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神凪 (カナギ) の檻 ―5歳で拾われた美少年は、巫女を一生離さない執着魔王になりました―  作者: 神凪 永遠


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虹色の守護、命の旋律

「……っ、……っ……リュカ……お腹、痛い……っ」


 小さく震えるまゆの声。脂汗が滲むその額に触れた瞬間、リュカの全身に雷が打たれたような衝撃が走った。耳元の漆黒のピアスが、まゆの苦痛と恐怖に共鳴し、ドク、ドクと……主の心臓を直接握りつぶすような、赤黒く烈しい脈動を刻み始める。


「……落ち着け。大丈夫だ、まゆ。俺がここにいる。……俺の目を見ろ。」

(……俺が取り乱してどうする。まゆが……まゆが一番苦しいんだ。俺が、あんたの支えにならなくて、誰がやる……っ!)



 リュカの声は、震えそうになるのを必死に抑え込んだ、低く、重厚な響きを帯びていた。

 一瞬で魔力を練り上げると、邸宅全体を包む虹色の結界を「守護」の極致へと引き上げ、外界の音、光、わずかな塵さえも遮断する完璧な聖域を作り上げた。


「……息をしろ、まゆ。俺の呼吸に合わせて……。そう、上手だ。……あんたの痛みも、恐怖も、全部俺に寄越せ。俺が、あんたの身代わりになってやりたい……っ!」


 リュカはまゆの背後に回り、大きな身体ですっぽりと包み込んだ。

 かつての独占欲という名の檻ではなく、まゆの苦しみをすべて受け止めるための「生きた盾」として。


 リュカは独学で極めた精密な魔力を、温かな陽だまりのような波動に変えて、まゆの腰やお腹へ、痛みを和らげるように絶え間なく流し込み続ける。


「……いいか、ゆっくり息を吐くんだ。俺の呼吸に合わせて……。そう、上手だ。まゆ、あんたは強い。俺が拾い上げられた時と同じ、世界で一番強くて優しい人だ」


 リュカはまゆの首筋に顔を埋め、子供のように、あるいは祈りを捧げる騎士のように、声を殺して泣いた。


 まゆの手が、痛みに耐えかねてリュカの腕を折れんばかりに握りしめても、その痛みを悦びであるかのように受け入れ、まゆの指先を何度も接吻で励まし続けた。



「……怖くないぞ。俺たちの結晶が、もうすぐそこに……あんたを助けに来ようとしてるんだ。……離さない。産まれるまで、いや、産まれてからも一生、俺のこの腕があんたの揺りかごだ。……な、まゆ。愛してる。……世界で一番、愛してるよ……」


 窓の外では、主の強靭な自制心と、愛する者を守り抜こうとする凄絶な執念に呼応して、荒れ狂っていた魔力の風が止み、静かに春の訪れを告げる雨が降り始めた。


 リュカは一晩中、まゆが産声を耳にするその瞬間まで、一秒も欠かさず、耳元で「愛」という名の魔法の言葉を囁き続け、まゆの魂を自らの腕の中に繋ぎ止め続けていた。







 夜明けの光が虹色の結界を白く染め始めたその時、森の邸宅に、透き通るような産声が響き渡った。


「……ぁ、……っ、……まゆ……?」


 一晩中、恐怖と緊張でその精悍なかおを真っ白にさせていたリュカは、その声を聞いた瞬間、糸が切れたようにまゆの枕元に崩れ落ちた。


 自分の状態など二の次で、まずはまゆの顔を覗き込み、生きていることを確かめるように、震える手でその頬を包み込む。


 そこへ、産婆が布に包まれた赤ん坊を、そっと差し出した。


「……っ、……あぁ……」


 その子は、驚くほどまゆに似ていた。


 濡れたような艶やかな漆黒の髪、そして、ふわりと開かれたその瞳は、吸い込まれるような深い漆黒。

 けれど、その瞳の奥底で揺らめく魔力の残光は、リュカと全く同じ、鮮烈で神秘的な虹色の光を放っていた。


「……まゆ、見てくれ。あんたの髪だ。あんたの瞳だ。……なのに、俺の魔力を……俺の『光』を宿して、……っ」


 生まれたばかりの我が子を抱き、その虹色の瞳に自分の「執着の証」を見出したリュカは、歓喜と戦慄が混ざり合ったような声を漏らした。


 耳元の漆黒のピアスが、一族の新しい命の誕生を祝うように、これまでになく神々しく、壮麗な虹色の輝きを放っている。


 まゆは、産後の疲れに青白い顔をしながらも、漆黒の瞳に深い、深い慈愛を湛えて、隣で震えるリュカの銀髪にそっと手を添えた。


「……ええ、リュカ。……貴方がずっと欲しがっていた、私たちの『愛』が、ようやく形になったのね」


 まゆは、自分の腕の中で瞬く小さな命を、愛おしそうに指先でなぞった。そして、そのまま視線を上げ、自分を食い入るように見つめるリュカのオパールの瞳を真っ直ぐに射抜いた。


「……怖がらなくていいわ。この子は、貴方から私を奪うものじゃない。……貴方の執着(あい)と私の受容(しずか)が混ざり合って、この世界に咲いた、新しい神凪(カナギ)の血。……この子が成長するたび、貴方は自分の魔力が私の中で息づいていることを、何度でも思い知るはずよ」



 かつては「自分からまゆを奪う敵だ」と恐れ、拒絶していたはずの存在。それが今、まゆと自分の血が混ざり合った「最高に愛おしい形」として息をしている。

 その事実に、リュカの胸の奥で最後のエゴが溶け落ちていった。


「……信じられない。俺みたいな化け物の血が、あんたの清らかな血と混ざり合って、こんなに……こんなに綺麗な光になるなんて。……あぁ、…俺、……あの日、死ななくて良かった……っ」


 彼は赤ん坊の小さな額に、そして疲れ果てたまゆの唇に、祈りを捧げるような深く、重い、そして永遠の守護を誓う接吻を落とした。


「……ありがとう、まゆ。……俺、一生かけて、あんたたち二人を……世界中の何からも、誰からも……俺の命のすべてを懸けて、守り抜いてみせる。……絶対に、後悔させないから……っ」


 窓の外では、主の歓喜に呼応して、邸宅中の花々が季節を無視して一斉に色彩を増し、狂おしいほどの祝福の香りで森を包み込んでいった。


 それは、孤独な拾い子が「父親」へと再誕し、まゆという名の神に、新しい命という「愛」を捧げた、奇跡の朝の記憶だった。







 嵐のような夜が明け、寝室には温かな静寂が訪れていた。


 極限の疲労と安堵のなかで、まゆは泥のような深い眠りに落ちている。

 その傍らで、二十二歳の精悍な身体を丸めるようにして、リュカは一分一秒たりとも目を離さず、二人の宝物を見守り続けていた。


「……本当に信じられないな……」


 リュカは、まゆの腕の中に抱かれた、産まれたばかりの小さな命を、壊れ物を扱うような指先でそっと撫でた。


 漆黒の髪、そして今は閉じられているけれど、先ほど確かに自分を見つめた深い漆黒の瞳。

 そのすべてが、彼を雪の中から救い上げてくれた「神様」の生き写しだった。


 リュカの耳元の漆黒のピアスは、まゆの穏やかな寝息と、赤ん坊の規則正しい鼓動に共鳴し、トクトクと……まるで祝福の鐘を鳴らし続けるように、深く、神々しい闇を明滅させている。


「……あんたの隣に、もう一人、あんたにそっくりな光がいるなんて」


 リュカは、まゆの頬に張り付いた髪を優しく払い、その耳元で掠れた声を漏らしました。


(……この子は、俺たちの『愛』なんだ。……俺がまゆを愛し、まゆが俺を受け入れてくれた、その証明だ)


 リュカは、まゆの手を自分の頬に寄せ、そこから伝わる温かな体温に安堵の溜息をついた。

 まゆが目を覚ましたら、一番に伝えたかったのだ。

 命を懸けて産んでくれたこの子が、リュカにとっていかに尊い「奇跡」であるかを。


「……まゆ。ゆっくり休んでくれ。……あんたが眠っている間、この世界で一番過保護な守護者が、あんたたちの夢をずっと守っていてやるから」


 リュカは、まゆの唇に、そして赤ん坊の小さな額に、祈りを捧げるような深く、柔らかな接吻を落としました。


 温室から漂う花の香りと、リュカが張り巡らせた虹色の結界。


 その中で、孤独な拾い子だった彼は、今、世界で最も強く、最も幸せな「一人の父親」として、二人の漆黒の天使を慈しみ続けていた。


愛の魔王の子として生まれた新しい命を「応援したい」と思っていただけましたら、

ぜひブックマーク登録や、下の評価欄から【ポイント評価(★)】をいただけますと幸いです。

皆様からの応援が、リュカの魔力を安定させ(?)、何よりの執筆の糧になります…!

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