91.興奮
俺達が地上に戻ると、護衛隊員達は胸を撫で下ろした。
結局ラファエルとロベルトは、隊員達の前には姿を見せないことにした。
あれこれ説明するのが面倒だったからだ。
一体何者で、どこから来て、どうやって俺達を救出したのか、質問攻めに遭うのが目に見えている。
そのため俺とアルクは、何とか自力で脱出したということにしておいた。
王宮へ送り届けるという隊員達の申し出を、アルクは丁重に断る。
そしてあれこれ理由をつけて、隊員達とは別行動で帰ることの許可を得たのだった。
俺が念話でユリアンに無事を伝えると、ユリアンは大きく鼻をすすり上げた。
「本当に良かったです、お二人がご無事で………この度は本当に申し訳ございませんでした…………」
俺達の体調を気遣ったユリアンは、王宮内の医務室にベッドを用意すると言う。
しかし俺達はそれも断っておいた。
確かにアルクは衰弱していたが、回復魔法で動けるようにはなるし、空腹も携帯食で間に合わせたのだ。
「さて、報告は済んだかい?なら一緒に転移しようじゃないか。どこへ行くかは君達に任せるよ」
隊員達と別れると、ラファエルは俺達に向かって言った。
その腕にはまだロベルトをしっかりと抱えている。
とにかくまずは、王都へ行ってユリアンに報告しなければならない。
地図に現れた白い光の正体と、ドラゴンの謎の死の原因がはっきりしたからだ。
さすがに異世界から来た存在を、誰彼構わず言いふらす訳にはいかない。
しかし誤魔化しようもないし、ユリアンとミーシャになら話しても問題はないだろう。
俺達の生き埋め事件は王都でも知れ渡っていたので、俺達はユリアンの執務室に直接転移した。
急に王都に姿を現すと怪しまれるからだ。
俺達がラファエル達と共に姿を現すと、ユリアンもミーシャも驚いた。
「お二人とも、本当にご無事でよかったです。……それで、ええと、しょこら様、アルク様、そちらの方々は………」
戸惑うユリアンに、俺は説明する。
二人に取っては突拍子もない話に、ユリアンもミーシャもただポカンとしていた。
「まったくあなた方は、本当に人知を超えた方々ですね。まさか異世界に行ったことがあるとは……」
ミーシャはため息をつきながら苦笑する。
そんなミーシャの姿をじっと観察しながら、ラファエルは言った。
「へえ、この世界の王室には魔族がいるんだね。すごく興味深いね」
その言葉を聞いて、ユリアンもミーシャも愕然とする。
そういえばラファエルは、人の魔力や魂の色のようなものが見えると言っていた。
おそらくそれで、ミーシャが魔族だと気づいたのだろう。
未知の能力に緊張感を高めたミーシャに、ラファエルは軽い調子で言う。
「ああ、そんなに警戒しなくて良いよ。僕もベルも、この世界で悪さをする気なんてないさ。そんなことしてもつまんないしね。最も、ベルが危害を加えられたら別だよ」
そう言いながらラファエルは、またロベルトに頬ずりした。
ユリアンへの報告を終えた俺達は、次にウィルの元へと向かう。
異世界から来た存在に最も会いたいのは、他でもないウィルだろうからだ。
ユリアンの執務室から、俺達はウィルの研究室へと転移した。
突然目の前に現れた俺達に、ウィルは思わず椅子からひっくり返りそうになった。
「うわっ!!!お、おい、びっくりするじゃねえか!!というか、無事だったんだな!!」
ウィルは心からほっとした顔をした。
まだ俺達の無事を、ユリアンから聞いていなかったらしい。
その机上には、走り書きされた大量の紙が相変わらず散らばっている。
「お前らが生き埋めになったって聞いて、何とか新しい転移魔法が作れねえか考えてたんだ……狭い空間で使えるようなやつを………」
頭を掻きながらウィルは言った。
そして今や満員となった研究室で、ラファエルとロベルトに目を向ける。
ちなみに研究室は狭いので、転移前に俺はすでに猫の姿に戻っていた。
「で、ええと、その二人は………」
まだ耳と尻尾を隠したままの二人を見て、ウィルが問いかける。
「公にはしてないが、こいつらが俺達を助けてくれた。詳しい説明は省くが、俺達が以前異世界に行ったときに会った獣人だ。今回はこいつらが異世界から転移してきた」
俺の簡単すぎる説明に、アルクは苦笑する。
ウィルは俺の言葉をすぐには理解できず、ポカンと口を開けている。
「異世界………?獣人…………?」
そこでラファエルとロベルトが、変装魔法を解いた。
黄金に輝く耳と尻尾が現れると、ウィルは完全に動きを停止する。
「こんにちは、僕はラファエルだよ。こっちは僕の弟のベル、ロベルトだ。よろしくね、しょこら君達のお友達」
そう言いながらも、ラファエルは大してウィルに興味がないようだ。
相変わらず腕に抱えている弟に頬ずりしながら、関係のない話を始める。
「ねえ、ベル、せっかくだからこの世界の温泉に行ってみようか。またお兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたいかい?」
ロベルトはこくりと頷く。
今度はウィルは、本当に椅子から転げ落ちた。
そのはずみで、バサバサと紙の束も机上から落ちる。
今や口をあんぐり開けて、目を見開いて二人の狐族を凝視した。
「……………う、うそだろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ウィルの驚嘆の叫びを聞いて、アルクは嬉しそうに微笑む。
ずっと異世界や獣人に憧れていたウィルの喜ぶ姿は、アルクをも喜ばせたのだ。
「それで、異世界ってのはどこにあるんだ!?そこは獣人の世界なのか!?何種類ぐらい獣人がいるんだ!!?一体どうやってここに転移を………というか、転移魔法陣を見せてくれ!!そっちの世界でもしょこら達の魔法が通用したなら、魔法発動の原理は同じってことだろ!!座標の指定は不要なのか!?それならしょこらの魔法陣もちょっと工夫すりゃあ同じように………」
ウィルの怒涛の質問が始まった。
しかしラファエルは面倒そうに、ロベルトの匂いを嗅ぎながら言った。
「うるさいなあ、転移魔法なら見せてあげるから黙りなよ。それに異世界に興味があるなら、直接見に来ればいいじゃあないか」




