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金持ちの青年と居候の少女  作者: 燈華
第一章 とにもかくにも日常編

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10/22

青年と友人1

前々の話との整合性のため、青年の友人は「男性」と表記させていただきます。

青年は友人の男性の屋敷に乗り込んだ。

少女のいる屋敷に呼び寄せるなど言語道断だ。

応接室で待っていると男性が入ってきた。


「決闘する?」


初っ端から物騒な言葉を叩きつける。

先手必勝だ。

手加減など必要ない。


「ちょっと待て! 一体何なんだ!?」


動揺しているところを畳み込む。


「彼女に僕に許可をもらって正式に挨拶したいって言ったんだって? 何? お付き合いの申し込みをするつもりかい?」

「は? 待て。彼女はお前の婚約者じゃないのか?」


青年の視線が険しさを増す。

婚約者の許可を取っての挨拶は本当にただの挨拶、顔繋ぎだ。

男性はそのつもりだったのだが。

青年の表情に男性は全てを悟った。


「まじか。一緒に住んでいて違うのか?」

「死にたい?」


目が据わっている自覚はある。

そこは慎重に慎重を期している繊細な事柄なのだ。

そんな無遠慮に指摘されたくない。


「は? 待て待て待て。何でそうなる?」


慌てているが向こうが悪い。


「繊細な事柄にずかずかと踏み込んでくるからだよ」

「悪かった。悪かったから落ち着け」


こんなことで追及を緩めるつもりはない。


「まさか彼女にもそんなふうに言った?」

「言ってない、言ってないから落ち着け」

「嘘じゃないよね?」

「嘘じゃない、嘘じゃない」


鋭い視線で見てやると「本当だって」と慌てている。

信じてやってもいいかもしれない。


「わかった」


そう言ってやるとあからさまにほっとしていた。


「本当に殺されるかと思った」

「返答次第ではね」


男性の顔が盛大にひきつる。


「お前が言うと洒落には聞こえない」

「洒落じゃないからね」


少女を奪おうとする者に容赦する必要性を感じない。

男性は天を仰ぐ。

それから勢いよく青年に視線を戻した。


「彼女はちゃんと伝えてくれたんだよな?」

「もちろん。お前がどんな言動をしたのか詳しく教えてくれたよ」


だからこそ乗り込んできたのだ。


「どうしてそれでそんな話になる?」

「彼女もお前も気づいていなかったようだが、それなりに誤解されかねないことを言っていた。お前が」

「え、それ、本当か?」


言ってから思い出すように天井に視線を向ける。

青年は溜め息をついた。


少女はともかく男性が気づかなかったのは駄目だろう。

いや少女は侍女の反応から何かやらかしたかもしれないと気づき、教えを乞うたようだから断然男性よりいい。

そもそもこの国で育った男性がわかっていないのが駄目だ。


「お前、もう一度初等から勉強し直したほうがいいんじゃないか?」

「そこまでじゃない。今回は前提が間違っていただけだからな」

「そうか」


それ以上言うことはしない。

それでトラブルになっても男性の責任だ。

こちらに火の粉が飛んでこなければ構わない。

それよりも確認しなければならないことがある。


「余計なことは何も言ってないだろうね?」


少女の話でも侍女の報告からも何もなかったが、念の為この男にも訊いておかないと。

「言ってないぞ。それより、何も言っていないのか?」

「うん? 何も言ってないわけじゃないよ」


最低限のことはもちろん伝えてある。

全く伝えていないというのは悪戯に不安にさせるだけだ。

それは本意ではない。


「そうか。そうだよな」


何故か安堵の表情を浮かべている。

それに首を傾げつつ、余計なことは告げさせないために情報を開示する。


「しがない三男で商会を持っていることは知っているよ」

「しがない三男ってお前、」

「間違いないだろう? 僕は家を継がないんだし。どんな家柄の出身だろうと三男以下はみんな"しがない"身だ」


そうだろう? と視線で問えば複雑そうな顔で黙り込んだ。


男性も三男だ。

幸い青年も男性も長男次男と差をつけずに育てられたが自分たちで身を立てねばならない身であることは同じだった。

だからお互いに気持ちはわかるのだ。


鬱とされるのも嫌なのでさっさともう一つの聞きたいことに移る。


「そもそも何しに来ていたんだ? 僕はいなかっただろう?」

「ああ、忘れ物を取りに行ったんだ。あの日、必要だったから」


話が見えてきた。

さすがに玄関先で受け渡すわけにはいかず応接室での受け渡しになったはずだ。


この男のことだ、受け取ったら勝手知ったる家ということで案内不要とさっさと部屋を出て玄関に向かったに違いない。

使用人たちもうっかりといつものことと見送ったのだろう。


「あー、使用人を怒らないでやってくれよ?」


眉を下げた男性が使用人を庇う。

自分のせいで使用人が叱られる、場合によっては解雇されるかもしれないと気づいたようだ。

青年は溜め息をつく。


「……わかった。厳重注意で済ませる」


今は少女がいる。

今までと同じ感覚では困る。

その辺りしっかりと釘を刺さなければ。

ことは少女の安全に関わるのだから。

そのことをもう一度徹底的に通達しないと駄目だ。


ほっとした様子の男性がこれだけは言っておかないと、とばかりに告げる。


「それから言っとくが、お前のお姫様に会ったのは本当に偶然だ」

「僕のお姫様?」


それが少女のことを指しているのはさすがにわかる。

だがその言い方はどういうことだ?

男性は首を傾げた。


「婚約者でなくともお前の大事な女性であることには変わりないだろう?」

「それは当然だ」

「それならお前のお姫様で合っているだろう?」


確かにそれはそうだ。

だがその前提としての疑問がある。


「そもそも何でお前が彼女のことを知っていた?」


誰にも言っていない。

知っているのは使用人と彼女のものを揃えさせた商会の者だけだ。

その中に情報を流した者がいるのだろうか?

使用人はもとより商会の者も口の堅い者を選んだはずだが。


まだ少女を外に出したこともない。

どこかで見かけて、ということもないはずだ。


男性が呆れた視線を青年に向ける。


「そりゃバレるだろ。お前が急に女性のドレスや装飾品、可愛らしい小物やお菓子なんかを買い漁っていれば」


青年は黙り込む。


「それなのに連れ立っているところを見たことはない。こりゃ、家の中に囲っているんだな、って話になる」


ちっと心の中で舌打ちする。

盲点だった。

まさか自分の行動で少女の存在がバレるとは。


ある程度情報が流れているのはもう仕方ない。

今はしっかりと男性に口止めしておかなければ。


「彼女のことは誰にも言うな。誰にもだぞ?」

「もうお前に特定の相手がいるのはそれなりに知られているぞ?」

「それでもだ。彼女がどんな容姿をしているか、どんな性格をしているか漏らすな」

「ああ。わかった」


真面目な顔で頷いたのでとりあえず彼からの情報漏洩はないと見ていいだろう。

それくらいは信用している。

男性が情けなく眉を下げた。


「俺、出禁か?」

「そうすると彼女が気にする。訪ねてくるのは構わないけど、彼女と絶対に二人きりで会うな。それときちんと先触れを寄越せ」

「わかった。だから今度ちゃんと紹介してくれ」

「……いいよ」


男性はほっとして微笑(わら)う。

こういうところが憎めないし、最後には許してしまうのだ。


「約束は守ってもらうから」

「ああ」

「次来る時は僕のいる時にしてよね」

「ああもちろんだ。連絡して約束を取りつけてから行くよ」

「それでいい」


まあ、彼を会わせれば喧嘩していないと少女を安心させることができるだろう。

そう考えることにした。


読んでいただき、ありがとうございました。

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