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10. シャーロット(3)

 ブレント子爵は捕らえられ、牢に収監された。印章の偽造は重大犯罪である。彼は爵位剥奪の上、死刑に処されることが決まった。

 ブレント夫人とその息子レナード、エレイン、そして執事もクレヴァリー家の財産横領を幇助した罪で同じく処刑。本来ならばクレヴァリー一族全てが処刑されるべきなのだが、それではシャーロットまで累が及ぶ。クリフォードの尽力により、死罪はレナードの家族と横領に関わった者だけということになった。

 またシャーロットを虐げていた使用人たちは流刑地で30年間労働の刑となる予定である。


 こうしてクレヴァリー伯爵家は事実上、消えてしまった。シャーロットは現在、カーヴェル侯爵家の離れに滞在している。姿が消えたままで。


「シャーロット。まだ、何か心残りがあるのだろうか」

『いいえ……。クリフォード様には十分に良くして頂きました。感謝しております』

 

 筆談で謝意を伝えるシャーロットに、クリフォードは優しく微笑む。


「感謝は不要だ。俺がしたくてやったことだから。それより、本当に心当たりはないのか?」


 あの日、シャーロットは誰も自分を必要としていないと思った。だから消えたいと願ったのだ。

 それを聞いたクリフォードが痛ましそうな表情になる。


「誰にも必要とされてないなんて、そんなことはない!君を心から慕っている者はいるんだ。コリンナもそうだし、俺だって」


 クリフォードは手探りでシャーロットの手を掴み、その場に跪いた。


「シャーロット、ずっと君が好きだった。俺には君が必要だ。どうか、俺の妻になって欲しい」

『私はこんな姿です。クリフォード様の妻は務まりません』

「君が元に戻るまで、いつまでも待つ。従兄弟と婚約したと聞いて、俺がどれだけ後悔したことか……。それに比べたら、待つことくらいは些細なことだ。ずっと君のそばにいられるのだから」


 自分を見つめる真摯な瞳に、胸が高鳴る。こんな風に誰かに熱く求められた経験は無い。

 彼に恋をしているかどうかは、まだよく分からなかった。だけどこの人が誰よりも自分を欲してくれていることだけは、分かる。


「シャーロット!姿が……!?」


 クリフォードの驚く声に、シャーロットは顔を上げる。彼は目を見開いてこちらを見ていた。

 

 鏡に自分の姿が映っていた。

 顔も手も足も、ちゃんと見えている。元に戻ったのだ。

 

「ああ、シャーロットだ!ずいぶん痩せているけれど、その姿は確かに……!」

「クリフォード様のおかげです。本当に、なんてお礼をいったらいいか」


 クリフォードはその言葉を遮るように、シャーロットの白い指にそっと口付けをする。

 

「礼よりも返事が聞きたい。シャーロット、俺の妻になってくれるかい?」


 シャーロットは真っ赤に染まった顔で、コクンと頷いた。

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