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【第15課】ユウトの問い 〜“テモイイデスカ”と音から見えた世界〜


授業の最後、タカシはふとユウトに目を向けた。

「ユウト、“〜テモイイデスカ”を使って、何か聞いてみてくれ」


ユウトは少しだけ考えてから、静かに口を開いた。


「ボクは……“ここに いても いいですか?”」


一瞬、教室が静まり返る。



──その少し前、前日の夜。


ユウト=カンジは、寮の一室でひとりノートを開いていた。

広げられたページには「テケイの変化規則」という文字と、

びっしり書き込まれた注釈が並んでいる。


(“イチリ”は“ッテ”、“ビミニ”は“ンデ”……。

このパターン、一見丸暗記するしかなさそうだが、何か法則あるかも?)


彼は音韻論の参考書を引っ張り出し、繰り返し例を読み直した。


(“行きます”が“行って”になるのも、“いいて”と母音が続くのを避ける“ニホンゴ”の傾向……。

なるほど、音の自然な流れが優先されているんだ)


その分析は、翌日の授業で静かに話題をさらうことになる。




翌日、教室では“テモイイデスカ”“テハイケマセン”の文型を学ぶ授業が始まっていた。


「“トイレに いっても いいですか?”」

「“ここで タバコを すっては いけません”……」


タカシが板書しながら、生徒に一人ずつ例文を作らせていた。


しかし、生徒たちはまだ“テケイ”に慣れておらず、活用に詰まっている。


「“アソビマス”……“アソ……アソビテ”?」リリィが首をかしげる。

「ちがーう、“アソイデ”ダ!」グンゾが叫ぶが、思いっきり間違えている。

「“カエリマス”……“カエッテ”?」クーニャが答えるも、やや不安げ。


そのとき、ユウトが静かに手を上げた。

「“イチリ”は“ッテ”、“ビミニ”は“ンデ”です。

“カエリマス”は“カエッテ”、“アソビマス”は“アソンデ”。

この変化は、語末の子音の長音点の位置に基づいています。


長音点というのは、発音するときの舌や口の位置のことです。

「ア “イ” マス」「マ “チ” マス」「ト “リ” マス」

一見まったく違う音でも、実は舌の位置が近く、言いやすいため、これらは同じ“ッテ”という“テケイ”になるんです。

たとえば、“行きます”が“行って”になるのも、“いきて”→“いいて”という母音の連続を避ける音韻的理由があります。

“ニホンゴ”では母音の連続が聞き取りにくく、不自然になる傾向があるので、こうした変化が起こるのです」



教室がしんと静まり、誰かの鉛筆が止まる音すら聞こえた。


「おおっ……なんか、すごく理屈っぽいけど、納得したかも」


「ユウト、すげぇ……。ちゃんと、理由があるんだな」


「ふふ、それも“ニホンゴのウツクシサ”ね」


ユウトは照れたように俯いた。

(“カイワ”の中でしか気づけなかった発見……。話してよかった)



授業の最後、タカシはふとユウトに目を向けた。

「ユウト、“テモイイデスカ”を使って、何か聞いてみてくれ」


ユウトは少しだけ考えてから、静かに口を開いた。


「ボクは……“ここに いても いいですか?”」


一瞬、教室が静まり返る。


そのあと、リリィがまっすぐに笑った。

「もちろん、いいに決まってるよ!」


「おまえ、まだカイワヘタだけど、ベンキョウスルの、すごいマジメだし〜」クーニャが肩を叩いた。


「あなたのことば、どこかしら“オトのチュウシャク”のような深みがあるわ」セイアは微笑む。


「ユウトの“カイワ”、おもしろいわ。“センス”、あると思う。」ヴァイスも照れくさそうに目をそらした。


グンゾは大声でうなった。

「ってか、オレより試験の点数高いんだから、おまえは・・・いていいッ!!」


タカシは、ゆっくりと頷いた。

「“テモイイデスカ”の“キョカ”は、ルールだけじゃなくて、“キモチ”が大事だ。おまえがここにいたいなら、それで十分だ」


ユウトは、やっと笑った。

「……ありがとう、ございます。」


――つづく


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