気が付いてくれたって聞いたから。ありがとね。」
と言うと、彼は、はぁ、と気が抜けた表情をしていた。
気づいてくれたのって、本当にこの人であってる?
不安になったので夜野さんのほうに視線を向ける。
いや夜野さん、スマホゲームしてるじゃん。
もうそろそろ先生来るから、早くしまった方がいいよ。
「ま、とりあえず、ありがとね」
じゃ、と言って私は自分の席に戻った。
「ねぇ夜野さん、本当にあの人だったの?」
と聞くと、
「ちょっと待って、今ガチャ引いてるから」
と待つように言われた。
体調の悪い私が、待たされてることってある?
少しの間くらい優しくしてほしいけど、と思ったがしばらく待つことにした。
数分後、
「やっば、そうくんめっちゃかっこいいんだけど。」
彼女は上擦った声で言った。
そうくん、とは夜野さんがハマっているゲーム内のキャラクター。
私も見たけど、なんかこう、生活力がなさそうな感じの男の子だった。
このキャラ、そんなにかっこいいかな。
ヒーローっぽくないし。
ちなみに、同担拒否だとか。
それでなんだっけ、と彼女は聞いてきた。
「だから、本当に吉川くんが私が体調悪いの気が付いてくれたのかって」
「らしいよ。なんで?」
「いや、なんか僕しましたっけ?みたいな感じだったから」
「えっ吉川くん、なろう系主人公みたいなこと言ってたの?」
ぼーっとしてた、と言うと、
「吉川くんもさ、ゲームとかしてたんじゃないの?」
と夜野さんは言ってきた。
学校でゲームをするのは夜野さんくらいだよ。
一応ありがとうって言ってんだからそれでいいじゃん、ということで、この話は終わった。
何事もなかったし、別にこれ以上何か言うつもりはない。
まぁ私としては、体調が悪くなったら保健室までお姫様抱っこして欲しかったけどね。
普通の男の子の吉川くんには無理かな。
いやぁ、王道ラブコメかと思ってたら、まさか主人公が異世界転生してSランク墓守として生計を立てるスローライフが始まるとは。
主人公に対して、
「一緒に墓石を磨こっ!」
と言ってくるヒロインは流石にギャグだったな。
っていうか、なんだSランク墓守って。
出し抜けに、吉川くん、と声を掛けられた。
僕が顔を上げると目の前には深山さんがいた。
あぁ、さっきの。
正面から深山さんを見たのは初めてだった。
ぱっと見て、普通の女の子だな、と思った。
体調が悪かった人にそう思うのはちょっと失礼かも。
でも目はぱっちりしてる。
「体育の時、体調悪かったのに気が付いてくれてありがとう」
と深山さんは口にした。
そういえばさっきの物語、ふらふらして具合の悪そうなヒロインを発見した主人公が自分の家に連れて帰ったところから始まったな。
目覚めると目の前に墓がいっぱいあるって、あの世に来たんじゃないかって思いそう。
さっき読んだ小説を思い出しているうちに、じゃあありがとね、と言って深山さんは自分の席に戻って行った。
何言ってたのかほとんど聞いてなかった。
昼休みを終えるチャイムが鳴り、僕は次の授業で必要な教科書とノートを取り出す。
深山さんは普通の女の子っぽいし、何を言ってたかなんてそこまで重要じゃないか。
数日後、完璧なヒロインに出会えることを期待しながら、深山さんに話しかけられたことはすっかり忘れ、僕は教科書のページをぱらぱらとめくった。




