少女と青年1
しばらく日常編を投稿します。
そのうちプロローグの前後の話やそもそもの始まりの話を投稿する予定です。
名前等もそのうち出します。
しばらくは個人名を出さずに話を進めていく予定です。
よろしくお願いします。
「ただいま」
「お、おかえりなさい!」
「ああ、立たなくていいよ。そのままで」
上げかけた腰を下ろして座り直す。
今いるのは庭にある四人も座ればいっぱいになる小さなガゼボだ。
青年は角を挟んだ隣にするりと腰を下ろした。
「ふふ、おかえりなさい、って言ってもらえるのは嬉しいものだよね」
「いつも言ってもらっているじゃないですか」
お話の中のようにこのお屋敷で働いている人全員でのお出迎えはないが、それでも何人かはお出迎えしている。
「ああ、彼らは仕事だから」
言い方が素っ気ない。
仕事で言ってもらうのが嫌なのかな?
彼にとっては屋敷で働いている人は家族なのかもしれない。
家族と疎遠なのかな?
それとも幼少期に一人でお留守番していたのかな?
ぷにと頬を人差し指で押される。
「何考えているの? 君におかえりなさい、って言われるのが嬉しいだけだよ」
「そうですか。ならお帰りになった時にいつでも言いますね」
「うん」
「それに、ふふ、おかえりなさいって言う相手がいるのはいいですよね」
「そうだね」
「でも今日は早かったですね」
「まあ、たまにはね。はいお土産」
そっとテーブルに置かれた紙袋に思わず警戒してしまう。
「そんなに警戒しなくてもただのお菓子だよ」
「お菓子?」
「そう。これを皿に出してくれる?」
「承知しました」
青年にお茶を饗して紙袋を受け取った侍女がワゴンに置かれていた真っ白いお皿の上に紙袋の中身を盛りつけ少女の前に置いた。
「クッキーとマドレーヌ……?」
「そう。今人気の店のものだよ。たまにはこういうものを食べるのもいいかなって」
「ありがとう、ございます。でも、あまり食べると夕食が入らなくなっちゃう……」
すでにお茶菓子として一人分にしては多い量のお茶菓子がテーブルの上に出ている。
「食べたいものだけ食べて後は使用人に下げ渡すといいよ。彼女らも喜ぶ」
下げ渡すという言葉に居心地の悪さを覚えてしまう。
その言葉はともかく食べれない分は彼女たちにあげるのは賛成だ。
確認するように侍女を見ればにっこり微笑って頷かれる。
「ほら食べて。それとも、食べさせてほしい?」
「じ、自分で食べます!」
「遠慮しなくていいよ?」
「結構です!」
少女は慌ててクッキーを手に取り一口齧った。
さくっ。
「あ、おいしい」
濃厚なバターの味が口いっぱいに広がっている。
さくさくと一枚あっという間に食べ終える。
紅茶を飲んで口の中をさっぱりとさせる。
侍女が空になったティーカップに紅茶を注いだ。
「ありがとうございます」
「それで?」
「あ、はい。濃厚なバターの味が口いっぱいに広がって美味しかったです」
「へー。じゃあマドレーヌは?」
促されてマドレーヌを一口齧る。
こちらはしっとりとした食感だ。
微かにアーモンドの香りもする。
「こちらも美味しいです」
「へー」
行儀悪く頬杖をついた青年が少女の顔を覗き込むようにして訊く。
「うちのパティシエのお菓子とどっちが好き?」
「どちらも美味しいですが、私はこのお屋敷のパティシエの方が作ってくれるお菓子のほうが好みですね」
「それを聞いたらうちのパティシエも喜ぶよ」
読んでいただき、ありがとうございました。




