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92.同行者

「おい、そんな簡単に異世界に行って大丈夫なのかよ」



ラファエルの提案に舞い上がるウィルを余所に、俺は尋ねる。


「そもそも俺達がそっちの世界に行ったのは神の指示だ。女神が俺達を転移させた。神の意思に関係なく勝手に異世界に行ったりしたら、また面倒事が起きそうなんだが」



アルクも同じように考えていたようで、心配そうにラファエルを見つめた。


異世界への転移は、過去への転移とは異なり、世界を書き換えるような危険はないだろう。

しかしそれでも、またあの“自然の摂理”とやらが働いて、危険な目に遭わないとも限らない。



しかしラファエルは、俺達の懸念などどこ吹く風だった。



「なんだい、神のことが心配なのかい?ああそうか、確か、人間の世界にとって危険な人物は自然に排除されるんだってね。魔王と戦おうとしない勇者が死の運命をたどるのと同じで。全く、これだから人間の神は厄介なんだよね。僕は魔族だから関係ないけどさ。まあいいじゃないか、一度くらい異世界に行ったって、別にそのせいでこの世界が滅ぶ訳じゃあないだろう」



まるで昼に何を食べようかと話しているような軽い口振りだ。



「うーん、そうかも知れないけど………」


アルクは迷いながらちらっとウィルを見る。


しかしウィルが喜びで顔を輝かせているのを見て、観念したように俺に向かって言った。



「しょこら、もう、行くしかないよ………」

「ああ。……まあ確かにラファエルの言う通り、もう一度くらい異世界に行っても問題ないだろ」



結局俺達は、ウィルと共にもう一度、異世界に行くことに決めた。



「だけど今すぐはお断りだよ。僕とベルはもう少し、この世界を見て回りたいしね」


ラファエルはそう言って、またロベルトに頬ずりする。

やっと落ち着いて来たウィルは、その様子を見て不思議そうな顔をした。



「なあ、最初に会った時から、ずっとくっついてるよな。……兄弟なんだよな?」

「ああそうだよ。僕の可愛い弟さ」

「すげえな…………兄と弟でそこまで…………」


自分も兄を持つウィルは、若干顔を青くした。




俺達はそれから、ラファエルとロベルトに町を案内することとなる。


まずはヘイデン領を見て回り、それから王都、そしてエド町へと行く予定だ。



ちなみに俺達は町人に気付かれないように、ラファエルによる変身魔法を施してもらった。

山岳で生き埋めになってからすぐ町中で目撃されると、説明がつかないからだ。



とはいっても、アルクは髪色を栗色に変え、俺はいつもの猫耳忍者になり、耳と尻尾を隠しただけだ。




ヘイデンの町を散策しながら、ラファエルは相変わらず開いているのか分からない目で、興味深げに周囲を見回している。



「この世界の人間は、魔力を持つ者が多いね。僕らの世界の魔力は、ほとんど僕らが独り占めしてるようなものだからね、こんなに魔力に溢れた町は新鮮だよ。でもみんな弱いなあ。僕とベルなら簡単に制圧できそうだ」


「おい、冗談でもそんなこと言うなよ」


「あはは、ごめんごめん。安心しなよ、君達がいる限り僕らはこの世界に手出しできない。するつもりもないさ」



ウィルはラファエルの様子を観察しながら、こそっとアルクに囁く。


「なあ、なんかあの狐人、掴みどころがねえんだよな。それにどこか冷酷というか、歯向かうと殺されそうな恐ろしさを感じるんだが………」


「ああ、うん、でも大丈夫だと思うよ、ロベルト君に手を出さない限りは………」


アルクは苦笑しながら答える。



ウィルはそれを聞いて頷き、どこか感心したように言った。


「正直、アルク以上の奴を見たのは初めてだぜ」

「え、僕以上のって、どういうこと………?」

「いや、こっちの話だ、気にすんな」

「なんだよそれ、気になるじゃないか……!」




あれこれ言いながら町を歩いていると、ふと、見覚えのある二人が目に入る。

それはソフィアと、その兄のノールだった。



ソフィアは俺達を見つけて、ピタリと立ち止まる。

そしてアルクの髪色をじっと見つめた。



「ソフィア?どうし………」


ノールの問いかけには答えず、ソフィアはスタスタとこちらに近づいて来る。

そしてアルクにぎゅっとしがみ付いた。



髪色が違うだけでは、もちろんソフィアの目はごまかせないのだ。



「あ、ああ、ソフィア、奇遇だね……お兄さんとお出かけしてたの?」



アルクが尋ねると、ソフィアは首を振る。

そして勝手にアルクと手を繋ぎながら言った。


「もう用事はおわった。いまからお兄ちゃんといっしょにいる」

「え、ええ………」



ちなみにお兄ちゃんとはアルクの事だ。

ソフィアはノールのことは、お兄さまと呼んでいる。



そのノールは必死に怒りを押し隠すような笑顔で、こちらに近づいて来た。


「やあ、君は勇者か。なぜ髪の色が違うんだ。……おいソフィア、兄さんと一緒に行こう。ほら、ソフィアが食べたがっていた有名なケーキ屋に連れてってやるから………」

「いやだ」

「そうか………」



ノールはしゅんと肩を落とし、キッとアルクを睨みつけた。

そしてアルクの耳元に近づき、ブツブツと呪いの言葉を呟く。



「……貴様、また俺の妹に手を出したらただじゃおかないぞ。日が沈む前には送り返すんだ、分かったか。………調子にのるんじゃないぞ………」



そう言い捨てて、ノールはその場を去って行った。

何と言うか、会うたびに不憫さが増していくようだ。



その後ろ姿をじっと観察しながら、ラファエルも憐みの言葉をかける。


「僕とベル程ではないけど、あの男の妹への愛情は相当なものだよ。それが空回っているんだ、何とも不憫な男だね」



ウィルはただ可笑しそうに、終始笑いをこらえていた。




ソフィアはそれから、俺達と行動を共にする。


ラファエルとロベルトが異世界から来たことはさすがに気づいていない。

しかし俺達の会話から、今後どこかに行くことをソフィアは察したようだった。



「………お兄ちゃん、またどこかにいくの?」

「え、えっと……そうだね、ちょっと用があって………」

「わたしもいく」

「で、でもソフィア、結構遠い場所だし……それにまた危険かもしれないし……」



アルクの顔を見上げながら、ソフィアの頬はまた膨らみ出す。

そしてアルクの手を握る手に、ぎゅっと力を入れた。


「イタタ、えっと、ソフィア………」

「わたしもいく」

「ええと………」



アルクは助けを求めるように俺を見る。

しかし俺は面倒なので放っておいた。



するとラファエルが、にっこりと笑いながら言った。



「仕方ない、そんなに行きたいなら、一緒に行けばいいさ。……ただし行先を口外したら命の保障はないよ。分かったかい?」



ラファエルが脅すように言うが、ソフィアは一向に動じない。



じっとラファエルを見返しながら、こくりと頷いた。



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