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金持ちの青年と居候の少女  作者: 燈華
第一章 とにもかくにも日常編

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少女と青年8

遅くなりました。

迷路の中の休憩用に作られているだろう場所で二人は休憩していた。

二人で並んでベンチに座ってお茶で喉を潤し、お菓子で小腹を満たした。


少女は何気なく青年の顔を見て気づいた。

あっ。


青年の口許にはジャムがついていた。

言ったほうがいいのか迷う。

だがすぐに思い直す。

いやきちんと告げたほうがいい。


おずおずと告げる。


「あの、ジャムついてます」

「あ、本当?恥ずかしいな」


そう言いながら青年は指で口許を(ぬぐ)おうとする。

それを止めて少女は自分のハンカチを取り出して青年の口許についたジャムをそっと拭った。


練習用に刺したハンカチだ。

別に汚れて捨ててしまっても問題ない。


驚いた青年が動きを止めた。

珍しく目を見開いている。


「あ……」


どうやらやらかしたようだ。


「ご、ごめんなさい!」

「いや、びっくりしただけ。ありがとう」

「い、いえ……」

「でも、僕以外にやっちゃ駄目だから」

「は、はい」


頷いてから首を傾げた。

青年にもやってはいけないのではないだろうか?


そんなことを考えていたからか次の青年の行動に反応が遅れた。

するりとハンカチを抜き取られたのだ。


「え?」

「これは僕のほうから使用人に渡しておくよ」

「えっと、捨ててもらっても大丈夫ですよ」

「でもこれ、君が刺したものでしょ?」

「そうですけど。練習で刺しただけですので」

「なら僕が好きにしてもいいよね?」

「え、そういうことに、なりますか?」

「そうだよ。捨てるなら好きにしていいはずだ」

「言われるとそんな気もしてきます」

「というわけでこれは洗ってもらうね」

「はい」


最早嫌だとも捨ててくださいとも言えなかった。

青年はハンカチを上着の内ポケットにしまった。


「でも刺繍、うまくなったね」


広げて見たわけでもないのによく見ている。


「あ、ありがとうございます」

「そろそろ刺繍入りのハンカチくらいはもらえるかな?」

「が、頑張ります」

「うん、楽しみにしているよ」


これは気合いを入れてやらないと駄目だろう。

お世話になっているし、屋敷の主である青年に下手なものは渡せない。


「ちなみにどのような柄がいいですか?」

「何でもいい……と言われると困るか」

「はい。できれば方向性だけでもほしいです」

「そうだよね。うーん、何がいいかな。何でもいいの?」

「あまり難しい柄は刺せませんけど」

「うん、わかった。この件はまた後で伝えるのでもいいかい? きちんと考えたい」

「はい。構いません」

「では後日必ず。ありがとう」

「お礼を言われることではありませんよ」

「んー、そんなことはないかな」


少女はよくわからなくて首を傾げる。

ふふと微笑(わら)った青年はさらりと流して伸びをする。


「こういうふうにのんびりするのもやっぱりいいなぁ」

「やっぱりお疲れなのですね」

「忙しかったからね。仕事は、嫌いじゃないけど」


それなら、よかった。

嫌々ながらの仕事で忙しいのは本当にしんどいだろうから。


これは少女自身の経験ではなく、友人の話だ。

少女自身は仕事は別に好きでも嫌いでもなかった。


仕事という言葉に思いがけず意識が引っ張られる。

少女の職場はアットホームな会社だった。

慣れない仕事に四苦八苦している少女に根気強く仕事を教えてくれた。

みんなはーー


名前を呼ばれてはっとする。


「どうかした?」

「いえ、何でもありません」

「そう?」

「はい」

「そっか。もし話せるようになったら話してね」

「その頃にはきっと忘れていますね」

「まあそれならそれでいいよ」


彼は何を考えていたのか、もしかしたらわかっているのかもしれない。

それでも無理に暴こうとはしない。

その優しさに今は甘えてしまおう。


少女は小さく頷いた。

それに青年は優しく微笑んだ。


「さて、そろそろ続きをしようか」

「はい」


先に立ち上がった青年に手を差し出される。

その手に手を重ねれば軽く引っ張って立ち上がるのを助けてくれた。


「行こう」

「はい」


そのまま手を引かれて歩き出した。

読んでいただき、ありがとうございました。

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