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クリスマスノトクベツヘン──この少女に奇跡を──

作者: FUJIHIROSHI
掲載日:2025/12/21

『鬼ダラケ』の少女、天音清歌を再び主人公にした物語。

ウンノナイオンナ(ダイエットに成功して探偵事務所でバイトをしている時の八千代)と怨念遺伝(桜紗)の二人が出ています。

クリスマスなので、ちょっと遊び心で作りました。

 鬼羅岳きらだけふもとにある小さな町。ここは県の最西端に位置し、山間部と中心部を二分する峠が連なる。

 十二月下旬、空はどこまでも青く、紅葉シーズンも終わり町は一気にクリスマスムードだ。


 しかし、その華やかなムードには、あまりにも似つかわしくない少女が一人、町をさまよっていた。

 午後九時を回っているというのに。

 薄汚れた服装で、そのうえ裸足で、人目を避けて。


 寒いと、か細くつぶやき、少女はビルとビルの間のゴミの散らかる狭間に身を隠した。


 天音清歌あまねきよか。あまりにも不幸なこの少女。以前母親に、鬼が巣食うといわれた鬼羅岳の森に捨てられた少女だ。

 鬼に救われ、児童養護施設に入所したのだが、そこでもまた性的な暴力や身体的な暴力を受け、この夜、逃げ出した。


 座り込む清歌は、目の前に落ちていたライターを拾うとスイッチを押した。

 ささやかな灯りが少女の顔を赤らめている。


「本当だ。少し、暖かい」


 清歌はまだ、母親が優しかった頃に読んでもらった〈マッチ売りの少女〉を思い出していた。

 見つめる火がぼやけていく……。



 不意に、その視界に入る足。

 顔を上げた清歌は青ざめた。みーつけた。と、施設職員の男だった。

 少女は抱え上げられ、車に押し込ませた。


 清歌が連れて行かれたのは児童養護施設ではなく、山の中腹にある、荒れ果てて壁は落書きだらけの、以前はホテルだったと思われる廃墟。

 エントランスに、すでに三人、仲間の男たちがいる。


「何だよ泰孝やすたか。そのガリガリのガキは」男の一人が言った。


 俺のお気に入り、と施設職員の泰孝は歯を剥き出して笑う。


「すぐに追いかけたんだけど見失っちゃってさ、時間かかっちゃったよ」


「また増えやがった。どうなってんだよ今日は」と別の男が頭を掻き「考えるからその部屋に入れておけよ」古く、所々傷んでいるドアを指差した。


 後ろ手に縛られた清歌がその部屋に入るなり、怒声が響く。


「えええ? あんたら、こんな小さい子までさらったの? 変態! 馬鹿ども」


 清歌は驚き身をすくめた。


「ああ、ごめんね。大きな声出しちゃったね。ほら、こっちにおいで」


 そう言った女は、やはり後ろ手に縛られ、足も縛られて体育座りをしていた。


 シュッと顎の細い、ふんわりとした丸みのあるショートカットの女。眉山に角度のないキリッと眉に、丸みのある目だが、こげ茶色の瞳が目力を強くしている。小鼻で薄い唇。普段から鍛えているのであろう、細身だがメリハリのある体型。


 この女、一見可愛らしいが、男たちを罵る姿は異様だ。清歌も引いている。男に恨みでもあるのだろう。そう、子供の頃から、男運どころかすべてにおいて運がないのだ。

 今もこうして、バイトに向かう途中にコンビニ強盗に巻き込まれ、誘拐されていた。


 以前のような体型なら、さらわれなかったと思うのだが。「ん? 体型が何だって?」


「おねえちゃんも捕まっちゃったの? きよかと同じだ」


「え? んー? そうなの。ははは、捕まっちゃった。きよかちゃんて言うんだね。おねえちゃんは八千代。千代田八千代ちよだやちよ


 つくづく運のない女だった。「うるっさいわ!」


「え?」


「ううん、こっちの話——あれ? 清歌ちゃん、裸足? なんで……寒いでしょ、具合は大丈夫?」


 この部屋にはランプが一つ。薄暗い中、八千代はようやく清歌の状態に気がついた。異様に痩せていて頬にアザもある。痛々しい姿。

 あいつら、まさか、こんな小さい子に酷いことしたんじゃないだろうな。八千代の怒りは増していく。



「ここから一緒に逃げよう、清香ちゃん。後ろ向きでおねえちゃんのロープ解けるかな?」


 この男たちには計画性がなかった。コンビニ強盗も、八千代をさらったのも、その行動は出たとこ勝負の行き当たりばったりだった。



「ハルくん、そろそろ来ちまうな。久しぶりに帰ってくるから祝おうって集まったのに、お前ら2人はコンビニ強盗して女さらってくるし、パーティが台無しだぜ」


「あの女はさ、逆にハルくん喜ぶだろ。ドラッグに女は欠かせねぇ」


「ガキは余計だよな。殺しちゃうか?」


「ダメだよ。清香ちゃんは駄目。俺が連れて帰るよ」


「じゃあ何でここに連れてきたんだよ、アホ。ハルくんにそっちの趣味はないぜ」


「退勤前にいきなり抜け出しちゃったから探さないわけにいかなくてさ。施設のみんなもまだ探してるだろうから、ちょっと楽しんだら帰るよ」


「ハルくんが許すと思うか? お前ら考えろよな、おまわり動かしてどうすんだよ」


「見つかんねーって」


「なあ、女は平気だろ? 喜ぶだろ?」


「……ちょっと黙ってろ」


 まるでまとまりがない。



「あー、もうどうでもいいや」男たちの一人がナイフを手に、清歌たちのいる部屋のドアノブに手をかけた。


 ドアの向こうには、自由になった清歌と八千代が待ち構えていた。

 軋む音を立てながらドアが開く。

 逆側のドアノブを思い切り八千代が引くと、バランスを崩しながら部屋に入って来た男の手からナイフを蹴り飛ばし、一本背負い。


 一人、二人、三人——。「な、何だお前——」くるりと反転し、後ろ蹴り。最後に施設職員の男の腹に、八千代の踵が突き刺さる。

 あっという間に四人の男を倒した。


「清香ちゃん、逃げて! すぐに行くから外で待ってて」


 清歌を外に逃がした八千代はかがんで男たちを縛り始めた。「変態ども、鍛え方が違うんだわ。覚悟──」


「きゃあ」


 八千代はとっさに声の方へ振り返った——もう一人いた? いや、もう一人来たのだ。

 清歌が大柄な金髪の男に捕まっている。

 男は、たいした女だなと、ヘラヘラと笑い、強気な女を服従させるのが好きなんだよと、八千代を見下ろす。

 男の手は、清歌の首を握っている。その右手に力を入れれば、清歌の細い首は二秒と持たないだろう。


「送られてきた写メ通り、いい女じゃねえか。大人しくヤラれろよ。まずは、服を脱いでもらおうかな」


 男は右手に力を入れる真似をする。


 この距離ではどう考えても間に合わない。八千代が上着に手をかけた。その指先がかすかに震えていた。

 八千代は考えている──やばい。服を脱ぐのはまずい。問題なのは裸になることではない。なぜなら一年半、武道を学び必死に鍛えてダイエットをしたが、急激なダイエットで未だに伸び切った腹の皮が残っていた。ダラリと!

 腹の皮がダラリと残っているのだ!! 「ちっっがうわボケ! 普通に裸がイヤなだけだわ、2度も言うなや。今ギャグパートじゃないっつーの。物語が違うってのに、何でまたこのナレーターなのかな? 緊張感ぶち壊しなんですけど!」


 …………。


「どこの誰に言ってるかわかんねーけど、黙って脱げ——」言いかけた金髪男の首が直角に曲がった。後ろから殴られ、崩れ落ちた。

 清歌はへたり込んだ。


「ふうーやれやれ、鬼の残り香につられて来てみれば、何だこれ?」


 突然現れた男はそう言って、太い角材を放り捨てた。


 白を基調としたその格好に、切長の目。その男に清歌は「あ、あ、ありがとう」震えて言った。


「いや、近くにいたもんでね。よくわからないが、助けになったのなら良かった。出どころは君か。しかし……もう鬼は憑いてないようだな」


「あなたは?」

 

八千代は警戒している。


「あー、城上だ。城上桜紗しろかみおうしゃ


 怪しいもんじゃない。とため息混じりに言い、続ける。日本中を旅していてね、ちょっと……通りかかっただけさ。と周りを見回しながら言った。


「怖かったね。もう大丈夫だからね」


 八千代は膝をつき、清歌を優しく抱きしめた。

 頭をなでられる気持ち良さと、抱きしめられた温かさで、清歌は震えた。

 清歌も八千代を抱きしめ返す。「ああ、あ、あ、あ、あ」清歌の大粒の涙が八千代の肩を濡らしていた。


「この子、相当悪いもんに絡まれてるな。()()()()が、()()で会ったのも何かの縁だ。俺が祓っといてやるよ」


 桜紗が清歌の肩に手を当て「ちてや」と小さく言った。その手から、か細い肩へ、放たれる光が清歌を包み込んだ。周囲を照らすランプの灯りよりも強く、そして温かい。

 

「え? 何? 何?」と清歌を抱きしめながら首だけを桜紗に向けて八千代が「祓うって、それって鬼が何とかかんとか言ってたやつ? それって悪い運とかも消せるんですか?」


「まあね。ただ、鬼のそれは悪いもんじゃないな。この子を苦しめているのは身内の思念だ。そいつを祓う。だが、君の不運は別物だよ、持って生まれたもの。どうにもならないね」

 ああ、そう。と八千代は肩を落とすが、「母親が守ってくれている。だからそれで済んでいる。俺が余計なことをする必要はない」と桜紗はつけ加えた。


「え? お母さん? 私の?」


「それよりも、その子をどうにかした方が良いんじゃないか?」


「あ、そ、そうだね」


 清歌の頬をなで、八千代はニコリと笑う。


「顔色が良くなってる。もう大丈夫だからね。一緒に帰ろう」


 清歌は——「うん!」と、明るく元気に笑った。




 ——ことり、と手からライターが落ちた。

 ビルとビルの狭間で清歌は胎児のように体を丸めて横たわっていた。


 いままでの、2人との出会いは夢だったのか——。


 たとえ夢だったとしても──目をつむったまま動かない清歌の、少し干からびた唇が嬉しそうに微笑んでいる。




「可哀想に——」



 清歌は最期、「可哀想に──」と憐れむ、優しく温かな女の声が聞こえた、気がした……。


 いま、小さな命の灯が消えた……。



 おしまい

このあと天音清歌は憐れみの天使に再び命を与えられて、異世界に転生して──

それは、また別の物語で。

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