少女と侍女と料理人と青年1
粗熱を取ったクッキーを一つ取ってかじる。
うん、大丈夫そうだ。
「食べてみてもらってもいいですか?」
周りにいる侍女や料理人をぐるりと見回して頼む。
「よ、よろしいのですか?」
「はい。下手なものを差し上げるわけには参りません。忌憚ない意見をお願いします」
「そ、そういうことでしたら」
料理人や侍女たちが恐る恐るクッキーを手に取る。
「そんなに警戒しなくても、ちゃんと食べられますよ」
「いえ、そちらを心配しているわけではなく……」
少女が首を傾げるがその先は言われない。
彼らはお互いに目配せして、一斉にクッキーをかじった。
「ど、どうですか?」
先程の反応もあり、恐る恐る尋ねる。
「美味しいです」
「私、この味好きかも」
「歯ごたえもちょうどいいですね」
概ね評価はよく少女はほっとした。
だがすぐに気を引き締める。ここの最高責任者の評価がまだだ。
少女は緊張した顔で料理長を見る。
クッキーを食べ終えた料理長がにっこりと微笑う。
「これなら旦那様に差し上げても問題ありません」
料理長のお墨付きをもらってほっとする。
「ありがとうございます」
「お嬢様、瓶はこちらでよろしいでしょうか?」
用意してくれた瓶はどう見ても大きい。焼いたクッキーが全て入ってしまいそうだ。
「大きすぎます」
「え、ですがこれくらいないとクッキー全て入りませんけど?」
「え、さすがにあの方に全部はあげませんよ。残りはお世話になっている皆さんに」
「え、我々の分ですか!?」
顔色が悪くなったような気がするのは気のせいだろうか?
「は、はい。ご迷惑、ですか?」
「い、いえ、そんなことはありませんが」
「旦那様が何とおっしゃるか……」
「よくできているものをあの方に、残りのものを皆さんで、とかでは駄目ですか?」
「それなら何とか。言い訳も立ちますし」
「言い訳?」
「あ、いえ。お嬢様はお気になさらず。選別致しましょうか」
「は、はい」
手伝ってもらって選り分ける。
綺麗に焼けたものを瓶に詰めてリボンを結んだ。
「旦那様も喜びますね」
「だといいのですが」
「これは絶対です」
「そ、そうですか」
侍女の勢いにたじろぎ、残りのクッキーに視線を向けた。
「残りは皆様で」
「ありがとうございます」
「見映えがよくないもので申し訳ないのですが……」
「いいえ、いいえ! 我々にはこれで十分です!」
「皆でいただきますね。ありがとうございます」
「こちらこそ手伝っていただきありがとうございました」
*
少女は青年にクッキーの入った瓶を差し出した。
「あの、これ、どうぞ。私が焼いたクッキーです」
「ふふ、嬉しいな。全部僕の?」
「あ、はい。その瓶の中のものは全部どうぞ」
「その言い方だと他にもあるね?」
「はい。残りは使用人の皆さんにお配りしました」
「何で?」
ふてくされたように青年は唇を尖らせる。
「お世話になっているので。あ、でも一番お世話になっているので、その瓶に入っているものはきれいに焼けたものです」
「……まあいいよ。ありがとう。大切に食べさせてもらうね」
「はい」
青年は瓶を開けて早速一枚取り出して、躊躇いもなくかじった。
「ど、どうですか?」
「うん、美味しい。僕好みの味だ」
「よかった」
緊張していた顔が緩み、少女の頬に微笑みが浮かぶ。
「また作ってくれる?」
「はい、もちろん」
「楽しみにしているよ」
「はい」
今度はどんな味にしようかな、と考えながら少女は頷いた。
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