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【第10課】カナヅチハ“イマス”? アリマス”?

――朝、教師寮の裏庭。


タカシが洗濯物を干していると、庭の井戸のあたりから何やら「ガンッ」「ガシャーンッ!」という音が響いた。

 

「おいおい、朝っぱらから何だ……魔物か!?」

慌てて駆けつけると、井戸のそばでグンゾ=アイアンベルクが逆さまになって転がっていた。

 

「……な、なんで逆さま?」

「オ、オレノ カナヅチ……!モノホシザオニ カケタラ……オチタァ!」


タカシが顔をしかめる。

「……いや、物干し竿に干すって発想がまずおかしいだろ! それ、鍛冶道具だぞ!?」


グンゾが仰向けで天を見たまま、なぜか誇らしげにうなずいた。

「……ダッテ、“カンソウ”ハ タイセツダロ?」


隣ではセイア=ミレシェルが、井戸の水をバケツで汲みながらくすっと笑っていた。

「朝から賑やかね、先生」

「いや、うん……これが俺の日常なんだ……」

 

 

その日の授業開始前。


「よーし、今日はフィールドワークに行くぞ!」

タカシが教室に入るなりそう宣言すると、生徒たちが目を丸くした。


「フィールドワーク……?」

「教室ノ ソト、イクノ?」


「うん、今日は“〜ガ イマス/アリマス”を使って、実際に存在を観察しながらニホンゴを使ってみようってわけだ」

「オ〜! タノシソウ!」

クーニャが机の上でピョンと跳ねる。


「準備できた人から、裏庭集合! グンゾ先生が井戸でひっくり返ってるぞ!」

 

 

【王立学園・中庭】


「さあ、ここにはいろんなものがあるぞ。生き物も、物も、植物も!」


タカシは手を広げて言った。

「ニホンゴでは、生きてるものには“イマス”。動かないもの、植物には“アリマス”。この違いが、ニホンジンの“ものの見方”を表してるんだ」


「でも、“キ”ハ……イキテマス? アリマス?」

リリィが木陰を指さす。


「植物も“イキテイル”けど、ニホンゴでは“モノ”として見る。だから“キガ アリマス”だな」

「……フシギ……」

 

「じゃあ、今からグループで“イマス”と“アリマス”を探して、文にして発表!」

タカシが手を叩く。

「校舎の外、池のまわり、魔導農園エリアも見に行っていいぞ!」

 

 

【リリィ&ヴァイス】

「ミズノ ナカニ、サカナガ イマス」

「ミズノ ソトニ、ツリザオガ アリマス」

「ニホンゴ、メッチャ テイネイ……」

「気づいた?“イマス”は生き物を尊重してる。……日本語、好きよ」

 

【ユウト&クーニャ】

「ネコガ イマス!」

「ミケノ ヒゲ、カワイイ!」

「ドアノマエニ、マホウノツボガ アリマス」

「マホウノツボ……? それ、“ツボノ カタチシタ ゴミバコ”!」

「フン……フメイナ ブンカダ……」

 

【グンゾ&セイア】

「カベニ ハガネノ プレートガ アリマス」

「ソノ プレートノ エハ……ヒト ノ ヨウナ モノガ イマス」

「……ソレ、“ガクブチノ シャシン”」

「ナルホド!」

(※二人とも観察眼が偏っている)

 

 

最後に、生徒たちが黒板にまとめた。

・イマス:ネコ、ヒト、サカナ(生きているもの)

・アリマス:キ、ツボ、イス、ドア(モノ・植物・場所)

→ サカナハ、イケニ イマス。デモ、オサラノウエニ アル……?

 

「そう、焼き魚は“アリマス”になる。俺たちニホンゴ話者って、こうやって自然と世界を“分類”してるんだよな」

タカシがうなずきながら言う。

「“イキテイル”って、動くだけじゃない。“心がある”とか“関係がある”って、そういう見えないものも“いる”って感じるんだ」

 

「センセイ……カナヅチハ、“イマス”? アリマス?”」

グンゾがカナヅチを持って尋ねる。


「えっ……ええと、モノだから“アリマス”かな」

「チガウ! コレハ、ココロヲ モッタ カナヅチダ! ダカラ、イマス!」

「……オマエノ アタマノ ホウガ イマセン」


 

 

その日の最後、セイアが静かに言った。

「……“アリマス”と“イマス”、世界をどう見るか、というレンズなのね」

「そうだよ。ことばって、世界の見方を映してるんだ」

 

そしてタカシは思った。

(俺がこの世界に“イマス”ってことにも、たぶん意味がある)

彼はそう信じている――まだ見ぬ何かが“ここにアル”と。

 

――つづく。

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