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金持ちの青年と居候の少女  作者: 燈華
第一章 とにもかくにも日常編

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少女と青年7

すいません。

遅くなりました。

今日は約束していた迷路を二人でしていた。

相変わらず荷物は全て青年が持ち、少女の手を引いていた。


少女も順調にレベルアップを果たし、以前より迷路の難易度は高い。

それでも二人は臆することなく楽しくお喋りしながら攻略していく。


「久しぶりにゆっくり話せるね」

「はい。最近お忙しそうでしたから」

「ちょうど繁忙期だったしね。今は落ち着いたよ」

「お疲れ様でした。私も手伝えればよかったのですが」


まだまだ勉強中の身では手伝いを申し出ることすらできなかった。


「ん? 十分手伝ってくれたよ?」

「え? 私は何もしてませんよ」

「屋敷で君が待っていてくれる、と思ったから頑張れたんだ」


少女は目をぱちくりした。

そんなことで? と思わないでもない。

青年は微笑んで少女の困惑を流した。


「それに手紙をくれたでしょ。あれが癒しになっていたんだよ」

「それならよかったです」


拙い手紙でも心を緩める手助けができたならよかった。


「また書いてくれる?」

「私でよければ。いえ、そもそも私の練習に付き合ってもらっているのでした。いつもありがとうございます」

「こちらこそありがとう」


それとこちらもきちんとお礼を言っておかないと。


「たくさんのインクもありがとうございました」


カラフルな色のインクの壜が並んでいるのは見ていて楽しい。

だけど、もらいすぎだ。


「喜んでくれたならよかった」

「はい、嬉しかったです。ですが、」

「君の言いたいことはわかる。贈り過ぎだと言いたいんでしょう?」

「はい。確かに綺麗ですけど、使いきれません」


気持ちは嬉しいが使いきれないインクはもったいない気がしてしまう。

少女は眉尻を少し下げた。


「君がたまに手紙に絵を描いてくれているだろう? あれを見たらこんな色もいいんじゃない? この色もいいって気づいたらいろいろ買っていたんだよ」


あれは本当にちょっとした気の迷いだ。

なんとなく描いてしまっているに過ぎない。


「下手でごめんなさい」


青年がきょとんとする。

それから微笑する。


「可愛らしい絵だったよ」


フォローされるのがいたたまれない。


何で描いてしまったのだろう?

最初は確か説明するのに絵のほうがわかりやすかったからだった。

それで気が緩んだんだったと思う。

つい友人に送る時と同じようにしてしまった。


後悔しても遅い。


「僕は好きだな。また描いてよ」

「え……?」

「駄目?」


青年は軽く首を傾げて覗くように少女の目を見つめる。

あざとい。


「き、気が向いたら……」

「うん、ありがとう。楽しみにしているよ」


あ、これは描かないと駄目なやつだ。

瞬時に悟った。


「どうせならたくさん色を使って描いたらどうかな」

「そうですね。使いきれないほどいただきましたから」

「だから少しずつ使えるように小瓶にしたんだよ?」

「ああ、そういうことだったんですね」

「そう。だから気に入った色がなくなったら教えてね」

「…………」

「ね?」

「……はい」


きっと、隠してもバレるのだろう。

ここは彼の屋敷だ。

使用人は全員彼の味方だろう。

彼女らからすぐに報告されてしまうに違いない。

それなら自分から告げるほうがまだマシかもしれない。


「インクなんてそんなに高いものじゃないから気にしないで」


それが本当かどうかはわからない。

よく考えたら物の相場というものもわかっていない。

これは、自立できるまでに相当かかってしまいそうだ。


心の中だけで溜め息をつく。

青年に悟られれば何か言いくるめられそうな気がした。


突き当たって立ち止まる。道は左右に延びていた。


「どっち?」


左右を見回して考える。


「直感でいいよ。間違えたら戻ればいいんだから」

「えっと、じゃあ右で」


手を繋いだまま右に曲がる。

そのまま会話は続く。


「癒しと言えば、君にもらったぬいぐるみもね。時々日光浴させてくれているだろう? お陰でふかふかだ」

「よかったです」


反省してきちんと青年の許可をもらってから日光浴させている。

彼がぬいぐるみを撫でている姿を想像すると微笑ましい気持ちになる。


何となく軽い気持ちで訊く。


「それでぬいぐるみはどこに置いてあるんですか?」

「ん? 寝室に置いてあるよ」

「寝室ってまさか……」

「もちろんベッドの上」

「え……?」

「抱き枕にちょうどいいんだよ」

「抱き枕にしているんですか!?」


まさかそんなことになっているとは思っていなくて驚く。

だが青年は全く動じずにはにかむように微笑(わら)った。


「あ、さすがにこの歳でぬいぐるみを抱いて寝ているって知られるのは恥ずかしいから内緒ね」

「はい」


そもそも話すような知人がいない。

ここはこの屋敷で働く人たちや青年の友人へ話さないようにということだろう。


「二人だけの秘密、だよ?」

「はい」


頷けば、青年は嬉しそうに微笑(わら)った。

余程知られたくないのだろう。

二人だけの秘密、というのが、何ともこそばゆい。


また突き当たった。


「ここはどっち?」

「さっきのところは合っていたんでしょうか?」

「行き止まりになってないから大丈夫。それに行き止まりになったら引き返せばいいから。それとも疲れた?」

「いえ、大丈夫です」

「そう? で、どっち?」

「では左で」


二人で左に曲がる、


「疲れたらきちんと言ってね」

「はい」

「君一人くらい抱いて歩くのは何でもないから」


びっくりして歩調が乱れる。


「大丈夫? 石でもあった?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと、驚いただけですから」

「本当に? やっぱり疲れたんじゃない? 抱いていこうか?」

「い、いえ、遠慮します」

「そう? 別に遠慮はいらないよ?」

「大丈夫です。今日のためにきちんと体力をつけてきましたから」


慌てて拳を握って主張する。


「わかったよ」


笑みを含んだ声で言われる。

ちょっと恥ずかしい。


「でも疲れたらきちんと教えること。いいね?」

「はい」


無理に動くのは結局は迷惑をかける。

それならばきちんと言おう。

だけど抱き上げられるのは断固拒否しよう。

……やっぱり抱き上げられないためにも動けなくなる前に休憩にしてもらおう。


「開けた場所に出たら休憩しようか」

「はい」

「だからもう少し頑張って」

「はい」


たわいもない話をしながら先へと進んでいく。

読んでいただき、ありがとうございました。

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