【第9課】オレハ カナヅチダガ、ハガネヲ ツクルノハ ジョウズダ!
王立学園・言語文化研究舎《ニホンゴ特別教室》。
今日は、その扉が……ドカン! と、爆音を立てて開いた。
「……ンだと!? オレの机がねぇじゃねぇかァァァ!」
響き渡る雷鳴のような声。チョークを持っていたタカシの手がビクッと震えた。現れたのは、全身筋肉の塊のような男――胸板に火花が走るような前掛け、背には巨大な金槌、髭は見事なツインスパイラル。
「グンゾ=アイアンベルク……!?」
ヴァイスが目を細めて言う。
「アイアンベルク……ナマエガ ツヨイ……!」
クーニャが椅子ごと机の下に隠れた。
「ふふ……派手な登場ね」
続いて現れたのは、まるで水から現れた精霊のような女性。青銀の髪がふわりと舞い、歩くたびに足元に水の模様が広がるような気配が残る。
「ごきげんよう、皆さん。お久しぶりね……私はセイア=ミレシェル。」
「おねーさん……キレイ……」
リリィがぽそっと呟いた。
「グンゾさんとセイアさんは、もともとこのクラスの生徒なんだ」
タカシが補足する。
「この前まで休学してたけど、今日からまた復帰してくれることになった」
「ニホンゴノ セッケイズ、ヨメナイ ノハ クヤシイ! オレハ モウ イッカイ イチカラ ヤルッ!」
グンゾが拳を鳴らしながら叫ぶ。
「私は……詩文の封印をほどくには、音と言葉の感覚が必要だと気づいたの。どうか……よろしくお願いね、センセイ」
◆
「というわけで、今日は“自己紹介スペシャル”だ!」
タカシは元気よく黒板にテーマを書いた。
● 〜ガ スキデス(好き)
● 〜ガ キライデス(嫌い)
● 〜ガ ジョウズデス(上手)
● 〜ガ ヘタデス(下手)
「“スキ・キライ”は気持ち。“ジョウズ・ヘタ”は能力。今日はこれを使って、新しい仲間にいろいろ聞いてみよう!」
「じゃあ、まずはグンゾ、言ってみようか」
【グンゾ】
「オレハ……ハガネヲ ツクルノガ ジョウズダ!」
(誰もがうなずく)
「ニホンゴヲ ハナスノハ……ヘタダ! デモ、オマエラニ マケネェ!」
「オレハ、ウタガ キライダ!」
「え……なぜ?」
リリィが首をかしげる。
「ヤサシイ キモチニ ナルノハ、テレルダロ!」
「カワイイ……」
リリィがつぶやく。
「じゃあ、セイアさんも、どうぞ!」
【セイア】
「私は……“オトガ キレイナ コトバ”ガ スキデス。タカシセンセイノ ハナシカタ……ときどき、ちょっと……カゼノ ヨウジャ ナクテ、カミナリ」
「……おい、それ遠回しに“うるさい”って言ってない?」
「……センセイ、オオゴエ オオイ、デス……」
リリィがこっそり、申し訳なさそうに呟いた。
沈黙が流れる中、セイアがふわりと微笑む。
「でも……その“カミナリ”があるから、みんな起きてるんだと思うわ。静かな雨だけじゃ、芽は育たないもの」
「オ〜……ナニカ、イイコト イッタ!」
クーニャが感心したように声を上げる。
「まるで詩のようね……“カミナリ”も必要、か」
ヴァイスが腕を組んで頷いた。
「なんだよ、うまいこと言って……よし、次の課も“ドカン”といくぞー!」
タカシが照れ隠しに肩を回すと――
「……“ドカン”……? ソレハ、“ドウイウ イミ”デスカ?」
ユウトがチョークを持った手をじっと見ながら、真顔で問いかけた。
タカシが少したじろぎながら言い返す。
「え、いや、その……勢いとか、元気よく行くぞって意味で……」
「……“ドカン”ハ、“ドコデ ドウ ハジケル”ノカ、メイカクニ セツメイ ヒツヨウ……」
クーニャがぼそっとつぶやく。
「ユウトサン、マジメスギ……」
◆
そして、旧メンバーの4人が一斉に手を挙げた。
「センセイ! ワタシモ、ハナシタイ!」
「ワタシ、“マホウノ シリョウヲ ヨムノガ ジョウズ”!」
「ワタシ、“ユウトサンノ セツメイヲ キクノガ ニガテ”!」
「ドーナツ、タベルノ ジョウズ!!」
グンゾとセイアが目を見開く。
(……こいつら、すごく話せるようになってる……!)
「ちょっと前まで、“アレハ キ!”とか言ってたのに……」
セイアが静かに微笑む。
「……これは、負けていられないわね」
グンゾが拳を握った。
「オウ、オレハ ヘタダガ、ウルサイブン オボエモ ハヤイゾ!」
◆
その日の黒板にはこう書かれた:
● 〜ガ スキ/キライ(気持ち)
● 〜ガ ジョウズ/ヘタ(能力)
● 自己紹介では“ジブン ノ コト”を、コトバニ スル!
「今日は、みんなの“スキ”と“キライ”がわかって楽しかったな」
タカシが笑いながら言うと――
「ワタシ、“クーニャサンノ ジョウズナ オモシロイハナシ”ガ スキ!」
リリィが手を挙げて元気よく言った。
「センセイ……ソレ、ホメテル?」
クーニャが苦笑いでツッコむ。
ふと、タカシは机の上に置かれたグンゾとセイアのノートを手に取って目を通した。そこには大きな字で、それぞれこう書かれていた。
「ニホンゴガ スキダ!」
「オト ノ ヒビキ ト コトバ ノ マホウ……ミライノ ワタシノ チカラニ ナル」
「……やる気、すごいな」
タカシは小さくつぶやいた。そして、嬉しそうに微笑む。
(このクラス、ますます面白くなってきたな)




