少女と庭師と青年1
分かれ道で立ち止まる。
「さてどちらでしょう?」
楽しそうに後ろをついてきてくれている庭師が訊いてくる。
彼は五十代後半の男性でこの屋敷の庭の管理責任者だ。
少女は真剣な顔で左右の道を見比べる。
今いるここは庭に作られた迷路で、その初級コースだ。
庭師は万が一少女が中で迷って出てこれなくなることがないようにと後ろをついてきてくれている。
「こっちにします。」
右に曲がる。
次の角で左。
何ヵ所か道を選んで進んだところで行き止まりに当たった。
「残念でしたのぅ」
「はい……」
とぼとぼと元来た道を戻る。
庭師は迷路については何の助言もしてはくれないが、それ以外のことはいろいろと話してくれた。
迷路の通路脇に植えられている花のこと。
迷路に使っている低木の手入れの仕方。
お庭で育てている果物のこと。
花壇に次に植える花のこと。
青年のこともいろいろ話してくれた。
楽しくおしゃべりしているうちに迷路の出口が見えてきた。
「おお、見事ゴールできましたね」
「はい! お付き合いいただいてありがとうございました」
「いえいえ。楽しい時間でした」
「私も楽しかったです」
後ろを見て話しながらゴールである垣根の隙間を抜けたのでそのまますぐ前に陣取っていた人物の胸元に飛び込む形となった。
「ふふ、お疲れ様。無事にゴールしたね」
「前を見ていませんでした。ごめんなさい」
「んー、別に。ただ僕以外がいたら危ないからちゃんと前は見ようね」
「うぅ、気をつけます」
「楽しかった?」
「はい。迷路も楽しかったですが、いろいろお話が聞けて楽しかったです」
「……そう。よかったね」
「旦那様、この老いぼれをそう睨まんでください」
「別に睨んでない」
顔を上げて青年を見る。
青年は少女を見てにっこりと微笑う。
「動いたのだから水分を取らないとね。おいで」
「は、はい」
手を取られ、そのまま歩き出したのでついていく。
「ガゼボのほうにお茶の用意がしてあるんだ」
辿り着いたのはよく使うガゼボ。
やはり向かいではなく角を挟んだ隣に青年は座る。
すぐにお茶が注がれて饗される。
用意されていたお菓子も喉を通りやすいものだ。
ティーカップを持ち上げ、口をつける。
程よく冷まされたお茶は飲みやすい。優しく喉を潤してくれる。
ティーカップを空にするとすかさずおかわりを注いでくれる。
「ありがとうございます」
お行儀悪くテーブルに頬杖をついた青年が口を開く。
「今度は迷路、僕と一緒にやろうか?」
「はい。楽しみにしています」
ふわりと青年が微笑う。
「うん、僕も」
読んでいただき、ありがとうございました。




