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金持ちの青年と居候の少女  作者: 燈華
第一章 とにもかくにも日常編

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少女と青年3


青年が休日の本日。

少女と青年は約束通り仲良く迷路を楽しんでいた。




「あれ? 前はここに木戸があったと思うのですが」

「ああ、木戸をつけたり外したりして迷路の難易度を上げたり下げたりしているらしいよ」

「そうなんですね」

「ちなみに今日は僕がいるから難易度は高めだって」

「私、まだ二回目なんですけど」

「僕がいるから大丈夫だよ」

「得意なんですか?」

「何回もやっているからね。まあ迷ったら庭師が探しに来るよ」

「それなら安心ですね」

「そうだね。一応軽いお菓子とお茶も持っているし」


ぽんぽんと斜めがけした鞄を青年が叩く。

ちなみに少女は手ぶらだった。

持たせるわけないよね、と青年に圧のある笑顔で言われたのだ。


青年が荷物を持っていることからわかる通り、迷路攻略は二人でしている。

といっても見えないところに庭師や護衛はいるのだろう。


「だから今日は少し奥まで行くよ」


まさかそこまで迷路が好きだとは思わなかった。


「は、はい」

「疲れたら言って。無理は駄目だからね?」

「はい」


さりげなく手を引かれる。

この感じだと少女自身が疲れを自覚する前に青年が気づきそうだ。


それにしても木戸をつけたり外したりしても迷路がきちんと成り立つということは、庭師は完全に頭の中で全体図が描けているのだろう。


青年は決して独りよがりではなく、少女と相談しながら進めていく。

その合間にもたわいもない会話を交わす。


「そういえばお聞きしたかったのですが、ぬいぐるみはうさぎがいいですか、くまがいいですか?」

「うーん、狼かな?」

「狼、ですか?」

「作れないかな?」

「まずは図鑑を見てみないと何とも」

「見たことはないかな?」

「少なくとも私はありませんね」


うちの国では絶滅してしまっていたし、たとえ絶滅してなかったとしても野生の狼などそうそう見る機会などない。

あったら危ないだろう。


「そっか。じゃあ、うさぎにしておこうかな。くまよりうさぎのほうが君に似ているだろうし」

「似ていますか?」

「うん、似ている似ている。仕草とかそっくりだ」


そう言うということはうさぎを観察したことがあるのだろう。

いつ? 何のために?


この国ではうさぎと言えば主に食用だと聞いている。

一応ペットとして飼っている家もあるらしいがわずかだという。


ただグッズとしてはうさぎもあるらしい。

可愛らしいので一定の人気はあるそうだ。


「そうですか」

「ん? 不満?」

「いえ、そんなことはありません。ただ、どこで見たのか気になっただけです」

「ああ、そういうこと。確かにうさぎは食用が主だし、狩り場では仕草を観察する暇はないしね」

「狩り」

「うん、立派な獲物だ」

「獲物……」


もしや似ているというのは逃げている姿とか、そういう……?


「姉上が飼っていたんだよ」


あっさりと青年が種明かしをする。


「あ、そうなんですね」


青年の姉は少数派のうさぎ飼いだったらしい。


「うん。姉上が見せびらかしていたから見る機会があったんだ」

「なるほど」

「僕の兄弟のことは今度教えてあげるね」

「あ、はい」

「それとも興味がない?」

「あ、いえ、知りたいです」

「そう? よかった。じゃあ今度ね」

「はい。それでお色は何色にしましょう?」


ずれた話題を戻す。


「そうだね、」


青年が少女を見てにっこり微笑(わら)う。


「黒の毛に黒い瞳、かな」

「黒地に黒い瞳、ですか?」

「うん。駄目かな?」

「いえ、大丈夫です」


ただ一般的な色ではないのではないかと思っただけだ。

普通なら白とか茶色とかではないのだろうか?


とはいえペットとして飼われていた中には黒色のものもいたりしたから少女にとっては特段珍しくはない。

ぬいぐるみ、と考えると珍しいかな、と思うだけで。


ふと気づいて伝えておく。


「ぬいぐるみの目を宝石にするなんてできませんからね」


あれはどうやっているのか、素人にはわからない。


「ああ、別に構わないよ。宝石なんて誰かに見せびらかすためのものだからね」


少女は目をぱちくりさせた。


「そうなの、ですか?」

「そうだよ。だから目はボタンでいいよ」

「わかりました」

「ふふ、楽しみにしているね」

「はい」


そんなふうに会話を交わしながら先へと進んでいく。

不意にぽっかりと空いた場所に出た。

そこには休憩できるようにとベンチが置いてあった。


「そこで少し休憩しようか」

「はい」


手を引かれてベンチまで連れていかれ、座るように促される。

少女は大人しく座る。その隣に青年も座った。


座ってみると意外と疲れていたようだ。

それは青年も同じだったようだ。


「絶妙なところにベンチが置かれていたよね」

「はい、本当に」

「はい、まずは喉を潤して」

「ありがとうございます」


水筒の中のお茶を木のコップに注いで渡してくれる。

受け取って口をつける。

少し(ぬる)めになっているお茶が飲みやすい。

隣では青年も木のコップでお茶を飲んでいる。


「お菓子も食べておいて」


コップを置いた青年が鞄から個包装にされたお菓子を取り出して少女に渡す。


「ありがとうございます」


受け取った少女は早速包装を解いて一口サイズに焼かれた焼き菓子を口に入れた。


「美味しいです」


青年も同じようにして焼き菓子を食べている。


「お茶はまだある?」

「大丈夫です」

「足りないようなら言ってね」

「はい」


青年がベンチの背もたれに寄りかかる。


「ふふ、たまにはこういう休日もいいものだね」

「お忙しいですものね」

「まあそうだね」

「あまり言うのはよくないかもしれませんが、あまり無理をしないでくださいね」

「うん、ありがとう。ひどく疲れた時は癒してね」

「わ、私にできることならば」

「うん、その時はよろしくね」

「はい」

読んでいただき、ありがとうございました。

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