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93.深層でのピクニック

翌日、俺達はラファエル達を王都に案内する前に、ダンジョンへと転移した。



ウィルがちらっとジークの話を漏らすと、ラファエルが感心を示したからだ。



突然自分の部屋に現れた俺達を見ても、ジークは驚いた様子を見せない。

いつものようにゆっくりとした調子で、俺達に挨拶をした。



「ああ、また来たか。……今回は人数が多いな。それに………」



ジークは、じっとラファエルとロベルトを見つめる。


「妙な感じだ。もしや、人間ではないのか」



さすがに五百年以上生きているだけあって、ジークにはそれが分かるようだ。



「ああ、僕らは異世界の魔族だよ。よろしくね」



その言葉を聞いて、ジークの目がやや大きくなる。

しかしそれでも、いつものゆっくりとした調子は崩れなかった。



「そうか。異世界の魔族というのは、どうもこの世界の魔族より、知能が高いようだな。……人間に対する敵意もないのか」



俺達はラファエルと共に、異世界の魔王や魔族について説明する。

話を聞いたジークは、さらに興味深げに頷いた。



「……そうか。私もその世界に生まれていたら、同じ魔族から追放されることはなかったかも知れん」




それからはウィルの頼みで、ロベルトが再び転移魔法陣を作って見せた。

それを興味深げに見つめながら、ウィルとジークはまた専門的な会話を始める。



ラファエルは研究者二人の傍らで、大きくあくびをした。


「ねえベル、じっと待っているのも何だから、ちょっとダンジョンの深層を覗いてみようか」


ラファエルの提案に、ロベルトは意外にもこくりと頷く。



「ええっ、でも深層は危険だよ………魔物がたくさんいるし、三頭竜だって………」


アルクが心配そうに言うも、どうやら逆効果だったようだ。



「へえ、三頭竜なんているのか。それは是非見てみたいなあ。僕らの世界にはそういった魔物はいないからね」



結局ラファエルはロベルトを抱きかかえ、ジークの部屋から出て行った。

そしてラファエルから誘われて、俺も一緒に付いて行く事になる。



「しょこら、大丈夫……?」

「おう。お前はここで待ってろ」




久しぶりに深層に出ると、以前の重苦しい不気味な空気は変わらなかった。

周囲を水のように沈黙が満たしている。



そんな雰囲気をものともせず、ラファエルはまるで散歩でもするかのように、鼻歌交じりにロベルトを抱えて歩き続けた。

俺は猫の姿なので、その傍らをスタスタと歩く。



「ここさ、魔物が発する瘴気がすごく強いね。まあ僕は魔族だから、大して気にならないけどさ」

「しかし、魔素によって魔法が相殺されるはずだぞ」


俺がそう言うと、ラファエルは少し考える。


「そうかい。たぶん君の魂は女神の加護で上書きされているから、影響を受けるんだろうね。本来であれば君も魔族だから、魔素の影響は受けないはずだよ。あのジークという男も魔族のようだけど、あの男が使用する魔法は本来魔族が使うものではないから、影響を受けるんだろう」



俺もそれについて考える。

確かに女神は、俺の魂は加護により上書きされたと言っていた。だから寿命も人間と同じになったし、本来魔族が使える闇魔法も使えないのだ。



「しかし俺が使っている転移魔法は、魔族しか使えないもののようだが」


「ああ、あれね。僕の見たところ、魔族の血を持つ者であれば発動できるものだね。君の魂は上書きされても、血は魔族のままだからだろう。実際、魔族の血が流れているから、君は猫の姿のままでも僕らと話ができるんじゃないか」



確かに、言われてみればその通りだった。



話をしながら歩いていると、数体の魔物に遭遇した。


しかしラファエルは、どんな魔物に遭遇してもほんの一撃で仕留めてしまう。

それもただ人差し指をくいっと上に向けるだけだ。




ドガアアアァァァァン!!!




魔素の影響を受けないラファエルは、火炎魔法で巨大な熊の魔物を一瞬で爆破した。



「あーあ、少しは強い相手がいるかと思ったんだけど、みんな弱いね。レオ君とレナ君と戦った時は楽しかったなあ、久々に本気が出せたから。……ねえしょこら君、一度僕と本気で戦ってみないかい?」


「そうしたいのは山々なんだが、そんなことしたらダンジョンが崩壊するぞ」


「うーん、そうか。なら、地上に出るまではお預けだね」




歩き続けるうちに、俺は聞き覚えのある咆哮を耳にする。


ラファエルとロベルトもピクッと耳を動かし、音のする方へと目を向けた。


「どうやら、アルク君の言っていた三頭竜のようだね」



ダンジョンでは、魔物は定期的に生み出される。

例え一度討伐した魔物でも、時間が経てばまた生まれてくるのだ。



雄叫びのする方へ向かうと、やはりそこにはあの三頭竜がいた。


体長20メートルの巨体で、三つの頭それぞれが周囲の様子を伺っている。




「へえ、ちょっとはマシに見えるね。ちなみに前回はしょこら君が倒したのかい?」

「ああ。蹴り三発で死んだぞ」

「なるほど。じゃあ僕も、物理攻撃で仕留めてみようかな」



そう言うとラファエルは、ロベルトを抱えたまま大きくジャンプした。

こんな時でも弟のことは離さないのだ。




グオオオオオオォォォォォォ!!!!!!




侵入者を察知した三頭竜は、以前と変わらぬ咆哮を上げる。

そして三つの頭全てから、一気にブレスを放出した。




ドガアアアァァァァァァァァン!!!!!




俺はジャンプして、ブレスをひょいとかわす。

しかし地面が全て火の海になり、岩は真っ赤になり溶け出している。


仕方ないので壁を蹴り、さらに高くジャンプした。


そしてより高い位置の壁に岩の出っ張りを発見し、とりあえずそこに着地する。



上から見下ろすと、ラファエルはまだ空中にいた。

俺ほどのジャンプ力はないので、三頭竜の頭を上から叩きつけることはできない。



ラファエルは逆に下から、向かって右端の頭を蹴り上げた。




グオオオオオオァァァァァ!!!!!!



右端の頭は苦痛の叫びを上げる。



それに触発されて、残り二つの頭がラファエル達の方へ向けられる。

ラファエルは壁を蹴って飛び上がり、二頭から発射されたブレスを空中でヒラリとかわした。



そのまま苦痛に悶えていた右端の頭を、ラファエルは再度蹴り上げる。



苦痛に悶えていたそれは、空中で蛇のように頭をくねらせる。

そしてそのままズシンと地面に倒れ、動かなくなった。



ラファエルは続けてジャンプし、後の二頭に同じく蹴りを食らわせようとする。


しかしその時、二つの頭は急にピタリと動きを停止した。



辺りは一瞬、静寂に満たされる。



すると、静止していた二頭が、続けてズウウウゥゥンと地面に倒れ込んだ。



「あーあ、ベル、闇魔法で殺しちゃったの?」


ラファエルは腕に抱えた弟を見つめて言った。



ロベルトは前方にかざしていた小さな手を引っ込める。


「あいつ、お兄ちゃんを、こうげきした………」



ロベルトは静かに怒っているようだ。

表面上では分からないがどうやらロベルトも、ラファエルのそれに匹敵する兄弟愛を抱いているらしい。



「ええ、お兄ちゃんはあんな奴平気だよ。でもありがとう、僕の可愛いベル~~~~………」



ラファエルはそう言って、また弟に頬ずりする。




やれやれ。



とにかくそうして呆気なく、三頭竜は倒された。

こいつら、いずれ本当に魔王の座を乗っ取ってしまうんじゃないか。



俺は観戦を終え、ラファエルが水魔法で冷却させた地面にスタッと降り立った。



「ああ、いい運動になったね。さ、戻ろうか」



まるでピクニックを終えたような調子でそう言い、ラファエルはロベルトを抱え、元来た道を引き返したのだった。



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