表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神凪 (カナギ) の檻 ―5歳で拾われた美少年は、巫女を一生離さない執着魔王になりました―  作者: 神凪 永遠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

真実の誓約、独占の衣

 夜の温室は、リュカの魔力が放つ虹色の燐光と、世界中から集められた花々の芳醇な香気で満ちていた。


 まゆは、一点の曇りもない決意を胸に、リュカをこの「独占欲の象徴」へと誘った。

 背後から感じる、リュカの気配。彼は獲物を追い詰めるように、けれど壊れ物に触れるような繊細さで、まゆの腰を抱き寄せた。


「……こんな夜更けにどうしたんだ、まゆ。ここなら誰も来ない。俺とあんた、二人きりの『楽園』だ。……もう、外のことなんて考えなくていいだろ……?」


 リュカの声は、甘く、けれど逃げ場を塞ぐような重みを持っていた。オパールの瞳は、暗闇の中で激しく虹色に明滅し、まゆをこの「箱庭」に永遠に閉じ込めておきたいという凄絶な渇望を剥き出しにしている。


 まゆは、ゆっくりと振り返り、その震える大きな掌を自分の頬に添えさせた。


「……リュカ。貴方は、私を失うことがそんなに怖いのね。……私の気持ちが外の世界へ向くたびに、貴方の心が削り取られていくのが分かるわ」


 まゆは、逃げようとする彼の瞳を真っ直ぐに見つめ、優しく、けれど断固とした口調で続けた。


「……ねえ、リュカ。そんなに怯えなくていいのよ。貴方の愛は、とっくに私を捕まえているわ?……でも、貴方が今のままの『苦しい愛し方』で自分を焼き尽くしてしまうのを見るのは、もう耐えられないの」


 まゆは、彼の胸元にそっと手を置き、自分の心音を伝えるように深く、深く息を吐いた。


「……だから、……リュカ、結婚しよう…? 私の未来、魂ごと、貴方にあげる。……言葉だけじゃない、一生解けない『契約』として、私は貴方のものになるわ」


「…………っ、……まゆ……?」


 リュカの時が、止まった。

 強引に抱きしめていた腕の力が抜け、峻烈な魔王のような美貌が、信じられないものを見た子供のように、その場に崩れ落ちるように膝をついた。

 オパールの瞳からは、歓喜と、それを上回るほどの「救済」に打たれた虹色の涙が溢れ出す。


「……結婚……? 俺と、まゆが……。……魂ごと、俺に……? 嘘だろ、夢じゃないのか……?」


「夢じゃないわ。……だから、リュカ。もう自分を追い詰めるような独占はやめて。……貴方が安心して、私と一緒に、少しずつでいいから……また外の世界の光を美しいと思えるようになるまで、私はずっと、貴方の側にいる。……貴方を救ったあの日のように、今度は、貴方の『妻』として、貴方の心を照らし続けたいの」


 まゆは跪くリュカの頭を優しく抱き寄せ、その銀髪に慈愛に満ちた接吻を落とした。


「本当に……未来を…魂ごと、俺に……くれるのか……?」


 リュカは膝をついたまま、震える手でまゆの指先を握りしめた。

 魔法による契約の強制などそこにはない。けれど、まゆの漆黒の瞳に宿る、逃げも隠れもしない真っ直ぐな「情愛」が、どんな禁忌の術式よりも強く、重く、リュカの魂を縛り上げた。



「ええ。……だから、もう怯えないで。これからは『お姉さん』じゃない、貴方の隣で一生を共にする、貴方だけの『妻』として生きていくわ」


 まゆが優しく微笑み、彼の額に誓いの接吻を落とした瞬間。

 リュカの心に十数年居座っていた「見捨てられる恐怖」という毒が、まゆの宣言によって浄化され、熱い涙となって溢れ出した。


「……あぁ、……あぁ……っ! 俺、……あんたに拾われたあの日から、この瞬間(とき)だけを待っていたんだ……。……まゆ。あんたを、誰にも渡さない。あんたを、何からも守り抜く。……俺のこの命、全部あんたの『幸せ(リュカ)』でいるために使い果たすよ……っ」


 苛烈な「監禁」が、一生解けない「契り」へと昇華された、運命の夜だった。







 誓いの夜が明け、温室の虹色が朝露に濡れていっそう輝きを増した翌朝のこと。


 寝不足で少しだけ瞳を潤ませたまゆは、朝食の席で、向かいに座るリュカをじっと見つめた。


「……ねえ、リュカ。私、ひとつだけ……我儘を言ってもいいかしら」


 まゆの珍しい切り出しに、スープを口に運ぼうとしていたリュカの動きが止まった。十八歳の精悍なかおに、一瞬で「まゆの願いなら何でも叶える」という、凄絶なまでの献身が宿る。


「……我儘? 言ってくれ、まゆ。あんたが望むなら、夜空の星だって、王宮の財宝だって、俺の魔力で全部引きずり下ろしてくる」


「そんな大層なものじゃないわ。……ただ、私……貴方と、結婚式を挙げたいの」


 まゆは、少しだけ頬を赤らめ、はにかむように漆黒の瞳を伏せた。


 それは、かつての「育ての親」としての義務感や、リュカを救うための「義務」ではない。一人の恋する女性として、大好きな男性と、一生に一度の誓いを交わしたいという、あまりに純粋で愛らしい「おねだり」だった。


「……丘の上の、あの小さなチャペルがいいな。……それから、ウェディングドレスは……リュカ、貴方に選んでほしいの。貴方が私に一番似合うと思うものを、着たいから」


 まゆが上目遣いにそっと見つめると、リュカのオパールの瞳が、驚愕と、それに続く猛烈な愛おしさに激しく、虹色に明滅した。


(……あぁ、なんてことだ。まゆが俺に『甘えて』いるのか? 俺に、ドレスを選んでほしいと……? あんたのその漆黒の瞳が、俺のために、俺との未来のために潤んでいるなんて……っ!)


 リュカの胸の奥では、爆発せんばかりの歓喜が荒れ狂っていた。

 彼は立ち上がると、たまらずまゆの傍らに膝をつき、その手を自分の両手で包み込んだ。


「……断るわけないだろ。……あぁ、まゆ。あんたって人は、俺をどうするつもりなんだ。……分かった。あんたが望むなら、世界で一番美しい式にしてやる。……ドレスも、あんたのその白い肌に一番映えるやつを、俺が死ぬ気で選んでやるからな」


 リュカはまゆの手の甲に何度も、熱い、誓いを刻むような接吻を落とした。

 その瞳には、獲物を手に入れた「魔王」の独占欲ではなく、ただ、愛する人の願いを叶えられる喜びに震える、「一人の青年」の純粋な情熱が溢れていた。


(……待っていろ、まゆ。あんたを世界で一番綺麗な花嫁にしてやる。……そして、その姿を一生、俺のこの虹色の瞳(檻)に焼き付けて、誰にも渡さないからな……)


 不敵に、けれどかつてないほど幸福そうに微笑むリュカ。


 その日から、リュカの執念は凄まじいものとなった。まゆの願いを叶えるためだけに、最強の魔導師としての才を惜しみなく注ぎ込み始めたのだ。







 婚礼の日取りも決まったある日の午後。


 邸宅の一室には、リュカが王都の商団や、果ては異国の職人にまで手を回して集めさせた、最高級の反物が山のように積み上げられていた。


「……どれも、悪くはない。だが、まゆの肌を濁らせるような白では意味がないんだ」


 リュカは、銀髪をわずかに乱し、オパールの瞳を鋭い虹色に光らせながら、一枚一枚の布地を厳格に選定していた。その集中力は、禁忌の術式を編み上げるときよりも遥かに高く、側で見守るまゆが気圧されるほどの熱量を放っている。


「リュカ……そんなに根を詰めなくても……。貴方が選んでくれたものなら、私は何でも嬉しいのよ」


 まゆが困ったように微笑み、彼の肩にそっと手を置いた。その瞬間、リュカの険しい表情が嘘のように蕩け、彼はまゆの手を執拗なほど慈しむように引き寄せた。


「……ダメだ。あんたが『俺に選んでほしい』と言ったんだ。……世界で一番、あんたを美しく、そして『俺のもの』だと知らしめる一着でなきゃいけない」


 リュカは、一反の布地を手に取った。

 それは、純白のシルクの上に、光の角度によって真珠層のように妖しく、けれど繊細に虹色に偏光する「オパール色のオーガンジー」を重ねたものだった。


「……これだ。この白は、雪の中で俺を拾い上げてくれたあんたの清廉な魂そのものだ。……そして、この上に重ねる虹色は、俺の瞳の色だ」


 リュカは、その布をまゆの身体に添わせ、恍惚とした、けれど獲物を檻に閉じ込めるような独占欲に満ちた眼差しで見つめた。


「……まゆ。あんたの純白を、俺の色(虹)で包み込んで、誰の目にも触れさせたくない。……まゆがこのドレスを纏って俺の隣に立つ時、俺は世界で一番『幸せ(リュカ)』になる。……いいだろ? あんたの肌も、心臓も、このドレス越しに俺の魔力(あい)だけで満たしてやるからな」


 リュカはまゆの首筋に鼻先を寄せ、理性を溶かすような、低く掠れた声で囁いた。


 彼にとって、このドレスは単なる祝儀の衣ではない。まゆを自分だけの「神」として祀り上げ、外界の不浄から守り抜くための、美しくも重い「所有のヴェール」だった。


 まゆは、彼の瞳の奥に渦巻く、あの日から一ミリも衰えない——むしろ熱を増した執着を感じ取り、微かに身震いした。

 けれど、自分を包み込む彼の魔力が、あまりに温かく、切実であったから。


「……ええ。貴方の色に染めて。……リュカ、私を、貴方だけの花嫁にして」


 まゆがその胸に顔を埋めると、リュカは勝利を確信した魔王のような、けれど最愛の宝物を手に入れた子供のような、凄絶なまでに美しい微笑みを浮かべた。







 ドレスの選定を終えた数日後、式の細かな打ち合わせの中で、リュカはあからさまに眉をひそめていた。


「……まゆ。なぜ他人が必要なんだ。俺とあんた、二人だけで永遠を誓えば十分だろ。……村の連中なんて、あんたのその美しい姿を汚すノイズでしかない」


 リュカにとって、愛とは「隠し通すもの」であり「閉じ込めるもの」だった。

 虹色の結界の外にいる人間たちは、彼にとってまゆの純白を脅かす不純物に過ぎない。


「いいえ、リュカ。私は貴方の妻として、みんなに祝福されたいの。……それに、貴方がどれほど私の誇らしい夫か、見せびらかしたいのよ」


 まゆは、困惑に揺れるリュカのオパールの瞳を真っ直ぐに見つめ、茶目っ気たっぷりに、けれど切実な響きを込めて微笑んだ。


 彼女は知っていた。二人きりの閉ざされた楽園は、いつかリュカの心を窒息させてしまう。彼が「化け物」ではなく「愛されるべき一人の男」としてこの世界に立つのを、誰よりもまゆ自身が望んでいたのだ。


「……っ、……ずるいだろ、そんな顔。あんたにそう言われたら、俺……断れるわけないだろ……」


 リュカは不機嫌そうに銀髪をかき上げ、顔を背けた。しかし、耳元は隠しきれない歓喜で赤く染まり、その瞳は「誇らしい夫」という言葉に射抜かれ、熱っぽい虹色の光を放っている。


「……分かったよ。数人だけだ。……その代わり、誰かがあんたを不躾な目で見た瞬間、俺がこの森ごとあんたを連れ去らないように、しっかり俺の手を握っていてくれよ」


 リュカはまゆの指先を絡め取り、二度と離さないと言わんばかりの力で握りしめた。


 独占欲という名の檻は、まゆの慈愛によって、少しずつ、けれど確実に世界へと開かれる「窓」を持ち始めていた。


 邸宅を満たす濃密な魔力は、主の複雑な葛藤と至高の幸福を映して、窓の外の雪をキラキラとした虹色の結晶に変えていく。


 二人の「共生」は、丘の上の小さなチャペルで、世界への宣誓という名の新しいページをめくろうとしていた。


ついに、迷い続けていた二人が一つの「檻」の中に定まりました。

リュカの狂おしいまでの執着を受け入れ、自らその伴侶となる道を選んだまゆ。

もし二人の新しい門出を「祝福したい」と思っていただけましたら、

ぜひブックマーク登録や、下の評価欄から【ポイント評価(★)】をいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ