さくらみつめ
失恋で泣いている女子を一瞥し、その場を立ち去った。
中学校の卒業式。
そんな日に、好きな人に告白するというのは定番だ。
サラサラの髪にきりっとした目。澄んだ青の瞳は宝石のようだと称され、スタイルも良い。
そんなオレは幼少期からモテたため、自分は顔がよく、女子に人気であることは昔から自覚していた。
あまり興味を持たれないような態度をしてきたつもりだ。だが、冷ややかで笑わないその姿は『氷の貴公子』などと呼ばれ、逆に女子が集まった。
何故、自分に冷たい男に恋をするのだろうか。
ふと目の前を薄桃色の花びらが横切った。
ある少女の、はにかむ姿が浮かぶ。
―君は、どこにいても思い出してしまう。
思わず口元が緩む。
想っては、いけないのに。
……嗚呼、そうだ。告白したくなる理由だったな。
そうだな―
隣にいたい。
隣にいたい?
勝手に好かれただけの者からすれば迷惑だ。
話したことのない人に告白して、叶うと思っているのだろうか。
……考えるだけ無駄だな。
オレは頭上を見上げ、桃色の花を見つめた。まだ咲き始めたばかりだが、とても美しい。
花の名はソメイヨシノ、「桜」とも言うらしい。
異世界人が広めたのだとか。
優しい色だ。
勝手に周りに人が集まる人気者。
顔も整っていたが、それ以上に親切で優しい。
輝いていた。
まるで、一等星のように。
そんな君に近づきたくて。
でも、だからこそ。
近づけなかったんだ。
退屈な時間を、桜を見つめて過ごす。
偏差値高めの自称進学校。
家が近いのもあり、母に言われて入学したが、別段この学校に期待してはいない。
誰が考えたのだろうか、その入学式は無駄に長い。
座り心地は悪くないパイプ椅子。司会の落ち着いた声。うららかな天気。
睡眠への最高の環境が整っている。
芸能人を撮るかのように新入生を撮るカメラマンに、あくびのシャッターチャンスをプレゼント。
ぼうっとしながら、次々と呼ばれる新入生の名前を耳から耳へ流す。
かろうじて同学年の者の名前は聞く。
「―」
……その、名前は
あの頃を思い出す。
優しい桃色の桜吹雪が脳を埋め尽くす。
懐かしい。
まだ字も書けなかった幼稚園時代。
君と出会ったとき、運命だと心が感じた。
楽しそうな君を見ていると、どきり、と胸が高鳴って。
気づけば、ずっと君だけを見ていた。
―隣にいたい。
君の笑顔が眩しくて。
―隣にいたい?
でも、オレが話しかけ、ましてや告白なんかしたら、彼女は。
―勝手に好かれただけの者からすれば迷惑だ。
近づけない。
―話したことのない人に告白して、叶うと思っているのだろうか
好きと言ったことで、嫌われたくないんだ。
そんな臆病なオレは君に相応しくない。
だから想ってはいけない。
でも、諦めきれなくて。
それからはただひっそりと、オレを見てくれることを願って―
「―」
司会にオレの名前が呼ばれた。
慌てていたが、クラスメイトたちに指摘されないよう、優雅に起立した。
その後も式はつつがなく進み、教室へ移動した。
出席番号順となった席に座る。
たしか、君の席は後ろで―
ちらりと視線を向ける。
緊張のあまりに頰が紅潮する。
今まで、ずっと無意識に桜を見ていたことにオレは気づいていなかった。
「……サクラ?」
また、あの花の名を冠する少女に、会えたなら。
次こそ勇気を出して、素直になれるだろうか。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
反応がよければ、続きも書こうかと考えています……
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