表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

9. シャーロット(2)

 数日、シャーロットは見えない姿のまま過ごした。

 

 コリンナを除けば、誰もシャーロットの心配をしていなかった。叔父は彼女を捜してはいるが、その目的は相続を終わらせることだ。エレインに至っては、シャーロットがいないのをいいことに(実際はその場にいるのだが)、部屋を物色する始末。


(こんな寂しい思いをするのなら、いっそ本当に消して欲しかった)


 そんな風に、女神様を恨むことすら考えてしまう。

 

 誰にも知られずにここで朽ちるくらいならば、いっそ両親のお墓の前で死のう。

 だけどその前に、コリンナに何とか伝えたいと思った。彼女はいなくなった主を必死で探し回り、ブレントに訴えて解雇になりかかっている。

 彼女にもう探さなくていいと伝えたかった。


「お嬢様……」と呟くコリンナの肩を、シャーロットはそっと叩いた。怪訝な顔をして振り向いた彼女に見えるよう、木の枝で地面へ文字を書く。


『私はここにいる』


 

 コリンナは透明なシャーロットを伴って、カーヴェル侯爵家を訪れた。希死念慮に囚われたシャーロットを、この忠実な侍女は必死で説得したのだ。そして唯一頼れそうな相手として思い当たった、クリフォードを頼ったのである。

 

 クリフォードは留学中にクレヴァリー夫妻が亡くなったことを知ると、すぐに手紙を送ってきた。丁寧に葬式へ参列できなかったことを詫び、シャーロットの身を案じる内容はとても心温まるものだった。帰国した際は弔問に訪れ「シャーロット、痩せたのではないか?」と気遣いも見せた。

 あの方なら、きっとお嬢様の力になってくれるとコリンナはシャーロットを説き伏せたのだ。

 


「王太子殿下に事情を説明したが、やはりシャーロットへの虐待だけでブレントを捕らえることは難しいようだ」


 クリフォードは当初、コリンナの話を信じなかった。あまりにも荒唐無稽だったからだ。この女は頭がどうにかなったのではないか、という疑いすら持ったらしい。

 だがシャーロットが彼の目の前で文字を書いてみせ、さらに見えはしないものの彼女の手に触れられることを知り、ようやく信じた。

 そしてブレント一家の非道に激怒し、必ず奴らを捕らえると約束してくれたのである。


「遺産の横領の線で押さえるしかない。だが、証拠が必要だ。クレヴァリー家の帳簿を入手せねば」

「私が解雇された身でなければ、旦那様の執務室に忍び込むこともできたのですが……」

『クリフォード様、コリンナ。私に考えがあります』


 シャーロットはクレヴァリー家を訪れたクリフォードにこっそりと同伴し、ブレントのいない隙に執務室から書類を持ち出したのだ。ブレントが想定以上に早く戻って来たのには肝を冷やしたが、なんとか執務室から抜け出すことが出来た。


 そしてエレインとの茶飲み話で時間を稼いでいたクリフォードと馬車で落ち合い、帳簿と土地の売買証明書を渡したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ