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神凪 (カナギ) の檻 ―5歳で拾われた美少年は、巫女を一生離さない執着魔王になりました―  作者: 神凪 永遠


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虹色の純白、永遠の宣誓

 邸宅を包む虹色の結界は、主の至高の幸福を祝うように、朝露を弾いてかつてないほど清澄な輝きを放っていた。


 鏡の前で、まゆはリュカが選び抜いた「虹色の純白」を纏っている。

 純白のシルクに、彼の瞳と同じ色彩を放つオパール色のオーガンジーが重なり、彼女が動くたびに春の陽光を閉じ込めたような神秘的な光を放つ。


「……まゆ。あんた、……本当に綺麗だ……」


 背後から、リュカが、震える吐息と共にまゆを抱きしめた。黒い礼服に身を包んだ彼は、鏡越しに自分たちの姿を凝視し、逃げ場を塞ぐようにその細い肩に顔を埋める。


「……ねえ、まゆ。今更、やっぱり止めるなんて言わないよな? ……この扉を開けて、外の世界にあんたを見せてしまったら、もう俺だけの秘密にはしておけないんだ」


「……言わないわよ、リュカ。私は貴方の隣に立つために、このドレスを着たのよ。……ほら、顔を上げて。世界で一番かっこいい、私の旦那様」


 まゆが優しく微笑み、その銀髪を撫でると、リュカは縋り付くようなオパールの瞳を潤ませながら、彼女の指先に祈るような接吻を落とした。

 独占欲という名の恐怖を、まゆの慈愛が塗りつぶしていく。二人は静かに、けれど固い決意を持って、邸宅の外へと一歩を踏み出した。







 丘の上の小さなチャペル。

 村の鐘の音が、清らかに、そして高らかに響き渡った。


 そこに集まったのは、かつて幼いリュカを追い出した非道な者たちではなく、まゆが森の邸宅を守りながら細々と交流を続けてきた、心優しい数人の村人たちだった。


 彼らは、まゆが深い愛情で育て上げた

「孤独な少年」が、どれほど立派に、そして美しく成長したのかを、親代わりのような温かな眼差しで待ち構えていたのだ。


 扉が開かれ、光の中にまゆの姿が現れた瞬間。

 祭壇の前で待っていたリュカの時が、止まった。


(……あぁ、……なんてことだ。俺を拾い上げてくれたあの手が、今は俺と一生を添い遂げるために、こちらへ伸びている……。雪の中で死にかけていた俺が、どうしてこんな……報われるような場所に立っているんだ……っ)


 リュカは、人目も憚らず、感極まって涙を流した。

 かつての孤独な「化け物」は、今、世界で最も愛されている一人の男として、その虹色の涙を隠そうともせずに流し続けたのだ。


「……誓います。健やかなる時も、病める時も。……いや、そんな定型(ことば)じゃ足りないな」


 リュカはまゆの手を強く握りしめ、村人たちにも、そして神にさえも言い放つように、低く、重い、情熱的な声を響かせた。


「……俺は、死が二人を分かつまで、なんて言わない。……来世でも、その先でも。俺のこの執着(あい)が尽き果てるまで、まゆ、あんたを絶対に放さないからな」


 まゆの漆黒の瞳に、リュカの鮮烈な虹色が映り込む。


 誓いの接吻が交わされた瞬間、チャペルの外では、主の歓喜に呼応して、季節外れの虹色の花びらが雪のように降り注ぎ、チャペルを丘ごと祝福の色彩で埋め尽くした。


 それは、孤独な拾い子と、彼を救った少女が、「夫婦」という名の聖域を築き上げた、神話の第一歩であった。







 邸宅の重厚な扉が閉まり、外界の音が完全に遮断された瞬間。それまで「誇り高い夫」として村人たちの前で背筋を伸ばしていたリュカの空気が、一変した。


 リュカは玄関ホールで、背後からまゆを壊れそうなほど強く抱きしめた。

 彼の胸板は厚く、礼服越しでも伝わる鼓動は、狂おしいほどの速さで脈打っている。


「……やっとだ。やっと、あんたを俺たちの(うち)に連れ戻せた」


 リュカはまゆの首筋に顔を埋め、自ら選び抜いた虹色のオーガンジーを指先でなぞりながら、低く、掠れた声を漏らした。


「……まゆ。今日はあんなに大勢に、あんたを見せてしまった。……村の連中が、あんたの美しさに息を呑むたびに、俺、そいつらの目を全部潰してやりたい衝動を抑えるのが、どれだけ大変だったか分かってるのか」


「……リュカ、またそんな極端なことを。みんな、私たちの門出を祝ってくれていたじゃない」


 まゆが困ったように微笑み、自分の肩に置かれた大きな手に触れると、リュカはその手を強引に引き寄せ、掌に深く、執念深い接吻を落とした。


「……あぁ、分かってるよ。でもな、神様にも世界にも『あんたは俺のものだ』と認めさせた今、俺の独占欲は、もう誰にも止められないんだ」


 リュカはまゆを横抱きに抱え上げると、床に足を着かせることさえ惜しむように、月光が差し込む二人の寝室へと彼女を運んだ。


 ベッドに下ろされたまゆの漆黒の髪が、純白のドレスの上に乱れて広がる。

 その上に覆い被さるように膝をついたリュカは、自らの手で、まゆのドレスの背の編み上げを一つずつ、儀式のようにゆっくりと解いていった。


「……あの日、雪の中からあんたが俺を抱き上げてくれた時から、俺、ずっとこの瞬間(とき)だけを夢見てた。……『親』のふり本当に終わりだ。あんたの全部を、俺の熱だけで塗りつぶして、一生……死んでも逃げられないようにしてやる」


 ドレスが肩から滑り落ち、月光を浴びた贅沢なまでの白い肌が露わになる。


 リュカのオパールの瞳は、捕食者のような凄絶な虹色に跳ね上がり、まゆの鎖骨から肩口にかけて、マーキングするように深く、熱い接吻を刻み込んだ。


「……っ、リュカ、……そんなに……」


「……足りない。これだけ愛しても、まだあんたが消えてしまうんじゃないかって怖いんだ。……だから、まゆ。あんたの声を、俺の名前を呼ぶ甘い吐息を、俺だけに全部頂戴。……一秒だって、俺以外のことを考えさせないから……っ」


 リュカはまゆの唇を奪うように、深く、重く、そして「家族」という最後の一枚の仮面を剥ぎ取るような、烈烈とした接吻を落とした。


 まゆは、自分の理性が、彼の「独占欲」という名の甘美な毒によって、跡形もなく溶けていくのを感じていた。

 育ての親としての残火は、もはやどこにもない。彼女は、自分を「獲物」として慈しむ彼の凄絶な虹色の光の中に、自ら堕ちていくことを選んだのだ。


 窓の外では、主の至高の幸福に呼応して、虹色の魔力が爆発するように明滅し、世界から二人の聖域を隠し去っていった。


 それは、孤独な拾い子が「魔王」へと再誕し、自分を救った女神を「一人の女」として略奪した、聖域の完成の夜だった。







 婚礼の日から約一年。


 森の邸宅は、相変わらず外界から切り離された常春の楽園のようだった。

 瑞々しい精悍さを備え、最強の魔導師として成熟し始めたリュカは、あの日から一秒たりともまゆへの情熱を絶やすことなく、むしろその独占欲を深めていた。


 ある静かな夜。月光が差し込む寝室で、まゆはリュカの逞しい胸板に背を預け、彼が愛おしそうに自分の漆黒の髪を梳く指先の感触を楽しんでいた。


 ふと、窓の外に広がる虹色の結界を眺めながら、まゆは何気なく、けれど心のどこかでずっと温めていた問いを口にしました。


「……ねえ、リュカ。貴方は、子供が欲しくない……?」


 その瞬間、リュカの大きな手が、石像のように硬直した。

 穏やかだった寝室の空気が、一瞬にして凍りつくような緊張感に支配されます。


「……子供? あんた、今、なんて言ったんだ」


 リュカの声は、深淵の底から響くような低く、冷徹な響きを帯びていた。彼はまゆの肩を掴み、逃げ場を塞ぐように寝台へと押し倒した。オパールの瞳は、暗闇の中で獲物を射抜くような鋭利な虹色に塗り潰され、凄絶なまでの拒絶を隠そうともしていません。


「……嫌だ。絶対に、認めない」


「リュカ……? どうしたの、そんなに怖い顔をして。貴方に似た子がいたら、きっと可愛いと思って……」


「可愛い? ……冗談じゃない」


 まゆの肩を掴むその腕の力は、あの日雪の中で拾われた子供のような脆さをかなぐり捨て、一人の男としての凄絶な執着に満ちている。



「……まゆ。あんた、まだ分かってないのか。俺にとって、この世界に必要なのはあんた一人だけだ。あんたのその漆黒の瞳に、俺以外の何かが映るなんて耐えられない。……たとえそれが、俺たちの血を分けた子供だとしても、俺は、あんたの愛を分け与える対象なんて、この世に一人だって存在させたくないんだ」


 リュカはまゆの手首を、壊れ物を扱うような慎重さと、決して逃さないという執念を込めて握りしめた。


「……怖いか? 俺のこの、醜い独占欲が。……ああ、そうだよ。俺は救いようのない飢えた化け物だ。あんたの慈愛を、自分一人だけで食らい尽くしたいんだよ。……あんたが子供を抱いて、俺を後回しにするくらいなら……俺、その子にさえ嫉妬して、狂いかねないんだ……っ」


 彼はまゆの唇を奪うように、深く、重い、そして「子供(ライバル)」の入り込む隙間など一ミリも残さないという、呪いのような接吻を落とした。


「……忘れるな、まゆ。あんたの未来も、魂も、全部俺のものだ。……子供なんていらない。俺だけを見て、俺だけを愛して、俺の熱だけで生かされていろ。……あんたの全部……死ぬまで、俺だけのものだ……っ」


 不敵に口角を上げたリュカの微笑みは、聖母のようなまゆを自らの毒で再び塗りつぶし、二人きりの永劫の檻に閉じ込めようとする、凄絶なまでの「愛の狂気」に満ちていた。


 まゆは、リュカのあまりに純粋で、あまりに歪んだ愛の形に、戦慄しながらも、それを受け入れてしまう自分自身の業の深さを痛感するのだった。


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